「アンナミラーズ」復活の理由 空白の3年半でも消えなかったファンの熱量

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2026年04月19日 08:20  ITmedia ビジネスオンライン

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アンナミラーズ、3年半ぶりに帰ってきた

 3年半ぶりに「アンナミラーズ」が帰ってきた。2月13日、東京・南青山での再オープン当日はメニューが完売し、3時間早く閉店せざるを得ないほどの盛況だった。アメリカンフードとホームメイドパイなどを提供する同店は空白の期間を経て、なぜ今、復活を決断したのか。


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 復活した店舗の運営を担うのは、井村屋フードサービス(三重県津市)だ。「あずきバー」で知られる井村屋グループが2025年10月に飲食事業を分社化して設立した事業会社である。


 アンナミラーズは、1973年に当時の社長・井村二郎氏が渡航先で偶然出会ったのをきっかけに、東京・青山に1号店をオープン。関東圏で店舗を拡大したが、2012年以降は高輪店のみとなった。


 その高輪店も好立地を背景に黒字を維持していたが、2022年8月、品川駅前の再開発に伴う立ち退き要請を受けて閉店した。閉店が報じられると店頭に連日行列ができ、週末は数時間待ちの日もあったという。


 閉店後もオンラインショップで看板商品のホームメイドパイの販売を続け、駅構内での催事にも不定期で出店していたが、グルメサイトや井村屋の公式窓口には、実店舗の復活を望む声が絶えなかった。


●閉店決定後から「必ず戻る」が合言葉に


 井村屋フードサービスの社内では、閉店が決まった当初から「We shall return(必ず戻ってくる)」を合言葉に、再出店に向けたコンセプトの見直しと出店候補地の選定を続けていた。条件として定めたのは、情報発信の拠点になり得ること、曜日や時間帯による来客の波が小さいこと、エリア自体に活気があることだった。


 神宮外苑の再開発が進む南青山はその条件を満たし、日本における同ブランド発祥の地でもあった。「条件に合うよいロケーションの出店候補が見つかったことが決め手だった」と井村屋フードサービスのアドバイザーの鼎正教(かなえ・まさのり)氏は振り返る。


 復活までの間、年に3〜4回のポップアップショップを通じて、客の声に触れる機会は続いていた。品川駅や横浜高島屋で催事を行えば長蛇の列ができ、再出店を望む声は高まっていた。


 なぜ、3年半たっても熱量は薄れなかったのか。一つには、代わりがいないという事情がある。スクラッチメイドのアメリカンパイをフルサービスで提供する業態は、国内にほぼ存在しない。


 加えて、閉店がかえって希少性を高め、オンラインや催事での限定的な接点がブランドへの愛着を維持した面もある。客が覚えているのは、パイの味だけではない。制服、接客、店の空気を含めた「体験の記憶」がファンをつなぎとめていた。


 こうした手応えを受けて、社内ではまず駅近の小型店を検討した。催事ではクリームパイを求める声が特に多く、ベーカリーを併設したテークアウト型のパイショップであれば需要に合うほか、物件を確保しやすく、投資リスクも抑えられる。


●復活に3年半を要した理由


 しかし、検討を重ねる中で方針は変わった。アメリカンフードとホームメイドパイを、特徴的なユニフォームを着たスタッフが笑顔で提供する。その体験こそがアンナミラーズであり、テークアウト専門ではその体験価値を再現できない。「フルサービスのスタイルこそが、あるべき姿だと考えた」と鼎氏は説明する。


 昨今の飲食業界ではモバイルオーダーなど、省人化とコスト削減が主流になりつつある。その流れに逆行する判断だが、コーヒーのおかわりを提案し、滞在時間を長くする接客は、回転率では測れないブランドへの愛着を生む。


 構想が50坪規模のフルサービス型レストランに変わったことで、物件の条件も厳しくなった。テナントビルの1階で40坪以上、駅に近くメインストリートに面していること。条件を満たす物件にたどり着くまでに、相応の時間がかかった。


 開業時期も当初は2025年12月を予定していたが、約2カ月ずれ込んだ。3年半ぶりとなる実店舗の出店で施工業者の確保に手間取ったほか、津市で同時進行していた複合型スイーツ店舗「ラッセリア」(2月27日オープン)の工事が重なったためだ。


●何を残し、何を刷新したか


 復活にあたっては「不易流行」の考え方を重視した。変えてはいけないものを守りながら、時代に合わせて変化を重ねるという姿勢だ。


 「品質」(Quality)、「笑顔と心のこもったサービス」(Smile & Hospitality)、「清潔感」(Cleanliness)、「店の雰囲気」(Atmosphere)という創業時から引き継ぐコンセプトは、ブランドの根幹でもあり、そこは変えていない。パイを店内で手作りする「スクラッチメイド」という製法、特徴的なユニフォームによる接客スタイルも同様だ。


 一方、店舗が高輪店より小さくなったことで、メニュー構成には手を加えた。アントレやパスタを外して提供品目を絞り込みつつ、残したメニューの質を引き上げる方向に振った。


 例えば、ハンバーガーはバンズとパティのレシピを刷新。コーヒーを含むソフトドリンクの一部は、おかわりを無料で提供している。


 店舗設計についても、南青山店は1階にベーカリーカウンターを配置し、スクラッチメイドのパイが並ぶ様子を通りから見えるようにした。2階にキッチンと28席の客席を設け、イートインとテークアウトの両方に対応。店頭にはデジタルサイネージを設置し、人気のパイやブランドの歴史を紹介している。


 見せ方を変えても、つくり方は変えない。メニューを減らしても、残したものの質を上げる。変えなかった「芯」となる部分があるからこそ、刷新すべきポイントも定まったといえる。


●手応えと課題、今後の展望


 開業から約1カ月半、南青山店の売り上げは、当初計画を1割ほど上回る水準で推移している。テークアウトとイートインの比率は、当初テークアウトが6割を占めたが、現在はほぼ半々と、設計段階の想定通りに落ち着いた。


 オープン直後には、JR五反田駅でポップアップショップも開催したところ、「南青山店にも必ず行く」という声が多く寄せられるなど盛況だった。井村屋フードサービスは手応えを感じつつも、このまま都内に2号店を出せば集客が分散しかねないとの懸念も示す。次の出店は、エリアやメニュー構成を慎重に見極めていく考えだ。


 課題もある。原材料やエネルギーコストの高騰に加え、フルサービスを掲げているので、人材の質が店舗の質に直結する。「優秀な人材の確保は、今後の展開において最重要の課題だ」と井村屋フードサービス社長の北角収氏は語る。各エリアの専門学校や高校へのアプローチを強化し、安定した採用基盤をつくる方針だ。


 ただ、新たな人材の確保は今後の課題だとしても、このブランドには一定の求心力がある。再オープンを発表した昨年6月以降、かつてアルバイトとして働いていた元スタッフから問い合わせが相次いだ。


 オープン当日には、再びスタッフとして現場に入る元アルバイトだけでなく、ボランティアで来店客の列整理を買って出る人もいた。閉店後も訪れた客の多くは「今日はだめでもまた来る」と言い残したという。3年半かけて戻ってきたブランドに、人もまた戻ってきているようだ。


(カワブチカズキ)


※下記の関連記事にある『【完全版】「アンナミラーズ」復活の理由 空白の3年半でも消えなかったファンの熱量』では、配信していない豊富な写真とともに記事を閲覧できます。



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  • VTuberとコラボしたらおもろいのに。
    • イイネ!15
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