写真 少子高齢化が進むなか、高齢者をターゲットにした詐欺も増えています。振り込め詐欺に還付金詐欺、架空請求、買い取り詐欺などさまざまな詐欺が高齢者を狙っている中、最近では同世代の高齢者が高齢者を騙すケースも増えているといいます。
親近感や安心感を与えながら、孤独や寂しさに付け込む巧妙な罠。特にターゲットになりやすいのは、ひとり暮らしの高齢者や、家族とのコミュニケーションが減った方々。高齢の家族と離れて暮らしている人は特に、日常的な気配りやつながりが大切です。
消費者金融に勤める紗彩さん(仮名)は、「問題なく暮らせていそうだ、と思ったときこそ要注意」と警鐘を鳴らします。彼女が目の当たりにした実際の事例をもとに、悪質な詐欺の手口とその対策について話を聞きました。
◆金融会社に突然やってきた「高齢の父親を心配する女性」
沙彩さんが勤める金融会社に突然、慌てた様子で訪ねてきたのは、小西静香さん(仮名)と名乗る40代後半の女性。小西さんは10年ほど前に現在の夫と結婚し、子宝にも恵まれています。家庭内に問題はなく、確認したいのは実家でひとり暮らしをしている実の父親のことだと言います。
「小西さんは当社の顧客ではなかったので突然の来店に驚きましたが、ひとまずお話を聞くことにしました。すると、小西さんのお父さんは数年前に妻(小西さんの母)を亡くして独り身。子どもがいないうちは頻繁に様子を見に行っていた小西さんですが、それは出産をキッカケに変化します」
仕事と育児で多忙になり、就寝はいつも夜中で起床は朝5時頃という毎日。父親のことは気にはなりつつも、疲れから億劫な気持ちが先に立ち、足が遠のいていきました。ほぼ1年という間隔を空けて久しぶりに実家を訪ねると、気難しかった父親がやわらかくなっています。『人生が楽しくなった』と笑顔も見られるようになっていました。
「お父さんの様子が気になった小西さんですが、『よい変化だし、問題なさそう』と何も聞かずに実家をあとにしました。でもそれから半年ほど経って実家を訪ねたとき、大きな違和感をおぼえました。
実家にたくさんあったはずの骨董品が、なくなっていたそうです」
◆実家から消えた“亡き母”のお気に入りの絵画
なくなった骨董品は、ひとつだけでなくいくつも。そして、亡くなった母親が気に入っていた絵画も消えていました。昔から趣味でコツコツ集めていた骨董品だけでなく、絵画までゴッソリと消えていることに驚いた小西さんは、人生で初めて父親を問い詰めます。
「すると、小西さんのお父さんが、公園で知り合った浩美さん(仮名)という60代女性に頼まれ、貯金や毎月の年金をほぼ渡していたことが発覚。それでは足りなくなったため、これまでに購入してきた骨董品や絵画まで売っていたのです」
そして父は「これは、俺が好きでやっていること」などと言い、「浩美さんとの約束の時間だから」と出かけようとします。そこで小西さんはそっと父のあとをつけ、約束の場所へ。
◆500万円分以上のお金や品物の行き先は
「小西さんのお父さんは、『浩美さんが別れた旦那さんの借金を返済中で生活費に困っているから、いまだけ支えてあげている』と言っていたそうですが、すぐにそれはウソだと判明しました。
浩美さんという女性がお父さんと過ごした時間は、会ってからお金を受け取るまでのほんの30分程度。その後、お父さんが浩美さんのもとを去ってすぐに、派手でチャラチャラとした40代ぐらいの男が現れました。浩美さんはその男に甘えた様子で、お父さんから受け取ったお金を封筒ごと渡していたのです」
父の変化を感じてから半年とちょっとで500万円以上のお金や品物が消えていたこともあり、小西さんはピンときます。
「小西さんは、一部始終をおさめたスマホの動画を突きつけ、何度もお父さんを説得して詳細を聞き出しました。そのときに、浩美さんが借金をしている金融会社をいっしょにまわって保証人のサインをしたことも知り、私が勤める金融会社にも確認にいらっしゃったということでした」
◆「日頃のコミュニケーションの大切さ」に気づいてももう遅い
沙彩さんは、「ある程度の年齢を超えるとお金を貸さない金融会社も多いのですが、ヤミ金まがいの会社や個人で違法にお金を貸している人などが貸し付けることもあるようなので、気をつけてほしいです」と続けます。
「小西さんは2人の関係を断ち切るため、お父さんの携帯電話から浩美さんの連絡先を消去しました。これにお父さんは怒りを露わにし、小西さんとは絶縁状態。心配してこまめに様子を見に行っても、『いままでほったらかしだったくせに!』などと、小言ばかり言われるそうです」
このような悲しい事例は少なくないそうで、「公園や病院を、騙す相手を見つける場所として利用する“悪い高齢者”も多いので要注意です。容姿に気を遣わなかった親が服装や髪型などを気にする、笑顔が増える、趣味や嗜好が変わったなど、変化があったときは注意してください」と沙彩さん。
◆“寂しい高齢者”が騙されるケースは少なくない
「変化に気づくためには、日頃から話をよく聞いてあげるなどコミュニケーションをとることが大切です。金融業界に勤めていると、独り身で社交的ではない寂しい高齢者が騙されるケースを見聞きすることも少なくありません。寂しさという隙間を狙う悪人も多いようです」
とくに何もなければ「元気だろう」「大丈夫だろう」と考え、親とのコミュニケーションを後回しにしてしまう人も多いのではないでしょうか。多忙な毎日から会う時間を捻出するのは難しいことですが、まずは隙間時間に「元気?」と電話やLINEをしてみませんか?
<取材・文/夏川夏実>
【夏川夏実】
ワクワクを求めて全国徘徊中。幽霊と宇宙人の存在に怯えながらも、都市伝説には興味津々。さまざまな分野を取材したいと考え、常にネタを探し続けるフリーライター。X:@natukawanatumi5