シビック・タイプRの市販車エンジンK20CをベースにしたHRC-K20Cエンジン、スーパーフォーミュラSF19のマシンに搭載して行われた鈴鹿サーキットでのテストでは塚越広大がステアリングを握った。今季のスーパーフォーミュラのホンダ開発車両のSF23、通称『白寅』を担当している塚越は、市販車ベースのHRC-K20Cエンジンにどのような感触、フィーリングを得ていたのか。走行後に聞いた。
11月6日の早朝に行われたテストは、路面温度が18度という低めのコンディションで行われた。HRC-K20Cエンジンを搭載したSF19開発車両は、ギヤレシオは現行のSF23のもので、ガソリンもかなりの量を搭載して走行が行われた。すでにシェイクダウンはモビリティリゾートもてぎで転がし程度で行われていたというが、サーキットでの本格走行は今回の鈴鹿が初めて。走行後、マシンを降りて取材に答える塚越の表情には笑顔が見られた。
「ここまでいろいろ準備してきて、鈴鹿も順調でトラブルなく、レーシングエンジンのような乗り心地で走ることができました。(動き出しでスロットルで煽ったりしていたが)クラッチとかも調整シロがあるので、全然問題はないですし、まだまだ詰められる部分はいっぱいあると思います。今はまだこのエンジンに合うギヤレシオがなくて、今あるギヤレシオではこのくらいが限界なので、多少の調整は必要でした」
ストレートではレブリミットに当たってしまう場面もあったようだが、その瞬間に塚越はアクセルを緩めたり、パーシャルにして対応。傍で走りを見守っていた佐伯昌浩プロジェクトリーダーは「ベテランの技だね」と、塚越の対応に舌を巻いた。それでも、塚越にとっても600馬力と言われるHRC-K20Cエンジンは予想以上のパフォーマンスだったようだ。
「結構、パワー感がありますし、ストレートエンドでもしっかり伸びましたね。現行のSF23のエンジンの特性とは違うのですけど、どちらかと言うとNAエンジンのマシンのように高回転で回して走るような、僕としてはちょっと懐かしい(苦笑)エンジンフィーリングで走れたと思います。僕がかつて乗っていた、F3エンジンに近いイメージがしました。限界値としては発展途上なところがあると思うのですけど、それでもベースが市販のシビックベースのエンジンなので、そのエンジンで『ここまで走るんだ』というのは、すごく驚きではあります」
コクピットでも、エンジン音は印象的だったようだ。
「たぶん、(外で)聞いていてわかったと思うのですけど、エンジン音もすごくレーシングエンジンの音がしているので、それには僕も驚きましたね。乗っていてもレーシングエンジンのフィーリングで走れていて、レスポンスもすごくいいですし、音もパフォーマンスもレーシングエンジンと言われても違和感なく乗れますね」
同じエンジンとはいえ、市販車のシビック・タイプRのノーマルエンジンとの共通点などは感じられるものなのだろうか。
「シビック・タイプRには僕ももちろん、乗ったことがありますが、その市販車のタイプRのエンジンとは仕様も違うのでパワー感も違いますけど、あの市販車のエンジンとベースが同じかと思うと、驚きですよね。なんか、ワクワクしますね」と塚越。
さすがに車体もエンジンパワー(ノーマルは330馬力)も違えば、フィーリングは異なる。むしろ、市販車と比較するというより、レーシングエンジンと比較する方がHRC-K20Cエンジンには相応しい。
「僕はレースが好きで、クルマ好きですので、レースと自分たちが持てるものがリンクするというのはすごくロマンがあって、嬉しいことだと思います。自分が憧れてレーサーになろうと思った時って、今よりもレースと市販車のつながりは今よりもっと濃くて、わかりやすかったと思うんですよね。ですので、こういう取り組みでレースと市販車、そしてホンダのユーザーさんとつながることができるとすごく嬉しいなと思いますね」と、塚越もこのエンジンの今後に期待する。
1時間のセッションのうち、塚越はイン&アウトラップと計測1〜2周というショートランを繰り返し、最後は3周の連続走行。計測18周を記録し、最速タイムは1分44秒4のタイムだった。ちなみに、市販車のFF最速タイムと言われるシビック・タイプRでの鈴鹿最速タイムは2分23秒120(伊沢拓也)。SFでは今季の開幕戦鈴鹿のポールタイムは1分35秒789(阪口晴南/VERTEX CERUMO・INGING SF23)で、HRC-K20Cエンジン搭載の1分44秒4のタイムは、現在のSFの決勝用フルタンク状態での走行タイムと同等クラスと想定される。
今後、HRC-K20Cエンジンはどのような進化を遂げることになるのか。実際にサーキットで陽の目を見る機会が待ち遠しい。