11月28日午後6時13分、ライターの百花繚乱さんからのLINEが届きました。
“仕事絡みの相談かな?”と思いきや、そこには、テレビ番組『5時に夢中!』(TOKYO MX)の『日刊BINKANランキング』というコーナーの動画とともに「もちづきさんが木嶋佳苗被告(※)として紹介されたー」「訂正もなかったようですが大丈夫ですか?」というメッセージが添えられていたのです。
正直言って、最初は何のことだかわからなかったです。私は『5時に夢中!』という番組の存在はもちろん知っていましたが、常に視聴しているわけでもなく。
ただ、送付された動画を見て、自分がただ事でない立場に置かれたらしいことを自覚しました。
<※編集部注:木嶋佳苗とは2007年から2009年にかけて発生した『首都圏連続不審死事件』の犯人。3人の男性を自殺に見せかけ殺害したとして2017年5月に最高裁判所で死刑が確定しました。実際には、もっと多くの犠牲者がいるのではないかという疑惑も>
◆木嶋佳苗被告がダイエットした姿のような扱いで自分の写真が…
そこには、11月25日に「女子SPA!」にて公開された、『30kg痩せた木嶋佳苗死刑囚が「ダイエット記事」を有料公開。買ってわかった“木嶋式ダイエット”の有効性と限界』という私の執筆した記事のタイトルが映っていました。
次に映されたのは、記事の一部分。さらに記事の文言をベースにした「木嶋佳苗被告が有料記事の公開を始めました。タイトルは『東京拘置所ガイド〜30kg痩せた木嶋佳苗の獄中記〜』。第一回の金額は500円だそうです」というナレーションが入っていました。
そして次の瞬間、正直目を疑いました。そこには何の脈絡もなく、記事内で使用された私のダイエットBefore&Afterの写真が差し込まれていたのです!しかも、「獄中で30キロ痩せた木嶋被告。内容を簡単にまとめると、畳一枚程度のスペースでできるトレーニングと」なんてナレーションがかぶされているではありませんか!
その後、再び私の記事の切り抜きが映り、「とにかく水を飲むということ。そして参考資料的に拘置所内での献立表」と先ほどのナレーションの続きが流れていました。
ここまで見た限り、私の写真はまるで木嶋被告のダイエットした姿のような扱いをされていました。
ナレーションには続きがあり、「購入して読んだ記者は、きっぱりと『こうすれば痩せられる』と言い切ってしまえる潔(いさぎよ)さもいい』『無駄に分厚い<精神論>ばかりを振りかざすような、よくあるダイエット本を読むよりもはるかに実用的といえる』と、あくまでも木嶋被告のnoteを読んだレビューであると述べてはいましたが、ハッキリ言って後の祭りです。
だって、どう考えたってそんな付け加えたようなナレーションよりも、「現在の木嶋佳苗かもしれない写真が出た」ということの方が、遥(はる)かに強いインパクトを与えているのですから。
とりあえず、私は何をすればいい?決して冷静でない頭で思考を巡らせた末、私は「女子SPA!」の担当編集に番組の動画を送り、この件を把握しているのか確認をすることにしました。
◆私の姿を死刑囚と誤解して生きていく人がいるかもしれない恐怖
編集部内での調査によれば、『5時に夢中!』側から記事の使用申請は来ており、平素からその段階で許可しているとのこと。ただし、写真だけを切り抜いて使用することはNGであると制作側に通達はしており、今回の表現はまことに遺憾であり、TOKYO MX側にクレームを入れると連絡が入りました。
この時点での私の要望は、「SNSおよび公式HP、ならびに番組内での謝罪と訂正を迅速に行うこと」「どうしてこのような事態になったのかの経緯報告」でした。SNSには一時間後には謝罪文が掲載され、HPと番組については翌日行うとのこと。
ちなみにSNSに謝罪投稿があったタイミングで、私はそれを引用し、その時点でのお気持ち表明を行っています(https://x.com/kyan__tama/status/1862124179866435585)。
直後、番組プロデューサーから編集部を通じて、直接の報告と謝罪をしたい旨の連絡がありました。しかし「あすは13:30以降であれば可能です」この一文に私はちょっとした怒りを覚えてしまいました。
何をこっちの都合も聞かず、一方的に指定してきとんねん!
この件については後日、“少しでも早く対面での謝罪を”という気持ちからであるとの釈明を受けました。編集部もそう受け取っていたようですし、今となれば私もそうであることは容易に理解ができます。
しかし、これは当時の私の感情がどれほど昂(たかぶ)っていたかという表れでもあります。もしかしたら、私の姿を死刑囚と誤解して生きていく人が世の中にいるかもしれないこと。私の家族がその誤解の被害をこうむるかもしれないこと。その恐怖はなかなかのものでしたから。
実際、この件がニュースになると、SNSやヤフーで「なぜ木嶋佳苗が外に出てる写真があるのかと思った」などのコメントは幾(いく)つか見受けられました。つまり訂正がなければ、私の危惧が現実になった未来はあったと思います。
同時に私は、この時点で番組側と対峙することは無意味であるとも考えていました。経緯の詳細も知らされていない状態で会ってしまえば、きっと私は彼らに自分の感情をぶつけてしまうだけ。そんな私に番組側はひたすら謝罪。手土産の菓子折り一つでも渡されて、すべて終わらせられてしまうであろう、と。
今の私は、さすがにTOKYO MXがそんなお粗末な対応はしなかっただろうと思います。ですが、この時の私の中で『5時に夢中!』ひいてはTOKYO MXへの信用度はゼロです。むしろマイナスめり込んでます。だからこそ、まずは書面という形で客観的な経緯説明を受け取りたかったのです。
◆「訴えれば?」の声もあったが欲しいものは慰謝料ではない
翌日には経緯報告書が届きました。なるほど、大まかな流れは把握できました。ようやく次のフェーズに移行できる状態になったわけです。
しかし、ここに来てなお、私はこの後でどの様な行動を起こすべきなのか、決めあぐねていました。
先方が番組をあげて謝罪や訂正を行っている以上、直で会って話を聞いた時点で一般的には手打ちでしょう。でも、私の中で「本当にそれで終わらせていいのか?」というモヤモヤが全く晴れてくれないのです。
「民事訴訟で訴えれば慰謝料とか貰えるんじゃない?」そうアドバイスをしてくれた人もいましたが、私にとってそれはあまり意味を為(な)すものではないと気付いていました。
確かに1分足らずのワンコーナーだったかもしれない。生放送という素人でもわかるほど忙しい現場にとって、大したことないと思うようなミスだったのかもしれない。
けれど、それがテレビという大きなメディアから発信されることによって、一人の人間に負の印象を与えかねないこと。大きな誤解を生むこと。心の傷になり得ること。番組を制作するうえで、私はスタッフの方々に一度立ち止まって考えて欲しかったのです。
12月9日、私は自身の夫と「女子SPA!」編集部の方々とともにTOKYO MXに出向きました。TOKYO MX制作局長、『5時に夢中!』プロデューサー、曜日担当のディレクターからは、まずは全面的な謝罪と、今回の経緯、さらに今後の対策の報告説明をいただきました。
私はもう心に決めていました。欲しいものは、繰り返される謝罪でもなければ、慰謝料でもないのです。会合中、私は一つの要望を口にしました。
「今回の一連を私の視点で記事化させてもらい、番組として取材を受けて欲しい」と。
これに対し、TOKYO MXからは「お受けしたい」という返答をいただきました。ここから先は、『5時に夢中!』プロデューサー・丹波忠寛(たんば・ただひろ)氏への、もちづき千代子による直撃インタビューとなります。
◆ナレーションでは登場しないのに“顔写真だけ”露出した理由
――今回の事態を引き起こした経緯の説明を、改めてお願いいたします。
「この度のことは、『5時に夢中!』内のネット記事を紹介するコーナー『日刊BINKANランキング』内で起こりました。コーナーは記事そのものを映しながら、記事を要約した原稿読みと合わせて進行する形です。
当日も曜日担当ディレクターが、テロップを作成するCG室に、記事のどの部分を映すか、どの写真を使用するか、絵割りの指示を行っていました。
この時点でディレクターは、読み原稿に、もちづきさんの具体的なエピソードが含まれることを想定しています。しかし、放送作家が書いた読み原稿からは、その部分が省かれていたのです。ディレクターは本来であれば、絶対に作家に対して指示や事前の擦り合わせをしなければならなかったんです」
――その結果、私の写真は副調整室からそのままオンエアされた、と。
「はい。もちづきさんの写真はトータル8秒露出してしまいました。
当日に読み原稿とテロップを統合して不自然な部分があるのかを、ディレクターおよび私たちプロデューサー、さらに総合演出も行っていなかったのが直接の原因になります」
◆写真とセットだった記者である説明、なぜ放送で省かれた?
――「女子SPA!」では、私の写真には「73キロから53キロへ減量した経験のある筆者・もちづき千代子」というキャプションがついていました。これがあれば、誤認はある程度防げたように思います。
「『女子SPA!』から事前に、写真のみでのトリミングはNGという注意通達を受けています。曜日担当ディレクター自身は、キャプションを含む形でのトリミング発注を行っていました。
しかし、その作業を請け負ったのがADであったこと、さらにCG室のテロップの上がりをディレクターが確認しないままオンエアに至ったことで、この事態が起こりました」
――まとめると、ミスの原因はディレクターと作家、ADとの伝達ミスだったいうことですか?
「はい。全体としてディレクターの指示不足であり、コミュニケーション不足でした。それと同時に私と総合演出のチェック不足でもあります。完全な人為的ミスなので、我々の怠慢である事実は免れないと考えています」
<※編集部注:女子SPA!の記事使用に際しては「番組で使用される際は、雑誌(又はWebサイト)の記事であることがわかるようなトリミングで使用して下さい。記事の中の写真だけをアップで抜くような使用方法は著作権上の問題が発生しますので使用をお断りしています。写真のデータ等をお貸し出しするサービスはしておりません。」と記載しています。(記事使用申請書「使用上の注意」全文)>
◆もし私が声をあげなかったならば?
――「女子SPA!」運営元の出版社を通じて、今回の件について一報があった際はどう思われましたか?
「まず、謝罪しなければいけないと思いました。放送により誤解を招くような結果になってしまったのであれば、すぐに映像を確認して、経緯の確認と原因を突き止め、お詫びを対外的に発するべきである、と。
その上で、もちづきさんに直接会ってお詫びしたいとも思いました。テレビによって被害を受けるなんて、あってはならないことなんです」
――もし今回、私が声をあげなかった場合でも、何らかの対処は行われたのでしょうか?
「放送中あの写真を見た時に、確かに私にも違和感はあったと思います。しかし恥ずかしい話、それが誤認を招くとまで考えが至らなかったというのが、正直なところです。
また、実際に生放送に臨んでいたスタッフや出演者からも特に反応がなかったことから、もちづきさんからご指摘がなければすぐには対応できなかった可能性が高いと思います」
――ということは、過去にこういった形のミスが起こっていたというのも有り得る話なのでは?
「このような体制で制作を続けていたのは事実ですので、同じようなパターンのミスが見過ごされていた可能性は否めません」
――SNSや番組内での謝罪が出た際、幾つかの媒体でニュースとして取り上げられていました。「おかしいと思った」などいくつかコメントが付いていましたが、TOKYO MXの視聴者窓口には、そういった声は届いていましたか?
「今回についてはなかったと聞いております。しかし、来なかったから良い悪いではなく、逆に視聴者がそのままスッと違和感を受け取ってしまったことの方が問題のように受け止めています」
◆生放送だから…と「声があげづらい」空気
――現段階で再発防止のために行っていることを教えてください。
「『日刊BINKANランキング』コーナーにおいて、チェック体制の強化はすでに行われています。記事を扱う際に、いくつかの作業が平行して行われていた実態があるので、それを統合する形で不自然なところがないか、私や総合演出が責任者として確認することにしています。
かつ、現在は番組の中で実作業に関わっている人間とは別の第三者を置くことでミスを回避する業務フローに変更されています。記事を配信している媒体社さんの通達どおりに絵割りが行われているか、確認する人間が曜日担当ディレクターとは別に置かれています」
――業務フロー以外の意識的な部分で変えていくべきだと感じていることは?
「オンエア中に気付かなかったのか、放送中に対応できなかったのかという部分に関わる話なのですが。やはり、今回の件でそもそも放送内容に違和感があったとしても『声があげづらい』という環境自体が問題ではないかと思いました。
生放送の番組なので、放送直前や放送中にはもう対応できない、間に合わないという空気が存在していたのでしょう」
――生放送だから流れてしまったものは致し方ないという考えがあった、と。
「はい。生放送の無意識の圧力、それがスタッフ全員の中にあったと思います。何か異変に気付いた時、ましてやそれが誰かを傷つけるような結果になる事態を招くものであれば尚更(なおさら)ですが、オンエア中の番組内で処理をしていかなくてはなりません。
この意識改革はすぐにでも行うべきと考えています。今回のことを経て何も感じられない人間は、番組制作には向いていないとも思います」
◆テレビの歴史的に“許されてきたもの”が許されなくなる現状への意識差
――最近ではテレビメディアの番組作りの姿勢を取りざたされることが増えてきているように思います。
「テレビの歴史的に許されてきたものが許されなくなる現状は、私自身は理解しているつもりです。しかしスタッフ全員となると、そこに対する意識の差は確かにあると思います。まさに今回、こういった形で露呈してしまいましたが、その差をどんどん埋めていかなければなりません。
局の内外を問わず番組制作に関わるすべての関係者に対して意識レベルを上げる対策をせねばならないと感じました。将来に繋がるための教育を今後はしていくべきと考えています」
――私もライターである以上は発信者の一端です。今回のことは、改めて自身の書き手としての意識を戒(いまし)める機会にもなりました。その上で、多くのメディアの抑止力になればと、この取材をお願いしました。
「TOKYO MXは少人数制で手づくりな部分がある一方、副産物として視聴者との距離が近いという強みがありました。特に『5時に夢中!』は、視聴者に寄り添うことをモットーとしている番組であるにも関わらず、傷つく人が出てしまったことは非常に遺憾ではあります。
陳腐な言い方ですが、私たちもこの件は決して風化させてはいけないと感じたからこそ、インタビュー提案をお受けしました。これからも伝えていかないといけないし、残していかなければいけません。『5時に夢中!』の20年の歴史の中でも大きな出来事だったと思います」
◆もしも自身やご家族が私と同じ立場になったならば?
――では、最後にもう一つだけ。これは丹波さんへの個人的な質問になりますが、もしも自身やご家族が私と同じような立場になった時、どの様な行動を起こすと思いますか?
「………………もちづきさんと同じことをしたと思います」
――ありがとうございました。
◆放送中、現場が「過ち」に気付いていたのに…
この記事を書かせていただけたこと、インタビューにも応じていただけたこと、これについてTOKYO MXさんには感謝の気持ちしかありません。ただ、それでもどうしたって未だに燻(くすぶ)っているものはあるのです。
インタビュー中に質問をしてもなお、心に沈殿しているもの。それは、「私が声をあげなかったら、どうなっていたの?」への回答です。
書面での報告書の中に、こんな一文がありました。
「A(ディレクター)は読み原稿と合っていないことに気づいて次のカットにチェンジの指示をしたが、結果として8秒間露出されてしまった」
つまりこれは、放送中に違和感以上の「過ち」に現場が気付いていたということ。だとしても、私サイドからの連絡がなければ、この件は完全にスルーされていたのでしょう。
「『5時に夢中!』で、もちづき千代子が木嶋佳苗死刑囚と誤認されちゃうかもしれない放送をされちゃった件」につきましては、これにて終幕となります。
しかし今、メディアに関わる人のすべてに伝えたい。自分たちが情報の発信者というとても怖い立場に身を置いている現実を。そして、その隅っこに身を置く端くれの弱小ライターであっても、常にその危機感には晒(さら)されている自覚を。
今回のことは私自身こそ、身を引き締めねばならない立ち位置であると再確認した一件にもなりました。
<文/もちづき千代子 写真/星亘>
【もちづき千代子】
フリーライター。日大芸術学部放送学科卒業後、映像エディター・メーカー広報・WEBサイト編集長を経て、2015年よりフリーライターとして活動を開始。インコと白子と酎ハイをこよなく愛している。Twitter:@kyan__tama