
横浜DeNAベイスターズ・三森大貴インタビュー(前編)
新天地──。春季キャンプからチームに合流して約5カ月、横浜DeNAベイスターズの三森大貴は、柔らかな表情で、いま置かれている環境について次のように語る。
「だいぶチームには慣れましたね。同級生も多いですし、楽しく過ごしていますよ。みんなとにかく勝ちに向かって必死にやっていますし、移籍した時から『このチームでやるんだ!』という気持ちで日々過ごしてきました」
チームにとって貴重なユーティリティープレイヤー。広角に打ち分けることのできるバッティング技術と持ち味である走塁能力も含め、チームになくてはならない戦力として開幕から一軍に帯同している。
【人生初のサヨナラ安打】
三森の存在がDeNAにとって決定的なものとなったのは、6月8日の日本ハム戦(横浜スタジアム)だろう。
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3対4と1点を追う9回裏、一死から牧秀悟がヒットで出塁すると、三森は代走として送られた。2球目ですかさず盗塁を決めると、その後、宮?敏郎が左安打を放ち三森はホームに生還し同点に追いついた。
そして10回裏、京田陽太、桑原将志、佐野恵太が出塁し一死満塁で、三森が打席に入った。一打出ればサヨナラ勝ちの場面。プロになって9年目、三森はこれまでサヨナラ安打を放った経験はなかった。
「あの時は、みんながつないでくれて、たまたまいい場面でまわってきた。今まで(サヨナラ安打を)打ったことがないのはわかっていましたし、チャンスで巡ってきてうれしいという気持ちもありました」
緊張のシチュエーション。宮西尚生の投じたストレートが2球続けて外角へ外れた。
「2ボールになったので、最悪『空振りでもいいや』というぐらい割り切って強く振っていこうって思いました。とにかく中途半端にいかないように」
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3球目、宮西のストレートが甘く中に入ってくると、三森は強振し、ボールはライト前へ。
「とにかく『落ちてくれ!』と思いながら走っていましたね」
人生初のサヨナラヒット。笑顔の仲間たちから盛大にウォーターシャワーを浴びた。
「本当に打ててよかったなって。うれしかったし、なによりチームが勝てたことが一番ですよ」
そう言うと三森は微笑んだ。
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しかしこの試合、三森が一番緊張したのはサヨナラの場面ではなく、10回表の守備だったという。牧の代走であり、出場している選手を見れば、必然的にセカンドを守るしかなかった。セカンドはソフトバンク時代に主戦場としていたポジションであり問題ないように思えたが、DeNAに移籍してから内野はファーストとサードしか守っておらず、久しぶりのポジションに身体が固くなるのを感じていた。
「これまでずっとやってきたポジションとはいえ、このチームではやってはいないですし、本当に開幕戦のような、いやそれ以上の緊張感がありましたね」
守備についた時、青森山田高校の先輩でもあるショートの京田に、三森は「たぶん僕、ヤバいんで......」と声をかけたという。
結局ボールは飛んでこずに事なきを得たが、三森ほどのキャリアがある選手でも不安に駆られるのかと驚かされた一方、やはり準備も含めプロの世界はシビアなのだと思わずにはいられなかった。
「選手の誰もがそういうことを思いながらやっているだろうし、そのなかでいかに冷静にやれるのかが大事なことだと思います」
確信を込め、三森はそう言った。
【古巣・ソフトバンクに3連敗】
チーム事情によりユーティリティー性を求められている三森ではあるが、ソフトバンク時代、それほど多くセカンド以外でプレーしてきたわけではない。そのなかで、試行錯誤しながら期待に応えようと努力をしている。
「ファーストはそれなりに経験があったのであまり問題はないのですが、やっぱりサードはほとんど経験がないので、出たとこ勝負って面も正直言ってあるんですよ。試合を通じて打球速度だったり、ファーストまでの距離感だったり、ボールが飛んでくるたびに確かめて、経験を重ね、積み上げているといった感覚です。サードはセカンドよりも打者との距離が近いですし、打球スピードはかなり速いので、足を使うというよりも、いかに反応をよくしてハンドリングよく捕れるかが勝負だと思うので、そこはもう慣れていくしかない」
そう言うと、三森はふっと表情を緩めた。
「ベイスターズに来てから環境も含めて新しいことが多いですし、1年目からいろいろな経験をさせてもらっているので、これが将来自分のためになればいいなって思っています。求められるところでやって、それに応えて、結果を出すことで出場機会を得ることが大事だと思いますし、とにかく満足することなく、もっともっといいものを出していけるようにしたいですね」
横浜という新たな土地で着実に一歩一歩を踏みしめている三森だが、セ・パ交流戦では古巣のソフトバンクと相対した。1戦目は代打で出場し、2戦目はファースト、3戦目はサードでスタメンを飾ったが、8打数1安打と結果を出すことができず、チームも3連敗を喫した。初めて対戦する古巣は、三森の目にどのように映ったのだろうか。
「ほかのチームと対戦するよりも、変な緊張感がありましたね。思ったのは、本当にそつなく強いなってことです。ミスをすることなく、淡々と試合を進めて、相手よりも1点でも多く取ることに全力を傾ける。そういう意味ではイメージどおりというか、自分がホークス時代に感じていたまんまのチームでした」
絶対王者の強さを、身をもって知った初めての対戦だった。では、新たに身を置くDeNAは、三森の目にどのように映っているのだろうか。
つづく>>
三森大貴(みもり・まさき)/1999年2月21日生まれ。埼玉県出身。青森山田高では2年秋から4番に座り、東北大会で打率.571をマークし、センバツ出場に貢献した。2016年のドラフトでソフトバンクから4位で指名され入団。3年目の19年に一軍出場を果たし、21年、22年と100試合以上に出場。24年オフにトレードでDeNAに移籍。ユーティリティプレーヤーとして存在感を発揮している。