人の血液から作られる医薬品を「血液製剤」と言い、血液製剤は「輸血用血液製剤」と「血漿(けっしょう)分画製剤」の2つに大きく分けられます。日本赤十字の報告によると、集められた血液のうち、「輸血用血液製剤」として用いられる分は45.3%。
残りの54.7%は、病気の治療用に薬を作るための「血漿分画製剤」として使われているようです(2023年)。
例年、とくに年末年始は血液が不足しがちになり、献血への協力が広く呼びかけられます。献血によって得られる血液が少ないと用意するのが困難になる薬について、分かりやすく解説します。
血液製剤(血漿分画製剤)が使われる、主な薬と関連する病気
血液が使われる主な「血漿分画製剤」には、「血液凝固第VIII因子製剤」、「アルブミン製剤」、「免疫グロブリン製剤」があります。
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血が止まらなくなる「血友病」と「血液凝固第VIII因子製剤」
血友病は、止血に必要な体内の「血液凝固因子」が不十分なために、出血した時に血が止まらなくなってしまう遺伝性の病気です。血液凝固因子には多種類ありますが、そのうち第VIII因子またはIX因子の欠損ないし活性低下があり、男児出生数の5000〜1万人に1人が発症しています。最も有効な治療法は、不足した血液凝固因子を補うことです。ただ血液凝固因子は大きなタンパク質なので、人工的に作り出すことは難しく、献血された血液中から特別な方法で分取したものを、薬として患者さんに使う方法が普及しています。
「火傷」や「出血性ショック」で体から失われた分を補う「アルブミン製剤」
アルブミンは、もともと卵白(albumen)のおよそ65%を占める主成分タンパク質に対して与えられた名前です。同じようなタンパク質が血液や乳汁中にも存在することが分かり、とくに私たちの血液の血漿に含まれるものを「血清アルブミン」と呼びます。血清アルブミンは、血液中に存在するタンパク質の半分を占めており、血液の浸透圧を調整したり、さまざまな物質を結合して保持・運搬する役割を果たしています。
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重症感染症や「川崎病」などに使われる「免疫グロブリン製剤」
免疫グロブリンとは、体を守る「免疫」のしくみを担うタンパク質で、血液中や体液中に存在しています。より具体的には、異物(抗原)が体内に入った時にそれを排除するために機能する、いわゆる「抗体」のことです。細菌やウイルスの感染症や、免疫異常による疾患を治療するには、原因となる抗原を排除できる抗体を用いる方法が有効ですが、重症な場合や原因が不明な場合には、特定の抗原に対する抗体製剤を使うことができません。そんなときに用いられるのが「免疫グロブリン製剤」です。
献血された血液から分取して用意された「免疫グロブリン製剤」には、健康な人の血液中に存在している非常に多種類の抗体すべてが混ざって含まれています。倒すべき相手がわからないので、それらの抗体を全部一度に使ってしまおうという考えです。
うまく当たれば有効なこともありますが、はずれることもあります。ある意味、感染症などに対する最終手段的な治療法といえるでしょう。この治療にも、献血された血液が利用されています。
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阿部 和穂プロフィール
薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))