閣議に臨む石破茂首相=11日、首相官邸 トランプ米政権の関税措置や物価高を受けた経済対策を巡り、与党内の対立構図が鮮明になってきた。参院選へのアピールを狙う参院自民党や公明党が消費税減税への傾斜を強めるのに対し、減税を避けたい自民の森山裕幹事長らは現金給付を主張する。石破茂首相(自民総裁)の判断次第では政権基盤に亀裂が入る可能性も否定できない。
「社会保障のどこを国民に我慢してもらうのか」。森山氏は11日、社会保障財源としての消費税の役割を東京都内で記者団に強調し、減税論をけん制した。
森山氏の念頭にあるのは消費税減税を探る公明などの動きだ。公明の斉藤鉄夫代表は11日の記者会見で、食料品に絞った消費税減税を「一つの方法として検討している」と明言。減税までのつなぎと位置付ける現金給付について、10万円配布案が「(党内に)あるのは確かだ」と踏み込んだ。
6月の東京都議選や夏の参院選に向けて危機感を強める参院自民は、公明の姿勢を「最高だ」(幹部)と歓迎する。財務副大臣や党税制調査会幹部を務めてきた森山氏は財務省と太いパイプを持つ大蔵族。改選を迎える中堅参院議員は「選挙で勝つには減税を打ち出すしかない。森山氏は危機感がない」と党執行部への不満を隠さない。
11日の衆院財務金融委員会での同省の説明によると、食料品などへの軽減税率8%をゼロにした場合の減収は5兆円程度。減税を時限的措置にとどめるにしても、元に戻す際の政治的混乱は避けられない。「一線を越えている」。自民執行部の一人は勢いづき始めた減税論に警鐘を鳴らした。
火花を散らす自民執行部と参院自民・公明のはざまで揺れ動いているのが首相だ。消費税減税を巡り、首相は3月28日の参院予算委員会で「一概に否定するつもりは全くない」と語っていたものの、今月1日の記者会見では「適当でない」と撤回。しかし、5日のテレビ番組では「党との相談だ」と再び含みを持たせた。
関係者によると、森山氏は8日夜、首相公邸をひそかに訪問。首相は給付を主張する森山氏にいったん同調したという。ただ、政府高官は「首相はなおフラットだ」と話し、党内や世論の動向もにらんで最終判断するとの見方を示す。
もっとも、数兆円単位の財源が必要となるのは給付も同じだ。にもかかわらず、実体経済や国民生活に与える効果を精査しないまま、対策ありきで議論が過熱している面は否めない。マクロ経済学が専門の小林慶一郎・慶応大教授は「関税措置の経済への影響がもう少し見えるまで給付や減税は様子を見るべきだ。まず中小企業への資金繰り支援のための融資などを進めるべきではないか」と話した。