中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
パチンコ市場の低迷が鮮明になっている一方、パチスロは回復の兆しが見えてきました。実は遊技者にとって時間単位の効率で見るとパチスロが圧倒的に優れています。タイムパフォーマンスを重視するタイパ時代にフィットしているのです。
◆パチンコ総粗利が減少する一方で…
パチンコホール向けシステムの開発などを行うダイコク電機によると、2023年のパチンコ総粗利は1.44兆円。前年比5.3%の減少でした。一方、パチスロ総粗利は27.9%も増加して1.10兆円となっています。
遊技機などの開発を行うSANKYOは、2025年3月期上半期におけるパチスロ機関連事業の売上高が前年の1.8倍となる392億円でした。
パチスロ機の新作「戦姫絶唱シンフォギア 正義の歌」「パチスロ 炎炎ノ消防隊」が好調だったことに加え、2022年11月に販売した「パチスロ ⾰命機ヴァルヴレイヴ」、2023年7月の「パチスロ からくりサーカス」を増産するなど、過去に投入したパチスロ機の根強い人気も業績を下支えしています。
◆平和はパチスロ機の販売台数がパチンコ機を上回る
2023年4月以降はパチンコ玉が内部で循環する「スパートパチンコ(スマパチ)」が導入されており、SANKYOは2023年12月に「スマパチ シン・エヴァンゲリオン Type カヲル」を第1弾として開発しました。
その後、スマパチは2024年3月にラッキートリガーと呼ばれる新機能を搭載するようになり、SANKYOは「eフィーバー機動戦士ガンダムユニコーン 再来-白き一角獣と黒き獅子」を開発。しかし、2025年3月期上半期におけるパチンコ関連事業の売上高は前年同期間の半分以下となる379億円でした。
SANKYOは前期の通期パチンコ機関連事業の売上高が1.2倍に増加していたものの、パチスロ人気に押され、稼働は低調気味に推移していました。総販売台数は前期を下回っていたのです。
同じく遊技機を開発する平和は、2024年3月期のパチスロ機の販売台数が6万5000台を超え、パチンコ機の2万8000台を大幅に上回りました。2020年3月期から振り返って、パチスロ機の販売数がパチンコ機を超えたのは初めて。「戦国乙女4 戦乱に閃く炯眼の軍師」や「パチスロガールズ&パンツァー 最終章」が台数増をけん引しています。
◆「1時間当たりの投資額」が圧倒的に高いパチスロ機
ダイコク電機はパチンコ機・パチスロ機の稼働状況を調査しています(「DK-SISデータから読み取る市場の現状と今後」)。それによると、2024年9月における20円パチスロのアウト(遊技機1台あたり1日に投入されたメダルの枚数・発射された玉数の平均)は8470枚。4円パチンコは1万900個。つまり、パチスロは1日平均で16万9000円、パチンコは4万3000円あまりが投じられていることになります。
1台当たりの遊技時間はパチンコが2時間50分、パチスロが3時間50分ほど。この数字をもとに、1時間当たりの平均利用金額を計算すると、パチスロは4万5000円、パチンコが1万5000円となります。
◆還元率はほぼ同じではあるものの…
次に台粗利を見ると、20円パチスロは2890円で、4円パチンコは3350円。台粗利とは、1台の遊技機が1日で稼ぐ粗利。つまり、遊技者に還元した後の利益を表します。この数字だけを見ると、台粗利が低いパチスロは還元率が高いように錯覚します。
しかし、実際は異なります。パチスロのコイン1枚当たりの粗利は0.34円。パチンコは0.31円。ほとんど変わらないのです。つまり、還元率はほぼ同じだということになります(パチンコ・パチスロの還元率は85%程度だと言われています)。台粗利に違いが生じるのは、パチスロの方が稼働しやすい(遊技者が1日あたり使う金額の総量が多い)ためでしょう。
それではここまでの数字で何が言えるのか。すなわち、パチスロは時間あたりのコストパフォーマンスに優れているということです。
還元率はほぼ同じ遊技台に対して、パチスロは1時間当たり4万5000円、パチンコは1万5000円投じることができました。仮に還元率が85%だとすると、パチスロは3万8000円、パチンコは1万3000円程度の還元に期待ができることになります。
つまり、パチスロはタイパが良いのです。
◆タイパを重視する20〜30代の若者たちに刺さっている?
全日本遊技事業協同組合連合会の調査(「ファンに対するアンケート調査」)によると、パチスロファンは20代と30代で50.8%を占めます。一方、パチンコファンは38.6%で、4割にも届いていません。
タイパを重視するのは年齢の若い層。特に20代、30代に顕著で、ショート動画や切り抜き動画の視聴率、動画のネタバレ事前チェックの比率が高い世代として知られています。
時代はパチンコからパチスロへ。総粗利においては、パチンコが3000億円上回っているものの、パチスロは市場の復調が鮮明になってきました。将来的には規模が逆転する可能性もあります。これはパチンコホールにとっては朗報。パチスロ市場が拡大すれば遊技者数の減少を食い止めることができるためです。
パチンコ業界が大きく変わろうとするタイミングが訪れたように見えます。
<TEXT/不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界