【塩漬け肉定食】圧倒的メニュー数を誇る香港料理店にて、至高の豚肉料理と出会う:パリッコ『今週のハマりめし』第202回

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2025年09月05日 12:10  週プレNEWS

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ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

【写真】豚の脂身がたまらない

* * *

ランチを食べる店を求め、池袋駅西口界隈をあてもなく散策していたら、ちょっとおもしろそうな店を見つけた。

「WONGPAI」。漢字では「王牌」と書く、飲茶などをはじめとした香港料理の店らしい。店頭に掲げられた写真つきのメニューがどれもうまそう、かつ品数が多くてわくわくする。


定食類も豊富で、なかでも個人的に気になったのが「塩漬け肉定食」という一品。詳細はわからないけれど、塩漬け肉という言葉の響きに妙にそそられる。


加えて決め手となったのが「今日特価 プレミアム・モルツ 香るエール 何倍でも半額です」と手書きされた看板。あぁ、もう、決まりだな。


それほど広くない店内だが、天井が高く開放感がある。タイルばりの壁やカウンター席もしゃれている。カウンターに着き、なにはともあれプレミアム・モルツ。半額で税込290円。

グラスまでキンキンに冷えたプレモルをぐいっと飲めば、すでに気分は最高。上を向いたその視線のまま壁に目をやると、あらためてものすごい品数だ。

そんなだからなかなか塩漬け肉定食が見つけられず、タブレット片手に店員さんに聞いてみて笑った。「これです」と指さされたその先には「香港風腸詰めとハムかけご飯」なるメニューが。確かに写真は同じだけど、表の看板と名前がぜんぜん違うじゃん! 本場系中華料理店のこのラフなスタンスが僕は大好きで、これこれ、と、嬉しくなってしまう。


それからもう1品。定食で量はじゅうぶんに足りるだろうけど、どうしても気になったメニューがある。「厚揚げの醤油煮込み」。写真を見るとフレンチトーストのような見た目で、じっくりと煮込まれたであろう大きな厚揚げが艶やかな醤油色に染まっており、ミントらしき葉が添えてある。厚揚げ好きとして、これはどうしても食べてみたい。今日のデッキの完成だ。


すぐに届いたのは、厚揚げ。それを見てまたまた笑う。


というのもこれが、どうみてもただ炙った厚揚げ。ぜんぜんメニューと違う! 組体操のピラミッドのように盛り付けられ、醤油が回しかけられ、上にのっているのはフライドエシャロットだろうか。このおおらかさ。キュートさ。これこれ!

と、まったく醤油煮込みではなかったけど当然うまい厚揚げをつまみにビールを飲んでいると、到着。塩漬け肉定食、あらため、香港風腸詰めとハムかけご飯。


おおお、今まで食べたことのない料理ではありつつ、なんともうまそうだ。腸詰と豚肉(ハム?)が大皿のごはんを覆いつくすようにたっぷりと盛られ、てらてらと輝いている。かたわらには青菜の炒めものと、ゆで玉子。全体に黒っぽいたれがかけられていて、味見してみると醤油ベースでほんのりと甘い、シンプルな味わい。


まずは腸詰から。食感は当然ねっちり硬めで、ほのかに八角の香りがするくらいで、スパイス感はそんなに強くない。主役なのは、凝縮された肉の旨味。味ではなく、うまさが濃い。

こういう干し肉系って、たとえば牛丼のような柔らかい肉とは違い、あわててごはんをかっこむ食べかたをしない。まずは肉をよ〜く味わって、その余韻のなかに白米を追加する。ふたたびよ〜く味わう。たれ、肉、白米の調和。そしてビールをごくり。これは、いい......。

次に豚肉。僕は肉のなかでいちばん豚が好きで、特に脂身には崇拝に近い念を抱いている。その脂身がほのかに透きとおり、まるで宝石のように輝いて見える。もはや冷静でなんていられない。


こちらもまた、塩漬けと干しの工程を経て、甘みと食感がぎゅぎゅっと濃縮されている。噛めば噛むほどにうまい。脂身部分だけは食感が少し違い、サクッとしていて、噛み締めた瞬間に高貴な甘さがじゅわっと溢れ出す。1枚の豚肉に宿る、なんとも多層的な美味しさ。今日、この店に出会えて良かった。


ゆっくりゆっくりと1皿の料理を味わいつつ、おかわりも半額の生ビールを堪能し、ごちそうさまでした。

あぁ、今日もいい店、いい料理を知ることができた。特に、メニューの正式名称である「ハム」と呼ぶのもしっくりこないので「塩漬け豚肉」と呼ばせてもらいたい一品。確実に、僕の大好きな豚肉料理の仲間入りだ。

取材・文・撮影/パリッコ

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