異例? 王道ファンタジーが本屋大賞【翻訳小説部門】を初受賞 書店員が『フォース・ウィング』を選んだワケ

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2025年04月25日 08:40  ORICON NEWS

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「今年度No.1エンタメです!頭からしっぽまで面白すぎて…止まらない!」。『フォース・ウィング』を推す書店員の手書きポップが目を引く「ページ薬局」店内。(写真提供/ページ薬局)
 4月9日に発表された「本屋大賞」にて、『フォ−ス・ウィング -第四騎竜団の戦姫-』(早川書房)が、「翻訳小説部門2025年」の1位に選ばれた。「翻訳小説部門」は今年で14回を数えるが、ヒューマンドラマやミステリー作品などが受賞する傾向にあった。ファンタジーに括られる作品もわずかにあるが、これらは現実世界の地続きにある物語だ。一方『フォ−ス・ウィング』は、竜の騎手たちが魔法の力で国防を担うナヴァール国というまったくの架空の世界を舞台にした、いわゆる「異世界もの」。本格的なファンタジーは、受賞しづらいと考えられてきた本屋大賞の受賞傾向という壁を、『フォース・ウィング』はいかにして破ったのか。版元の早川書房と同書を推した書店員たちに話を聞いた。

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■アメリカで爆発的ヒットを記録 背景に社会不安?「現実逃避できる場所として熱中している」

 女性作家レベッカ・ヤロスによるファンタジー小説『フォース・ウィング(原題:Fourth Wing)』は、2023年5月に発売された(日本では昨年9月に発売)。アメリカでは同作のヒットをきっかけに“ロマンタジー(ロマンス+ファンタジー)”という言葉が広がり、第2巻が発売された時は、書店前に夜通し多くの人が並ぶなど、社会現象を巻き起こしている。

 ストーリーは、軍事大学にて竜騎手を目指すことになった主人公・ヴァイオレットが、死と隣り合わせの極限状態で、恋、友情、そして命懸けの戦いを繰り広げていくというもの。スリリングな物語に情熱的なロマンスが盛り込まれた同作は、世界42カ国で発売され、アメリカなど英語圏で累計600万部突破の大ベストセラーになっている。

 アメリカで爆発的ヒットを記録した要因について、同作の営業を担当した早川書房・鈴木愛加さんは、「トランプ政権下で誰もが不安を感じていて、その中でも特に女性が少しでも現実逃避できる世界として、熱中しているのではないか」と考察する。

「一見現実離れした世界ではあるけれど、いい意味で男女平等の実力社会。さらに、主人公はまわりの騎手たちに比べて体力的に劣っているにもかかわらず、対等に戦っている。本書を読んで、政治や自分たちが置かれている状況に対する不安を抱えながらも、それと戦うエネルギーを得ているのではないでしょうか」 (早川書房・鈴木愛加さん)

 2006年から本屋大賞の実行委員を務め、今年の受賞作発表を担当したジュンク堂池袋本店の小海裕美さんも、「竜や魔法といった王道のファンタジー作品ながら、現代の価値観にあった物語が新しく感じた」と話す。

 しかし、いくら海外ベストセラーという実績がある作品でも、本屋大賞翻訳小説部門1位を「異世界ファンタジー」が獲得するのは、これまでの受賞作の傾向をみると異例と言える。翻訳小説に強く同賞受賞作を多数抱える早川書房でも、受賞作のほとんどがミステリやSFジャンルだ。そもそも、なぜ、本屋大賞において異世界ファンタジー作品の受賞が少ないのだろうか。

■本屋大賞、ファンタジーは敬遠される? 受賞作の傾向から見える書店員の視点

「本屋大賞は、全国の書店員の投票で決定します。選考基準にジャンルなどの厳密な指標があるわけではなく、書店員が『多くの人に読んでもらいたい』と思った本を推す。そんな時、どんな作品を選ぶのか。これまでの受賞作をみると、読み手の共感を呼ぶ作品が選ばれる傾向にあるように思います。異世界を描くファンタジー作品は、現実世界を描いた小説に比べ、どうしてもファンタジーならではの約束事に敷居の高さを感じてしまい、これまで選ばれることが少なかったのかもしれません」(ジュンク堂書店池袋本店・小海裕美さん)

 フィクションでも現実世界との地続きであれば、読者は登場人物の心情や展開に共感しやすい。自身のこれまでの体験や経験などから、理解し受け入れることができるからだ。ところがすべてが架空の世界、異世界ファンタジーとなると、読者によっては共感しがたいケースもあるだろう。ファンタジーは、非現実的な要素すべてを読み手が積極的に受け止めることではじめて、その先の共感へとつながるからだ。

『フォース・ウィング』はそんな“ファンタジーは共感しにくい”という前提を覆したことが受賞理由のひとつではないか、と小海さん。

「ファンタジーが苦手な方でも、主人公に寄り添っていれば違和感なく読めてしまう。没入感・エンターテイメント性・共感できるポイント、すべてが揃いジャンルを超えた圧倒的な面白さがありました。翻訳小説部門の受賞は、“この作品はこれまでのファンタジーとは違う、ジャンルを超えた最高のエンタメ作品”と、多くの書店員が感じた結果なのだと思います」(ジュンク堂書店池袋本店・小海裕美さん)

 『フォース・ウィング』の帯に推薦コメントが採用されている薬局兼書店のページ薬局・尼子慎太さんも、もともとファンタジー嫌いを公言していたが、「読んだら一転“沼”にハマってしまった」と話す。

 竜に魔法、そこに恋と友情、命がけの戦い。物語に限って言うと、同作は王道にしてベタな作品だ。ファンタジーに苦手意識のある読者は、この時点で敬遠してしまうのではないだろうか。日本上陸前から、“『ハリー・ポッター』のハード版”と耳にしていた尼子さんも、読むまでのハードルは高かったと打ち明ける。ところが、読み始めると、そこから読む手が止まらない。「冒頭のシーンで『これはすごいものを読んでいる!』という確信に変わった」と明かす。さらに、巧みな構成がファンタジー嫌いの尼子さんを引き付けた。

「たとえるなら、毎話続きが気になるラストで引きつける、Netflixの配信ドラマを観ているような感覚です。『フォース・ウィング』も章仕立てで、各章の終わりには続きが気になる要素満載で、とにかく引きがすごかった」(ページ薬局・尼子慎太さん)

 『フォース・ウィング』によって多くの読者がファンタジーの面白さを再認識するはず、と尼子さんは続ける。

■ファンタジー&翻訳小説、複数のハードルを越えて選出された同作の魅力

「ファンタジー=子どもが読むものというイメージが先行し、ファンタジーの面白さを忘れていたのだと思います。自分のなかで変なバイアスがかかっていたのだと気づかされました。『フォース・ウィング』は、大人が楽しむに値するファンタジーです」(ページ薬局・尼子慎太さん)

 たしかにファンタジー作品として有名な『ハリー・ポッター』シリーズや『指輪物語』などは、児童文学に分類されることが多い。子どものときにやっていた人形遊びやごっこ遊びを、大人になるとやらなくなるのと同じように、大人になるとファンタジー作品から離れてしまう人は多い。

 InstagramやX(旧ツイッター)で読書記録を投稿し、1.5万人以上のフォロワーを持つ紀伊國屋書店武蔵小杉店の鶴見真緒さんも大人になってファンタジー離れしていたひとりだ。

「正直に言うと、最初は『ロマンタジーってなんやねん!?』と思っていたので、手を出しにくかったですね(笑)。でも、主人公ヴァイオレットの、小さくて華奢だけどすごく泥臭く頑張っていく姿は、いち女子としてすごく感情移入しやすかった。生きることと死ぬことが隣り合わせで、友だちも明日はどうなるかわからないスリリング。安心して読めない感じも、次へ次へという気持ちになりました」(紀伊國屋書店武蔵小杉店・鶴見真緒さん)。

 翻訳小説は独特の文体、言い回しが読みにくいと感じる人も少なくないが、その点においても『フォース・ウィング』は秀逸と言う。

「とにかく会話がおしゃれで面白い。日本人では、このテンポ感でこういう返しはなかなかできない。読んでいてその軽妙さが心地よく感じました。海外文学を読んでいる実感が湧きながら、読みにくさがない。アメリカンジョークを交えたウィットに富んだ会話を、日本人にも受け取りやすいように訳した原島文世さんの訳も素晴らしかった」(鶴見さん)。

 ジュンク堂池袋本店の小海裕美さんによると、翻訳小説は、本好きであっても敷居が高いと感じる人が多い現状という。読者層が限られるファンタジーかつ翻訳小説。2つの高いハードルを越え、「本屋大賞 翻訳小説部門」1位を獲得した『フォース・ウィング』。この熱はまだ始まったばかりだが、待望の続編『フォース・ウィング2 -鉄炎の竜たち-』が4月23日に発売されたほか、映像化の企画などさまざまな展開が予定されているという。今後の動向に注目したい。


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このニュースに関するつぶやき

  • そのネタなら日本にはごまんとあるからなアニメでもあったよねアメリカやEUでは流行ったが日本じゃ皆無な孫悟空ぽい日本に寄せたアニメ、クソつまらんかったし
    • イイネ!1
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