衆院本会議で年金制度改革関連法案の可決後、拍手する石破茂首相(左)ら=30日、国会内 基礎年金の底上げに向けた年金制度改革関連法案の修正案は、自民、公明、立憲民主3党が「数の力」で衆院をスピード通過させた。3党は6月22日が会期末となる今国会での成立を優先し、財源論など多くの課題を先送りした。「抜本改革」への議論を求める声も意識し、立民は与野党協議会の設置を迫ったが、石破茂首相(自民総裁)は確約を避けた。参院審議でも論点となりそうだ。
「限られた会期の中で結論を出す意味で、やむを得ない対応だった」。立民の野田佳彦代表は30日の記者会見で、わずか2日間の修正案審議で採決に至ったことに理解を求めた。
与党と立民が採決を急いだのはそれぞれ夏の参院選への思惑が働いたためだ。自民は会期内に成立させ、鬼門の「年金」を選挙の争点から打ち消す狙いがあった。立民は「1人区」を含めて競合する日本維新の会や国民民主党に対抗し、与党に底上げ策を「丸のみ」させた実績をアピールしたい考え。国民民主幹部は「参院選で年金は取り上げにくくなった」と認めた。
自公立3党の協議は、立民が底上げ策として政府当初案にあった厚生年金積立金の活用に同調し、とんとん拍子でまとまった。一方、底上げに伴う国庫負担増の財源や制度改革自体の議論は広がらなかった。
30日の衆院厚生労働委員会で維新の青柳仁士政調会長は3党案を「弥縫(びほう)策」と批判。支給開始年齢の再検討や「最低保障年金」の必要性を訴えた。国民民主も保険料納付期間延長などの検討を求めており、玉木雄一郎代表は党会合で「十分な審議時間を取らずに強行採決するのは国民への裏切りだ」と指摘。維国両党とも参院審議で追及する方針だ。
◇河野氏は採決退席
自民内にも議論の不十分さを問題視する声がある。河野太郎前デジタル相は衆院本会議を採決前に退席。理由について政権幹部らに「あんこで腹を壊した」と説明し、法案への不満をにじませた。河野氏は先に修正内容を「毒入りあんこ」と批判していた。
野田氏はかねて「熟議と公開」で国会に臨む方針を掲げていたが、維新の前原誠司共同代表は「与党と野党第1党による密室合意」と指摘した。
こうした批判を念頭に、立民の長妻昭代表代行は衆院厚労委で、維国も主張する「与野党協議の場」の設置を首相に再三要求。扶養に入る配偶者が保険料負担なしで基礎年金を受け取れる「第3号被保険者制度」見直しなどをテーマとするよう迫った。
首相はしぶしぶといった様子で「どういう場がふさわしいか判断する場面はあるだろう」と述べつつ、明言は避け続けた。「ミスター年金」と呼ばれていた長妻氏は記者団に、修正案について「粘り強く超党派で理解を深めていくよう努力したい」と語った。

記者会見する立憲民主党の野田佳彦代表=30日、国会内