11月21日(木)〜24日(日)にかけて、日本の愛知・岐阜を舞台に開催された2024年WRC世界ラリー選手権の第13戦『フォーラムエイト・ラリージャパン2024』。
最高峰クラスのサポートシリーズとなるWRC2クラスには、ここまで2024年シーズンを戦ってきたチームらに加え、日本を拠点に全日本ラリー選手権などを戦っているチームも多数エントリーを行った。
2024年の全日本ラリーでチャンピオンに輝いたアヘッド・ジャパン・レーシングチームの新井大輝も、シュコダ・ファビアR5(エントリー名はシュコダ・ファビア・ラリー2)で参戦し、下りがメインの笠置山のステージで2度最速となるなど目を見張る速さを披露して3位表彰台を獲得した。
このR5は、現行のラリー2に相当する旧マシン規定であり、ちょうど約10年前ごろから導入の検討がスタートしていたもの。いわば型落ちのマシンに乗りながらも、新井は現行のシュコダ勢をはじめとするラリー2勢を打ち破る走りを見せた。ただ、その速さの裏ではこれまでに経験のなかったトラブルと付き合いながらの戦いを強いられていたという。
パワーステージ後のパルクフェルメで新井は「去年、このWRCジャパンに合わせてヘイキ・コバライネンが乗っていたチームから、4年分の予算をかけてクルマを買ってくるところから始まりました」とし、型落ちマシンで戦ったラリージャパンを振り返った。
「もちろん古いことは承知でしたが、やはりクルマは最初から直すところばっかりで、今回もほとんどのステージはメカトラブルでまともに走れずでした」
「ラリージャパンは、とくにクルマに対する負荷が大きいので、自分がメンテナンスしているなかでここは大丈夫だろうと思ってたところがことごとく壊れて。WRCというイベントに対しての厳しさを感じました」
中古のファビアR5を自分たちで購入し、自身のガレージでマシンをできる限りメンテナンスしている新井のアヘッド・ジャパン・レーシングチーム。このプログラムについて新井自身は、「自動車部みたいなことをやってますよ」と笑いながら語るが、そこで積み重ねてきたノウハウが今回の表彰台に繋がったと感じている。
「今回起きた問題は、すべてがこれまで経験してこなかったトラブルで、とくにリヤスタビライザーリンクの破損については、普段は絶対に壊れないと思っていた部品が金属疲労というか、経年劣化で壊れてしまったりしました」
「また、油圧サイドブレーキについても、走りながらもちょっとずつ弱いなぁという感じはあったのですが、今回の大会はステージの距離が長く、その分熱が入りやすかったりするので、顕著にその影響が出てしまっていたのだと思います」
「おそらくリヤデフのなかあたりでフルードの漏れがあったみたいで、とにかく徐々に量が減っていってしまうのでつねに足しながら対応して。そんな状況でも、ぼくらは自分たちでクルマのメンテナンスしているので、どこが駄目なのかというのも大体理解できました。今回はそこが活きたなと思います」
■肌で感じた最新ラリー2との差。万感のラリージャパン表彰台
想定外の箇所が壊れても修復し、直せずとも弱点を守りながら走り切った新井は、達成感にあふれた様子でラリージャパンを振り返る。そして、今回感じたラリー2とR5との性能差についても私見を述べた。
「クルマの差が顕著に出るステージもあれば、下りでベストを取れたステージもあって、そのなかで単純な10年落ちの影響というか、逆に10年分のマシンの進化も体感しましたね」
「とくにエンジンのトルクの出方が違うように感じて、自分たちは高回転まで回さないと出てこないのですが、彼らは下から出ている感じだったので、走り出しとかストップ・アンド・ゴーの箇所とかが全然違うように感じました」
「あとはサスペンションについても、アクセルを踏んでからすぐにトラクションが効いている感じの姿勢ができていて、コントロール性も全然違うのだろうなと思いましたね。これはシュコダだけじゃなく、シトロエンやトヨタもそうでした」
「そんななかで10年落ちのR5を使って戦うのだから、やっぱりいろいろなことを考えながら走らないといけないんだなと実感しました。なので、ちゃんと同じクルマで戦ったら自分はどこにいられるのか、と興味が湧きましたよ」
こうなると、来季は参戦カテゴリーやマシンも変わってくるのだろうか。2024年全日本ラリーや今回のラリージャパンで実績を残した新井に、これから目指す先を聞く。
「もちろんヨーロッパラリー・選手権(ERC)やWRCに出たいです。ただ、ここから先のステップアップについてはどうしても自分の予算では賄えないのが正直なところです」
「これからスポンサーさんへの営業もしますし、すでにいろいろやっている部分もあります。ですが日本で営業をしても、ラリーという競技自体の認知度そもそものネックになってくるところがあるので、まだまだ頑張らなきゃいけないなと思っています」
使用するマシンについては、「僕たちは別にシュコダにこだわっているわけではなく、R5が安いから使っているだけなんです」という新井。その話しぶりからは、スポンサーも含めて予算が許すなら、もっと新しいマシンに乗って世界のシリーズで戦いたいという気持ちが伝わってくる。
そのまま新井は、「つねに僕たちは、次のラリーができるかわからないような状況で戦っています」といい、ラリージャパンをターゲットに据えた大挑戦の2024年を締めくくった。
「僕たちは、一戦一戦が最後のつもりで戦っているので、そのなかで必ずベストを尽くすようにしています」
「だからこそ、こうしてWRCに出るだけでも良いことで、さらにちゃんと走れたところではしっかりとタイムも出ました。最後には表彰台にまで乗ることができたので、やっぱりやってきてよかったなと思いました」
最後には、「僕はただのイチ社員なので、大変ですよもう。ラリーは全部有休を使って出ているに過ぎないので、すでに12月の出勤日数がエグイことになってます(笑)」と言って下を向いた新井。しかしすぐにフッと顔を上げると、赤く染まった秋空に向かって持ち前の明るさで笑い飛ばしていた。