GoPro「凋落」の理由、華々しいスタートアップの紆余曲折を振り返る 大きな分岐点は8年前に

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2024年10月02日 12:31  ITmedia NEWS

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 例年9月ごろに新製品を発表するGoProだが、今年は9月11日に新モデル、「GoPro HERO 13 Black」と小型の「HERO」を発表した。HERO 13は即日販売開始となったが、HEROの方は予約販売となっている。


【画像を見る】15年前のGoProがこちら。GoProの歴史を振り返る(計13枚)


 すでに多くのYouTuberがHERO 13を購入してレビューを公開しているが、あまり芳しい評価にはなっていないようだ。さらには経済紙を中心に、9月中旬から”GoPro凋落”といった趣旨の記事が展開されている。8月19日に、全社員の15%に相当する140人のリストラが発表されたことを受けて書かれたものだろう。


 GoProは、1社でスポーツ撮影専用カメラというジャンルを築き、2010年代のスタートアップとして華々しい成果を上げてきた。確かに現在に至るまで当然紆余(うよ)曲折のあった企業だが、なぜ今、多くの人をガッカリさせる事になったのだろうか。


 今回はGoPro HEROの歴史をおさらいしながら、アクション系カメラを取り巻く市場の変化を考察してみたい。


●イノベーティブ時代のGoPro


 筆者がGoProの「HD HERO」というカメラを最初に見たのは、10年のNABショーの会場である。すでに米国では1月から販売が始まっていたようだが、放送や映画向け機材がひしめくプロフェッショナル向けのショーに、たった300ドルのカメラをひっさげて大々的にブース展開した、新進気鋭のベンチャーであった。


 その前に当時の背景を語っておかなければならない。コンシューマーにおける動画カメラは、長らくハンディカムに代表される、ビデオカメラに席巻されていた。1995年にDVカメラが登場し、03年にハイビジョンを記録するHDVフォーマットが登場すると、日本では地上デジタル放送がスタートしたこともあり、国内は高解像度方向に走り出した。


 一方米国では全く異なる動きが展開されていた。06年ごろにベンチャーのPure Digital Technologiesという会社が、安価なCMOSセンサーを使った小型のMP4カメラ「Flip Video」をリリースし、大ヒットしていた。感覚としては、日本においてカシオのデジタルカメラ「QV-10」がデジタルメモツールとして活用された感じだ。動画でメモれるツールとして脚光を浴びたのである。それ以降、2匹目のドジョウを狙って中国企業がわんさかMP4カメラを作って米国市場に乗り込んできていた。


 GoProはそんな中で、コンシューマーではなくプロ業界に打って出たわけである。


 GoPro開発のエピソードとして、CEOのニック・ウッドマン氏が趣味であるサーフィンの動画を撮りたいからという理由が語られているところだが、300ドルでモニターもないMP4カメラをコンシューマーではなく、プロ業界に持ち込んだ理由は明確であった。それは、壊れても惜しくない値段で、そこそこの絵が撮れるカメラ、というポジションである。


 このメリットに、多くのプロはすぐ気づいた。日本はスペック偏重主義のために様子見であったが、米国ではかなり導入されたようだ。撮影し終わってメモリカードを取り出してみないと、何が撮れているか分からないカメラを使うという強メンタルは、米国の映像業界ならではだろう。


 11年の「HD HERO2」は、マイク入力やHDMI出力が搭載され、HD/120pまで撮影できるように拡張された。ただしまだモニターはない。別売のモニターユニットと合体して、ようやく何を撮っているか分かる。だがこれは米国でさらに大ヒットした。


 この頃にはすでにGoProは、日本のカメラメーカーからも無視できない存在に成長していた。小型で頑丈、広角で激しい動きの撮影に使えるという、新ジャンルを築いたからである。


 12年にはソニーが、初めてのアクションカム「HDR-AS15」をリリースしている。HD解像度でモニターなし、本体に防水防塵機能なし、固定するにはハウジングに入れるといった仕様は、まさにHD HERO2を下敷きにしている。


 だが同年登場したHERO3は、さらに上を行った。ホワイト・シルバー・ブラックという3エディション展開でブラックが最上位であるが、早くも4Kが撮影できた。15fpsでしかなかったが、まだまだ4Kカメラが気軽に買えない時代に、4Kのソースを使って圧縮伝送や放送実験をやりたい日本の企業や大学の研究室で重宝された。ソニーをもってしても3年遅れを喫するというほどの、先進性であった。


 13年には、「HERO3+」というリファインモデルが登場した。4にまでは至らないという改善であったのだろう。当時暗所に弱いという点が指摘されたのを受けて、暗いところでは自動的にfpsを落として画質を上げるという、オートローライト機能を搭載した。また4:3で撮影した映像を、中心部分はそのままに、端の方だけ引き延ばして16:9にするという、妙なモードを搭載した。若干苦し紛れの時期だったのかもしれない。


 14年には、ソニーが「HDR-AS100」で本体のみで防塵防滴仕様というカメラをリリースしてきた。一方GoProは、同年の「HERO4」で4K/30p撮影を可能にしたほか、初めて本体にタッチパネルを搭載した。ようやく本体だけで、何を撮ってるのか分かるようになったのである。ただしブラックエディションなのに、ボディーカラーはシルバーである。


 ソニーがようやくGoProに追い付くのが、15年だ。「FDR-X1000V」で4K化を達成したが、ここまで来るのに3年かかっている。一方GoProは、年末にようやく小型モデル「HERO4 Session」をリリースするが、1年かかって小型化したものの、機能に新規性がなく、失速した。


●運命の2016年


 16年は、多くのことがいっぺんに起こった年である。1月にはHERO4 Sessionの失敗を受けて、GoProは初めてのリストラで15%の従業員を解雇している。他に柱となる事業がないので、1つコケると被害が大きいのがベンチャーの弱いところだ。


 ソニーは6月に4Kのハイグレードモデル「FDR-X3000」をリリース、ハンディカムで光学レンズを動かして手ブレ補正をするという「空間光学手ブレ補正」をアクションカムに持ち込んだ。電子補正しかない小型カメラの世界に、4Kなど解像度に関係なく手ブレ補正が効くという、技術力でぶん殴ったようなカメラである。ようやく一矢報いたといったところであった。


 一方GoProは、同年10月「HERO5 Black」をリリース、ここで初めてボディーが今のようなブラックとなった。また本体のみで防塵防滴仕様となり、そこはソニーを後追いした格好だ。4Kも撮影できたが、4Kでは手ブレ補正が効かないという点で「FDR-X3000」に勝てなかった。同時に小型モデルの「HERO5 Session」も出ているが、それよりもデカい製品が出た。


 空撮用ドローン、「GoPro Karma」だ。カメラは別売で、GoProを前方に搭載する。カメラだけではない、別の柱を作ろうというわけである。ところがこのドローンが、1カ月程度でリコールとなった。バッテリー部のカバーの設計が悪く、飛行中にバッテリーの接触が途絶えて墜落するという問題が発覚したのである。


 鳴り物入りの新ジャンルが1カ月で失敗したことで、GoProは大きなダメージを負った。16年11月には200人規模でリストラを行い、年明け3月にもおよそ17%の従業員をリストラした。


 頼みのHERO5 Blackは、悪い製品ではなかったが、16年には同様のスペックで中国の有象無象のメーカーが続々とGoProクローンを投入し、市場は荒れた。同年、くしくも後に競合となるInsta360が、初の製品「Insta360 Nano」をリリースしている。iPhoneと合体して使用するカメラである。


 ドローンは、その後も事業の継続を模索したようだ。だが結果的には18年1月にドローン事業から撤退を表明し、CEOのニック・ウッドマン氏からは、カメラ事業継続のためには買収もあり得ることをにおわせる発言もあり、株価は急落した。


 17年に登場した「HERO6 Black」は、4K/60pまでの撮影を可能にした意欲作だった。また4K/30pまでなら手ブレ補正が効く。電子補正で4K処理するというのは、当時の画像処理エンジンとしては画期的な事だった。


●そして戦国時代へ


 18年3月には、毛色の変わった製品がリリースされた。「GoPro Fusion」は、前後にカメラを搭載した、いわゆる360度カメラである。どうせ全方位撮るんだから、ということで、ディスプレイは搭載しない。


 ただ当時としては、360度カメラの参入はかなり遅い。リコーやカシオ、ニコン、そしてInsta360が全天球や半天球カメラに参入したのは16年頃で、ある意味このあたりがピークである。Fusionの発表自体は17年の「HERO6 Black」と同時だったが、発売まで半年かかる製品を先に発表するということは、やはりその年の目玉が欲しかったのだろう。


 ただ360度撮影の考え方が、他社と違っていた。多くのカメラは360度の映像を、見る時に見回すことができるというVR指向で考えていたのに対し、Fusionは全天球を撮影して、最終的には特定の画角に切り出して使うという、ノーファインダー撮影的なスタンスであった。確かにそれはそうなのだが、そうした方向性は当時スタンドアロンカメラ化しはじめていたInsta360と競合した。 ある意味、虎の尾を踏んだ格好である。


 だが18年に登場した「HERO7 Black」は、スポーツ向けカメラとしてGoProは別格、と感じさせたカメラだった。このとき搭載された次世代の電子手ブレ補正「HyperSmooth」が、あり得ないほどのスタビライズ性能をたたき出したのである。この機能によって、中国の粗悪なGoProクローン製品を駆逐すると同時に、日本メーカーも沈黙させた。


 だがGoPro一人勝ちの状況は長くなった。19年にはDJIがまさにGoProスタイルそのままの「Osmo Action」をリリースしてきた。すでにDJIはドローン専門メーカーではなく、小型ジンバルカメラの「Osmo」や「DJI Pocket」をモノにした、カメラメーカーへと成長していたが、今さらジンバルなしでGoProと競合しても勝てるのか? という疑問も残った。


 Insta360も、親指大のウェアラブルカメラ「Insta360 GO」をリリースした。直球でGoProと同じ形ではないが、マーケットはかなり近い。確実にGoProの牙城を削りに来た格好だった。


 19年にGoProは、2つの製品をリリースした。「HERO8 Black」は5から7までずっと同じだったボディーを刷新し、「モジュラー」と呼ばれる周辺機器と合体して機能拡張できる作りとした。このため、HDMI端子が本体からなくなり、モジュラーを別途購入しなければ映像出力が出せなくなった。これはネット中継でサブカメラや手元カメラとして利用してきたユーザーにとっては、GoProを見限る大きな理由となった。


 「GoPro MAX」は、Fusionに続く360度カメラである。小型化してディスプレイも付けるという格好で、要するに前後にカメラがあるGoProである。360度にこだわらず、前だけ、後ろだけでも記録できる。ただGoProの代わりとして使うには、出っ張ったレンズが破損の危険もあり、Fusion同様いったい誰向けなのか、マーケットがはっきりしない謎カメラであった。360度カメラはこれ以降登場していない。


 20年には、Insta360がGoProとストレートに競合する「Insta360 ONE R」をリリースした。カメラ、プロセッサ、バッテリーとモジュールごとに分解できるカメラだが、組み合わせればGoProスタイルになる。そもそもGoProマウントを備えている時点で、競合する気まんまんである。カメラモジュールを交換すれば360度カメラにもなり、FusionやMAXとも競合した。


 20年の「HERO9 Black」は、また新設計のボディーとなった。サブスクに加入すると本体が割引になるというキャンペーンを始めたのも、この頃である。要するにクラウドサービスで付加価値を付けるという差別化だ。カメラ的には前面ディスプレイがカラー化して自撮り対応するといった変化は見られるが、それはすでに「DJI Osmo Action」や「Insta360 ONE R」で実装されていた。


●スポーツに集中しすぎていたGoPro


 Vlogをはじめとする自撮り文化は、冒頭で述べた「Flip Video」を発祥とする説がある。そこから連綿と続いてきたわけだが、YouTuberの台頭は12年ごろから始まり、セルフィーの世界的流行は13年から15年ぐらいである。GoPro自体はすでにこの頃から自分撮りに使われていたが、製品として自分を撮る、自分のしゃべりを集音するという行為に対する手当が、あまりにも遅すぎた。


 DJIやInsta360のアクションカメラは、スポーツ撮りへの参入だけではない。自撮り市場も最初から押さえにかかっている。スポーツ撮影人口と自撮り人口を比較すれば、言うまでもなく自撮り人口の方がパイがデカい。別にスポーツで売れなくても構わないのである。このあたりが、スポーツイベントへの協賛などで巨額のマーケティング費を注ぎ込んできたGoProとの、決定的な違いとなった。


 その後21年は、「Insta360 GO2」「DJI Action 2」「HERO10 Black」が競合した。22年には「Insta360 ONE RS」「DJI Osmo Action 3」「HERO11 Black」とが競合した。GoProは例年9月に新製品を出してくるのは分かっているので、その前に競合2社が製品を発売している。この年には「HERO11 Black Mini」という小型モデルを出しているが、ネタに困ると小型モデルを出すというのがGoPro定番の負けパターンとなっているのは、歴史が証明している。11 Miniは11と価格差が1万円しかないのに機能差が大きすぎるとして、ほとんど市場では受け入れられなかった。


 23年には「Insta360 GO 3」が、親指カメラをディスプレイモジュールと合体されるとGoProスタイルになるという変貌を遂げた。DJIは「Osmo Action 4」で、一気に高画質方向へシフトした。GoProは「HERO12 Black」で対抗したが、すでにカメラ単体で勝てる要素は少なく、むしろ競合他社の後追いが目立つようになっていた。Bluetoothイヤフォンを接続してワイヤレスマイクにできる機能などは、すでに20年に「Insta360 ONE R」から実装されている。


 また23年11月にはInsta360が、「Insta360 Ace」「Insta360 Ace Pro」と、分離合体しないGoProスタイルそのままのカメラを投入した。Ace Proはライカレンズを搭載し、8Kまで撮れる。もはや分離合体や360度のようなギミックを使わなくても、GoProに勝てると踏んだのだろう。


 そして聞こえてきたのが、24年8月のGoPro 人員15%リストラのニュースである。すでにドローンや360度カメラといった不採算事業もなく、本丸のカメラで負け始めているという事に他ならない。


 24年はすでに「Insta360 GO 3S」が登場しており、DJIも「Osmo Action 5 Pro」をぶつけてきた。「HERO13 Black」は、NDフィルターやマクロ、超広角といった多彩なレンズモジュラーが使える事がウリだが、一番の目玉であるアナモルフィックレンズモジュラーだけ後日遅れて発売という肩透かしである。正直アクションカメラにNDフィルターが使えても、レンズに絞りがないのであんまり意味がない。シャッタースピードは遅くできるが、アクションを撮るのにわざわざシャッタースピードを遅くするということにどこまで意味を見いだせるのか、正直未知数だ。


 そしてまた小型モデルの登場である。いつもの負けパターンだ。しかもネーミングがただの「HERO」で、13と関係性を切っている。迷走しているといわれても仕方がないだろう。


 どこで道を間違えたのかは、一言で言うのは難しい。コンシューマー市場では拡がらないと判断し、プロ市場に進出したのは良かった。だがその後、スポーツに集中する余り、Vlog市場の広がりをつかむのが遅かったのか。DJIのまねをしてドローンに参入したのがいけなかったのか。あるいは360度カメラでInsta360を刺激したのがよくなかったのか。すくなくともこの2点で、両社が「やんのかステップ」に入ったと考えるのは、妥当なところだろう。


 Insta360がAce Proを、DJIがOsmo Action 5 Proをリリースし、プロレベルを強調してきている。今後も両社はどんどん上に向かうだろう。GoProもアナモルフィックレンズ対応で、ハイエンドプロ市場に色気を出しているが、ガチプロ市場で戦うべきなのか。


 個人的には逆に下のほう、知名度を生かしてシンプルな低価格路線に逃げるべきではないのかとも思う。GoProはそもそも、そういうカメラだったのだ。今回発売される小型低価格「HERO」が決定打にならなければ、身売りという事も再び検討に入ってくるだろう。


 その一方で、GoProが巨額のマーケティング費を投入してのスポーツ振興がなければ、米国発のストリートスポーツがきちんと競技化されることもなかっただろう。さらにそれらのスポーツのプロになる人達も、出てこなかったはずだ。これは1つの文化を確立させたということに他ならず、この功績は決して過小評価されるべきものではない。


 ただ15年近く事業をやってきて、これだけ業界を席巻しながらも他の事業の柱を作れなかったというところは、経営上の失策を指摘されても仕方がないところだろう。



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  • 原価率じゃないかなぁ?! 初めのころは、ボロもうけ状態だったと思う。 スマホをみても、チップの画像・動画処理性能が大幅に上がってるので、特化しなくても、汎用路線のものでも使えるように・
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