―[腕時計投資家・斉藤由貴生]―
腕時計投資家の斉藤由貴生です。
先日、アメリカ大統領選挙が行われましたが、結果はトランプ氏の勝利となりました。ということで、今回は「トランプ氏勝利」ということを前提に今後の腕時計相場がどうなるかを考えてみたいと思います。
◆前回のトランプ勝利時:2016年
さて、前回トランプ氏が大統領選に勝利したのは2016年でありますが、まずは、その周辺時期の腕時計相場を振り返って見たいと思います。
日本の中古腕時計相場は、2013年のアベノミクス開始時から「上昇」傾向となっていたのですが、2014年、2015年ともに「年々高くなる」という印象がありました。しかしながら、2016年には「久々の下落」が発生。2016年夏頃から不思議と安くなってしまったのです。
しかし、2016年末頃までにはそういった「下落トレンド」は解消。そして、2017年になると、目立った上昇傾向となったのです。
つまり、トランプ氏が勝利する前は「下落」だったのが、勝利後に下落が解消。そして、大統領就任後は、目立った上昇となったわけです。
こういったことから考えると、今回の「トランプ氏勝利」ということも、腕時計相場に「上昇」という影響を及ぼす可能性があると、考えることができます。
しかしながら、2016年と今とでは、同じ「トランプ氏勝利」でも、他に異なる要素が多々存在。例えば、2016年当時の日本の総理大臣は安倍晋三氏でしたが、現在は石破茂氏であります。
以前の記事でもお伝えしましたが、安倍氏が首相の時は、腕時計相場が高い傾向があり、実際2006年からの第1時安倍内閣時でも、2012年末からの安倍内閣時も「どちらも時計相場が高い」となっているのです。
つまり、2016年時点では「安倍/トランプ」だったため、腕時計相場が上昇する環境としては、良い状態だったといえるのです。しかしながら、現在の日本の総理大臣との組み合わせだと「石破/トランプ」となるわけです。「安倍/トランプ」とは異なります。
◆2016年以降の腕時計相場をおさらい
ここで、2016年から現在までの相場がどう(上昇・下落)だったかを振り返ってみたいと思います。
・2016年:安倍首相/オバマ大統領
2016年の中古相場は、夏頃まで2015年水準とあまり変わりなしといったところ。つまり「横ばい」だったといえます。それが、夏頃からは、はっきりとした下落傾向となっていました。先にも述べたように、2013年から約3年にわたって上昇傾向が続いていたため、当時は「上昇に陰りが見えた」と思ったほどでした。しかし、そういった下落傾向は2016年の12月頃になると収束。トランプ氏勝利の後に高くなった雰囲気があったといえます。
・2017年:安倍首相/トランプ大統領
2017年の1月からデイトナ16520を中心に「それまで見たことがないような“上昇”」となるモデルが増えていったのですが、当時の上昇幅は、2013年、2014年を上回るほど。2017年からは「数ヶ月で数十万円の変動」という値動きが珍しくなくなりました。また、その頃までパテックフィリップノーチラス(5711/1A-010)は、中古相場が定価とほぼ同様(約300万円)といった相場が続いていましたが、2017年4月頃から上昇。その結果、定価を上回るようになったといえます。
・2018年:安倍首相/トランプ大統領
2018年も2017年と変わらず上昇傾向となっていました。夏頃には、ノーチラス(5711/1A-010)は580万円といった水準にまで上昇。2017年春頃まで300万円程度だったわけですから、相場が2倍近くになるという動きをしていました。
・2019年:安倍首相/トランプ大統領
2019年になっても2017年、2018年と同様に相場は全体的に上昇となっている傾向がありました。特に2019年は、「一段と高くなっている」といえるほど、それまで以上に上昇幅が大きかったといえます。この頃、ノーチラス(5711/1A-010)は800万円台となっていました。しかし、夏頃からそういった上昇に陰りが見え、相場は下落気味となっていった経緯があります。この際は、特に「安値」となるこれといった原因が無いにも関わらず、相場が下落していたといえます。
◆2020年からの腕時計相場
・2020年:安倍首相⇒菅首相/トランプ大統領
2019年夏から相場全体は下落傾向となっていたわけですが、そこに新型コロナが登場。緊急事態宣言が日本で発令されると、腕時計相場は「結構な下落」となりました。その際、ノーチラス(5711/1A-010)は、600万円程度にまで値下がりしていたといえます。ただ、2020年夏頃には、相場の下落が収束。2019年から続いた「下落トレンド」は、ちょうど1年ぐらいで終わったといえます。
そして、2020年8月頃からは、一部腕時計が上昇したのですが、この頃値動きしたのが、オーデマピゲのロイヤルオークやロレックスのK18モデルなど。これらは、その頃まで「特に目立って動く」という感じではなかったため、「目立って動くモデルが変わった」といえる節目でした。2020年9月から菅政権になったわけですが、「相場が安倍内閣時を超える」という状態になったといえます。以前の記事で触れた「安倍晋三を超えられるのは安倍晋三だけ」ということが覆りました。
・2021年:菅首相⇒岸田首相/バイデン大統領
さて、2021年から合衆国大統領はバイデン氏になったわけですが、この時期の腕時計相場はどうなっていたかというと、「前代未聞の上昇」であります。2020年に反応していなかった、ノーチラスやデイトナが2021年になると目立った上昇傾向となり、過去最高値を更新。ノーチラス(5711/1A-010)は、2021年春に初の1000万円超えという水準に達しました。
・2022年:岸田首相/バイデン大統領
2022年も2021年同様「目立った上昇」という現象が発生。特に2月、3月といった時期の上昇が凄まじく、その時期多くのモデルが過去最高値を大きく更新していました。ちなみに、この頃ノーチラス(5711/1A-010)は、最安値が2600万円となっていた時期があります。しかしながら、4月になるとそういった「上昇」に陰りが見え、その後は相場が下落傾向に転じてしまいます。結果的に、2022年2月、3月といった時期の「上昇分」が全て失われてしまうという状態になったといえます。
そういった目立った下落は2022年夏頃まで継続したのですが、一部モデルについては、「2022年春の上昇分が失われる」にとどまらず、2021年夏水準ぐらいにまで下がっていた状態がみられました。ただ、2022年10月には上昇となるモデルが多々出現。2022年春水準までは回復しなかったものの、値上がり傾向となっているモデルが多くありました。その上昇傾向はそこまで長く続かなかったのですが、その後は「横ばい」といった様子だったといえます。
・2023年:岸田首相/バイデン大統領
2023年になっても、人気モデルの多くは「横ばい」といった状態が続いていたといえます。ただ、この時期から、それまで目立った上昇という印象がなかったモデルが上昇するように変化。特に、90年代頃のカルティエとオメガで上昇するモデルが多い印象がありました。
・2024年:岸田首相⇒石破首相/バイデン大統領
そして、2024年も人気モデルの多くは「横ばい」といったところ。ノーチラス(5711/1A-010)は、1500万円前後という水準となっているのですが、これは2021年春と同じといった状態であります。
◆今後はどうなる?
人気モデルを基準とすると、現在相場は「横ばい」といえるのですが、こういった状況は2016年と似ていると思います。そういった意味でトランプ氏が大統領選挙に勝利したというのは、相場上昇に影響するのでは?と思うところ。しかし、現在では世界的に「インフレを問題視している」という部分があります。
2020年のコロナショック後に財政政策を打ちすぎて、結果的にそれが現在のインフレを引き起こしたという指摘がありますが、それならばバイデン大統領の時期に「前期2年:目立った上昇⇒後期2年:横ばい」となったということが腑に落ちます。
そのため、トランプ氏が大統領に就任後、「インフレ対策」をする可能性があります。そうなると、2016年と今とでは、事情が異なるわけで、2017年のように「腕時計相場が目立った上昇」とならないかもしれません。
しかし、私個人の“勘”としては、トランプ大統領になることで腕時計相場が活性化=上昇するのではないかと思っています。
というのも、このところ「横ばい」という状態が続いていたわけですが、そういった「動かない」という状態が、トランプ大統領ということをきっかけに変わりそうだと考えたからです。
なお、YouTubeで高橋洋一チャンネルを見たところ、インフレの解決策は“需要/供給”の『供給を増やす』のが重要とのこと。現在、世界的にインフレに困っているといわれますが、実際、日々生活していて私個人的にも「ものが高い」と感じます。そういった状況をトランプ大統領が打破しようと考える可能性があるわけですが、対策が「供給を増やす」だった場合でも、高級腕時計市場には影響がないといえます。というのも、高級腕時計は日々必要なものではないため増産する必要がないからです。
ですから私は、今回のトランプ氏が大統領選に勝利というニュースが、腕時計の値上がりに作用するのではないか、と思っている次第であります。
政治の話については、私よりも詳しい人がたくさんいらしゃいますが、私としては、これまでの各年の大統領と腕時計相場変化を見ると、トランプ大統領になるということが、「市場が活性化する」という方向に向かうと感じます。
<文/斉藤由貴生>
※個人の意見であるため、「値上がり/値下がり」どちらの値動きになるかの責任は取れません。腕時計を買う・買わないはそれぞれの自己責任で判断してください。
―[腕時計投資家・斉藤由貴生]―
【斉藤由貴生】
1986年生まれ。日本初の腕時計投資家として、「腕時計投資新聞」で執筆。母方の祖父はチャコット創業者、父は医者という裕福な家庭に生まれるが幼少期に両親が離婚。中学1年生の頃より、企業のホームページ作成業務を個人で請負い収入を得る。それを元手に高級腕時計を購入。その頃、買った値段より高く売る腕時計投資を考案し、時計の売買で資金を増やしていく。高校卒業後は就職、5年間の社会人経験を経てから筑波大学情報学群情報メディア創成学類に入学。お金を使わず贅沢する「ドケチ快適」のプロ。腕時計は買った値段より高く売却、ロールスロイスは実質10万円で購入。著書に『腕時計投資のすすめ』(イカロス出版)と『もう新品は買うな!』がある