石丸伸二氏の街頭演説をユーチューブでライブ配信する「切り抜き職人」の元会社員男性=6月27日、東京都大田区 ユーチューブなどを中心とした動画投稿サイトの浸透により、選挙結果にも影響を及ぼすようになったとされるSNS。中でも、政党や候補者の動画を短く編集し次々と投稿する「切り抜き職人」の果たす役割は大きい。特定政党や候補者の支援か、再生数に伴う広告収入狙いか。2人の職人に話を聞いた。
東京都内の30代の元会社員男性が初めてユーチューブに切り抜き動画を公開したのは、2023年12月。広島県安芸高田市長(当時)として記者会見した石丸伸二氏の動画を目にし「こんなに論理的に話す人がいるのか」と衝撃を受けた一方、他の職人による切り抜き動画を見て、「自分の方がより分かりやすく伝えられる」と感じたという。
他の会見動画などを繰り返し視聴し、「(石丸氏の)考え方を理解した」上で、若者向けに1分程度の「ショート動画」を中心に投稿した。映像編集は独学だが、最も見られた1本は投稿後1時間で10万回、これまでに約1200万回再生された。チャンネル登録者は半年で約12万人、現在は約29万人に上り、動画総数は1300本を超えた。
広告収入や視聴者から贈られるチップ「投げ銭」で、収入は会社員時代の倍に。ただ、ほぼ毎日投稿しており、街頭演説のライブ配信や編集作業などで「働く時間も1日約16時間に倍増した」。都知事選や参院選などの期間中は石丸氏を追って自腹で各地を駆け回るほか、カメラやパソコンの機材費などに年間1000万円ほどかかる。
「国民が政治に関心を持って投票できるようにすることが目的。収益だけではない」と強調する男性。作業の際は画面の向こう側にいる多くの視聴者を意識しているといい、「投稿する動画に公益性は欠かせない。責任も伴う」と語った。
北海道帯広市の30代会社員男性は昨年9月、「話題の切り抜き動画ならヒットする」と考え、副業として自身のユーチューブチャンネルを開設した。帰宅後、午後9時ごろから編集作業に着手。切り抜きを認めている政党や候補者の公式動画などを確認し、10〜15分ほどの動画を投稿している。
ただ、1本をまとめるのに計6時間程度かかっており、定期的な投稿はできておらず、収益化には至っていない。「参院選期間は切り抜き動画が注目される。投稿数を増やしていきたい」と意気込んでいる。
一方、男性は投稿が拡散して話題となる「バズり」を狙った過激な表現は避けている。事実よりも関心を集めることを優先する「アテンション・エコノミー」について、「ビジネスとしては正しい」としながらも、「好きな政治家を応援するのが一番だ」と話した。