「心臓えぐられた」 愛娘手にかけるまで 孤立する医療的ケア児の親

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2025年07月18日 20:32  毎日新聞

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毎日新聞

イメージ写真=ゲッティ

 医療的ケア児だった長女の人工呼吸器を取り外し窒息死させた母親に対し、18日の福岡地裁判決はケアを巡る過酷な状況を踏まえ、殺人罪では異例の執行猶予を付けた。事件は、ケアに対する周囲の無理解が当事者を孤立させ、SOSを出しづらい実態があるなど課題も浮き彫りにした。


 「娘の相談はいろんな人にできるけれど、自分の心の傷は誰にも言えなかった」。福崎純子被告(45)は公判の中で、長女の心菜(ここな)さん(当時7歳)殺害に至るまでの介護の日々を振り返り、心境を吐露した。


 親族からは「(心菜さんが)このまま大きくなったら、どうする」などと配慮に欠けた言葉を度々掛けられたと明かし、「心臓をえぐられたような気持ち」だったと供述。孤立感を深めたが、我慢して気丈にふるまっていたという。


 医療的ケア児は、日々の生活を送る上で人工呼吸器の使用や、たんの吸引など一定の医療支援が必要な子どもで、全国に約2万人いるとされる。心菜さんは出生時から人工呼吸器が不可欠な難病を患い、福崎被告は訪問看護やデイサービスなど8種類の福祉サービスを利用。平日はほぼ1人で、休日は夫と共にたんの吸引や入浴、食事の補助などの自宅介護を毎日欠かさず、5年以上続けてきた。


 夜間はたんを出しやすくするため、心菜さんの姿勢を定期的に変える必要があり、朝までまとまった睡眠が取れるのは月に9回程度。福崎被告は「長女はかけがえのない宝物。介護を負担に思ったことはない」と繰り返したが、「これ以上、可哀そうと思われたくない」との理由で周囲に相談できなかったとも明かした。福崎被告が利用していたデイサービス施設の看護師、岩村由香さん(48)は被告について「表情が暗かったとスタッフから聞いていた。1人で悩んでいたのかなと思う」と振り返った。


 脳性まひがあり、人工呼吸器が必要な長女、光ちゃん(4)を育てる福岡市の原田恵理さん(40)は事件を「ひとごとではない」と受け止める。昼夜を問わず、夫と交代で介護し、光ちゃんの体調が悪い時はたんを1時間に10回以上吸引しなければならない時もある。「マイナス思考になる時もあるが、娘を大切に育てている。娘を批判する言動を受けたら、本当に苦しくなると思う」と話した。


 医療的ケア児を養育する家族の問題に詳しい新潟県立看護大の大久保明子教授(小児看護学)は「母親の中には、障害児を産んだことを自身の責任と捉える人も少なくない。家族にも助けを求められず、極限まで苦痛を抱え込んでしまう」と指摘。事件を繰り返さないために「行政や支援機関は、サポートが必要な家庭に積極的に支援制度の利用を働きかけ、ささいな困り事も早期にキャッチして支援につなげることが重要だ」と話す。【森永亨】



このニュースに関するつぶやき

  • 親の心のケアが大切だよね。それとフォロー出来る体制がもっとあって、親の休息出来る時間が持てる様にして欲しいね。国は福祉や医療に力を入れて欲しいね。
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