BTS擁するHYBE発 1.5億DL超“推し活”アプリ「Weverse」がエンタメの常識を覆すワケ

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2024年09月15日 13:31  ITmedia ビジネスオンライン

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ITmedia ビジネスオンラインのインタビューに応じたWeverse Companyのムン・ジスGM

 BTSやSEVENTEEN、LE SSERAFIMなどグローバルアーティストを擁するエンターテインメントライフスタイルプラットフォーム企業HYBE。NVIDIAやMicrosoftなどと共に、米国の経済誌『FAST COMPANY』による「2024年 世界で最も革新的な企業50社」にも選ばれた。


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 HYBEの強みは、2019年にリリースし、累計ダウンロード数が1.5億を超えるファンのためのオールインワンアプリ「Weverse」を開発・運営しているWeverse Companyを傘下に置いていることだ。


 Weverseは、コンサートのオンライン視聴など、ワンストップでさまざまなことができる「スーパーアプリ」を標ぼうしている。AKB48やBLACKPINKといったHYBE LABELS以外のアーティストも参加するほどの存在感だ。


 2022年6月に設立された日本での拠点となるWeverse Companyのムン・ジスGMが単独インタビューに応じた。


●MAU約1000万 「業界拡大のためにテクノロジーの力が必要」


 「Weverseのように総合的に『推し活』を楽しめるサービスは他にあまりないですね」


 海外にはWeverseのようなワンストップアプリがあるのかと聞くと、ムンGMは非常に流ちょうな日本語でこう答えた。学生時代に日本語を学び、ゲーム業界でキャリアを築いてきたと話す彼は、テクノロジーの発展にも明るい。


 Weverseは、MAU(月間のアクティブユーザー)約1000万人、累計LIVE再生数は20億強を誇る。245カ国・地域で利用され15の言語にリアルタイムで翻訳可能だ。


 主な機能は「コミュニティ」「コマース」「メディア」「ライブストリーム」などに分かれる。コンサートのオンライン視聴、テキストを通したファンとアーティストの交流、ファンクラブメンバー限定のコンテンツ、コンサート会場での物販受取サービスの手配など多彩なサービスをこのアプリ1つで提供する形だ。


 スイスの国際経営開発研究所(IMD)が2023年11月に発表した「世界デジタル競争力ランキング2023」で韓国は第6位(日本32位)だった。国連が2022年9月に公表した「デジタル政府ランキング2022」でも第3位(同14位)にランクインしていて、韓国は全体的にデジタル技術の使い方に長けている。それは音楽業界においても同様だ。


 ムンGMも「グローバルの大手事務所と競争していかないといけませんし、今後のエンタメ業界全体を拡大させていくためには、テクノロジーの力が絶対に必要」だと言い切る。


 HYBEの事業は「レーベル」「ソリューション」「プラットフォーム」の3つが柱だ。そのトライアングルのソリューション内に、AIオーディオ技術を持つSupertoneやゲームを始めとしたインタラクティブメディアを提供するHYBE IMを含めたテック企業を抱えている。


 「各種IPと、IT技術を融合させて、ファンが気軽に使えるアプリなどをどれだけ実装できるか。今後はコンテンツの勝負になると推測しています。つまり、よりよいプラットフォームを作らなければ、グローバルで事業展開することが難しくなるのです」


 その考えを具現化させたのがWeverseということになる。開発には主に2つのきっかけがあったという。


 「1つ目は、コンサート商品の販売会場で暑い中、何時間も並んでいるファンの姿でした。『アーティストをこれだけ愛してもらっているのに、こんなに負担をかけていいのか?』ということです。もう1つは、それまでのビジネスがオフラインを中心とした構成になっている点でした。アーティストの立場としては、ファンがどんなアクションをしているのか、自分のファンはそもそも誰なのかという情報が見えづらいのです。つまり、ファンが何を求めているのかもつかみづらいということです」


 ファンとアーティストの両方のニーズに応えようとした結果が、プラットフォームの開発につながったのだ。


 「データを通じてファンの欲しいものが分かれば(アルバムで自分が作りたい曲を作るのは別として)イベントを企画したり、どんな商品が今のトレンドに合っているのかが理解できたりします。この部分が事業推進における重要なアプローチのひとつだと考えました」


 アプリは使いやすくなければ、継続して使ってもらえない。従ってUIのデザインが重要だ。ただ、ファンの意見を全て取り入れると、機能が増えて使いにくくもなる。2024年3月にマクロミルが発表した調査結果を見ると、Weverse利用者の満足度は87%と高い。一方、不満な点を見ると「使い方が分からない」が48.1%、「機能が多すぎて使えていない」が32.7%だった。


 相反する2つの要素を両立するには、いかにしてUIを作り込めばいのだろうか。ムンGMは、韓国本社には150人規模の各種エンジニアが在籍していることを話す。


 「ユーザーの不便さをなるべく解消したいというところから始まっていますので、ユーザーの意見を聞き、改善するのは当たり前です。ただ、いろいろな機能があれば、ややこしくなるのも避けられません。エンジニアや、企画担当などさまざまな担当者と話し合い、改善箇所について慎重に決めていきたいと思います」


●日本で配送センター建設を視野


 日本のアーティストにはいわゆる「ファンクラブ」が昔からある。ある意味、伝統的な形で運営されてきた。他方Wevserseは、デジタル時代のファンの推し活ツールともいえる。業界の慣習が残る日本のエンタメ市場において、Weverseをより浸透させるために、どのような施策を講じていくのか。


 「人間には情緒的なところもありますから、フィジカル的な手法も必要ではあると思います。ただ今後は、デジタル化というトレンドには逆らえません。グローバル共通のプラットフォームとして特化するために、どうバランスよく組み立てられるかを模索しています」


 メディアブリーフィングでは、WEVERSE JAPANとして「決済と物流の強化をしたい」と語っていた。グッズ販売をよりスムーズにしたい意図があるからかと聞くと「その通りです。ファンはコレクション集めに喜びを感じる人が多いのです」と話す。


 「私たち自らがコントロールできる物流システムも一定以上は築いておかなければいけないと考えました。これは、配送事情が発達している日本や韓国だからできることでもあります。より広い範囲の地域にいるファンのニーズに応えるため、希望としては、いつかは日本の倉庫からグローバルに配送できるようになるといいですね」


●他の事務所のアーティストにも使ってもらう努力


 HYBEは3月、大手音楽会社ユニバーサルミュージックグループとグローバル独占流通契約を締結した。ユニバーサル傘下のアーティストが今後、Weverseに参加しても何ら不思議ではない。


 すでにAKB48、BLACKPINKのほか、Conan Gray、eillなどがWeverseにコミュニティーを開設したように、HYBE LABELS以外のアーティストを増やす戦略を取っている。ムンGMは「こちらから、他の事務所やアーティストにアプローチします。将来的に幅広い分野の著名人に参加していただきたいですね」と話す。


 仮に筆者がHYBE LABELS以外のアーティストだとすると「Weverseを使いませんか?」と誘われても、他の事務所発のアプリだから、加入することにちゅうちょするだろう。競合の音楽事務所の不安をふっしょくするのは容易ではなさそうだ。だが、実際にコミュニティーを開設しているアーティストはHYBE LABELS以外のアーティストが90%を占める。


 「WeverseはHYBEの傘下ですが、独立した事業であり法人です。あくまでHYBEの傘下ではあるものの、プラットフォーム企業として、中立性を保とうとしています。純粋にさまざまなレーベルやアーティストのニーズに合わせてサービスを提供し、サポートし続けてきました。多くの企業が受け入れてくれた背景には、そこが理解され、信用を得たのだと思います」


 Weverseで得られたデータについては、アーティストやレーベル間でオープンにはせず、セキュリティを維持している。だが、アーティスト側から要望があれば、自分のファンダム(ファン集団)をより理解するために、データを共有することもあるという。


 「データをシェアして、また、次にこんなイベントをやったほうがいいのではないかと話したり、提案したりすることもあります。データを独占しようとする考えはありません」


●「音楽業界は最もデジタル化が進んでいない」


 以上がインタビュー内容だ。ムンGMが取材中に、こう語っていたのが印象的だった。


 「映画、アニメなどのいろいろなエンタメのコンテンツがありますが、私が見る限りでは音楽業界が、最もデジタル化が進んでいないように思えます。逆にいえば、不便さに人々が慣れてしまったんでしょうね」


 ムンGMはもともとゲーム業界にいただけあって、デジタル化がいかに重要かを理解していたのだろう。この取材のあと、たまたま話した20代の日本人女性がWeverseをインストールしていて、ムンGMの日本市場攻略が順調であることを実感した。日本でのビジネスを理解しているムンGMが組織を率いることで、Weverseはさらに広まりそうな気配だ。


(武田信晃、アイティメディア今野大一)



このニュースに関するつぶやき

  • 記事をよく読むと「運営は韓国企業」だね。これだと、日本で受け入れられるのはごく少数派かな、「韓国企業と聞いて嫌悪感抱く人いる」し。
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