入社した社員が働きやすいよう配慮する企業も増えるなか、それを利用する悪質な新入社員もいるようだ。今回は「鋼のメンタルを持った新入社員のことが忘れられない」と言う岡田純也さん(仮名・47歳)に話を聞いた。
◆固定給5万円の営業マン
岡田さんは「固定給+契約が取れた場合にはプラス」という主にOA機器や通信機器の販売・レンタル会社で働き、ここ10年ほどは管理職として新人教育を任されている。「管理職として昇進するまで営業として働いてきた経験も活かせる、やりがいのある仕事」だと話す。
「ウチの会社は営業職の固定給が5万円程度と低い代わりにノルマはなく、うるさくも言われない。さらに働き方改革など世の中の動きを受け、働きやすい環境づくりにも注力。自由が利く働きやすい会社だと営業社員からの評判も上々です」
ただ、営業職の固定給は5万円。そのため「ウチの会社に入社したからには、しっかりと稼げるように教育してあげたいと思っています」と、強い信念をもって働く岡田さん。だが、そんな信念を打ち砕かれそうになることもあるという。
◆半年たっても契約ゼロの新入社員
「忘れもしないのは、新卒で入社してきたKさん(男性・22歳)。正直、Kさんみたいな人が本当に実在するとは驚きでしかありません。最初は、まったく契約が取れないのもKさんなりに努力しての結果だと思っていました」
入社して半年経ってもまったく契約が取れないKさんのため、本を読み漁って使えそうな営業テクニックをまとめたものを渡したり、営業に効果のありそうな心理学の本を自腹でプレゼントしたりしたこともある。檄を飛ばしてみたこともあるが、無反応。
「そして、まったく契約が取れないという状況が1年近く続きました。こういったことは前代未聞だったこともあり、さすがにどういう営業をやっているのか、Kさんといっしょに取引先を回ってみることにしたのです」
すると、「キミ(Kさん)から提案してくれるなんて、はじめてだね」と驚く取引先の担当者もいたことから、岡田さんの中で不審感が芽生えていった。
◆営業先に出て4時間もサボっていた
「提案は営業の基本。提案もしないのに、契約が取れるわけがないですよね。私の上司と相談した結果、まずはKさんがどのような行動を取っているかを調査し、それから今後の対策を考えようということになりました。そして、Kさんの営業のスタイルを尾行。すると、驚きと失望の連続が待っていたんです」
Kさんは取引先をきちんと訪問していましたが、入ったと思ったらすぐ出てくる。普通なら受付で担当者につないでもらってから納品やメンテナンスをし、営業をかけるため短くても30分ほどはかかるもの。すぐに、Kさんがサボっていることが判明する。
「取引先での滞在時間がやたら短い。日によって違いはありましたが、昼休みを除いても午前中と午後の間で3〜4時間ほどサボっていました。ただ、パチンコやスロットに行くというわけでもなく、ひたすら車で爆睡。迷わず昼寝スポットへ入っていく姿も、腹が立ちました」
上司も交えて本人を問いただすと、Kさんは「取引先に行かないと、会社に電話が掛かってきてサボっているのがバレる。だから、とりあえずはきちんと足を運んでいた」と白状。最初は「もうしません」と反省の様子をみせていた。
◆住んでいるのは実家。給料5万円でもいい
「ただ、こちらとしては1年近くもサボリ続けていたKさんに反省してもらう意味も込め、反省点や今後のことについて、とことん話し合う必要がありました。ところが、話が長くなってくると面倒になってきたのか、開き直ってきたのです」
そして、営業職の“固定給”と“サボってもバレない自由な時間がある”ということが目当てで入社したと暴露。岡田さんが「固定給と言っても、5万円しかないのに満足してたのか?」と聞いても、「住んでいるのは実家だし、別に月5万円でも困らない」と反論。
「さらに『夜ゲームをするため、昼間に睡眠をとっていた』『仕事をサボってアルバイト分ぐらいのお金が稼げるなら、むしろラッキー』などと言いはじめ、驚愕しました。Kさんは話し合いの末に自主退社という形で会社を辞めましたが、モヤモヤしたままです」
さらに新人教育をするときは、「本人に響いているか」「本人のためになっているか」と苦しむようになった岡田さん。どんなにすばらしいアドバイスも、最初からヤル気のない人間には響かないことも多い。ある程度のところで諦めるのも、自分を守る術といえるかもしれない。
<TEXT/夏川夏実>
―[とんでも新入社員録]―
【夏川夏実】
ワクワクを求めて全国徘徊中。幽霊と宇宙人の存在に怯えながらも、都市伝説には興味津々。さまざまな分野を取材したいと考え、常にネタを探し続けるフリーライター。Twitter:@natukawanatumi5