限定公開( 3 )
霜降り明星の粗品(32)が3月2日、『第14回ytv漫才新人賞決定戦』(読売テレビ)で初めてお笑い賞レースの審査員を務めた。揺るぎない評価基準と理路整然とした論理展開で、まれにみる鮮烈な審査員デビューを果たした。
粗品は同賞の’17年度の優勝者で、歴代勝者が同決定戦の審査員を務めるのは初めてのこと。そのほかの審査員は、ハイヒール・リンゴ(63)、お笑いタレントで構成作家のお〜い!久馬(52)、ハリウッドザコシショウ(51)、フットボールアワーの岩尾望(49)の計5人が務めた。
トップバッターのぐろうに粗品以外の審査員が、基準とされる”90点”を軸に90点か、それをわずかに上回る点数を付けたのに対し、粗品は85点と評価。その後も粗品を除く審査員4人は90点前後で出場した7組に点数を付けたが、粗品は最低点としては77点を、最高点としては優勝したフースーヤに付けた86点と、一貫した独自の評価軸で採点した。
点数以上に注目されたのが、粗品の審査コメントだった。例えば、81点を付けたタチマチには「羅列タイプのネタ。羅列をやるなら手数を増やすか、何か”かぶせ”を入れる等の作品感を出すか、フォーマット自体を見たことないものにするかのどれかにしたほうがいいと思うんですけど。羅列タイプでそれ全部やってないこの形式は、手数も少ない。やっぱり他の漫才師より突出してウケないと評価されづらい宿命が絶対あるんですよね」と説明。
ネタの「パンチライン」となるべき部分が「一部似ていた」との別の審査員の指摘を引き合いに「これ、現役の漫才師としてめちゃくちゃ気持ちわかります。俺が新ネタ仕上げるってなっても、そうやって作るし、めっちゃ気持ちわかるけど」と共感しつつも「『似てたかな?』って言われないためにも、そこもっとウケたかったなって感じですね」などと、具体的な改善点とその理由を挙げた。
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批評されたタチマチの安達周平(32)は、粗品のコメントに思わず「すごっ! 思ってた1文字もずれてないこと言ってた……」と漏らし、耳に痛くも的確な指摘を素直に受け止めた。
全出場者に対し、必ず褒めるポイントも挙げつつ、改善点を指摘し続けた粗品。そのブレない審査にネット上では《今までテレビで見てきたお笑い賞レース審査員の誰よりも説得力のあるコメントで脱帽している》《お笑いの賞レースで、これだけ気概と覚悟が伝わってくる審査初めて見た》などと絶賛する人が続出した。
この粗品の審査をお笑い評論のプロはどう見るのか? お笑い評論家のラリー遠田氏に粗品の審査について解説してもらった。
「原則として、審査員の評価やコメントというのは出場した人に向けられているものです。でも、テレビで放送されるお笑い賞レースは、それ自体が1つのショーなので、出演者に評価を伝えるだけではなく、そのコメントで視聴者やお客さんも楽しませないといけないようなところがある。
だから、最近のお笑い賞レースの審査員は厳しいコメントを避ける傾向にあります。きついことを言って場の空気が重くならないようにしているのでしょう」
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そのため、当たり障りのない内容になりがちだが、粗品の審査スタイルは一線を画すという。
「粗品さんは自分が感じたことや評価をすごく率直に語っている印象があります。良くなかったと感じたこともはっきり言う。でも、そんな厳しい言葉をかけるのも、本人たちのためにやっている感じがします。
”この芸風だったらこういうことをやった方がいい”とか、”こういうことをやりたいんだったら、もっとここに気をつけないといけない”などと、相手の立場に立ってコメントをしている。披露されたネタを面白いものにするために建設的な提案をしています」
キツく聞こえそうな発言でも場を盛り下げないのは、日頃からYouTubeで芸能人を批判する芸風の粗品のキャラクターによるところもあるという。
「粗品さんは”毒舌キャラ”と認知されているからこそ、多少きついことを言っても許されるようなところがあります。そういうご自分の立場をうまく利用して、出場者に寄り添った核心を突くようなコメントをしていたのが新しかったと思います」
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粗品は以前から”M-1審査員をやることには興味がある”などと話し、審査員に積極的な姿勢を自身のYouTube動画などでも見せていたというが、これは芸人の中では珍しい考えだとラリー氏は指摘する。
「ほとんどの芸人さんは審査員をやりたがらないものです。そういう賞レースの審査に振り回され、自分たちの運命を左右されてきた経験があるからです。自分に低い点数をつけた審査員のことは一生覚えていて、恨みに思ったりもするわけですから。本来、芸人というのは人を笑わせるのが仕事なので、真面目に審査する姿を人前で見せたくはないはずです。
自分の審査が世間の考えとズレていたりすると、”あいつ、センスないんじゃないか”などと叩かれる可能性もある。芸人にとって審査員の仕事というのは、ちゃんとやっても恨まれることがあるし、それほど褒められないけど、少しでもミスをしたら自分の評価が下がってしまう。リスクしかないのです」
それでも粗品が審査員に前向きな理由をラリー氏は次のように解説する。
「粗品さんが言っていたのは、年配の審査員には若い世代のネタを理解できていないことがあるんじゃないか、ということです。そのネタの本当の面白さを理解されないままで評価されるのはかわいそうだ。自分だったら、そういうものもすべて理解した上で公平な審査ができるから、自分のような人が審査員をやった方がいいんじゃないか。そのような趣旨のことを語っていました」
今後、粗品がM-1の審査員をする可能性はあるだろうか。
「昨年の時点ですでに待望論は出ていたと思うんですが、今回の審査が話題になったことでますます可能性は高まりました。審査員の中に若い世代も入れてバランスを取るということを考えると、粗品さんは今後の新たなM-1審査員候補の1番か2番にはもう入っているのではないかと思います」
今回の粗品のスタイルには、共演した他の審査員たちも驚きをあらわにしていたが、今後ほかの賞レースの審査員にも影響を与える可能性はあるだろうか。
「芸人はそれぞれの美学や価値観に基づいて審査をするものなので、そこまで大きな影響はないかもしれません。ただ、まだまだ若手である粗品さんがここまでのことをやったということで、先輩芸人も背筋が伸びるというか、このぐらいの意識を持って審査しないといけないという1つの基準を作った面はあると思います。
結局、審査にもそれぞれのスタイルがあるので、全員が粗品さんみたいなスタイルでやればいいというものではないし、そうなるべきでもない。お笑いは個人の好みが分かれるものなので、いろいろな評価をする人がいて、複数の審査員の総合点で結果が決まるという今の形が健全なのだと思います」
粗品が見せた審査員の姿が、お笑い界に新しい風を吹き込むかもしれない。
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