夫は仕事。子どもは部活。じゃあ私は……? 49歳女性が“最後の旅行”で見失った「家族の意味」

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2025年08月11日 22:10  All About

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高校2年生の息子と中学2年生の娘、2歳年上の夫と4人暮らしの49歳女性。毎年恒例の家族旅行を楽しみにしていたのだが、子どもが留守番すると言い出した。それでも彼女は「今年が最後」と家族を説得し、旅行に出掛けたのだが……。※サムネイル画像:PIXTA
「家族」は年月が過ぎていけば形を変える。子どもたちが大きくなっていく家庭で、夫も妻もさまざまに状況や気持ちが変わっていくこともあるだろう。この先、いったいどうなるのか、家族としての形が不安になっている人もいる。

旅行することにはなったものの……

高校2年生の息子と、中学2年生の娘がいるマイコさん(49歳)。2歳年上の夫とは結婚して19年になる。

「更年期真っ盛りのせいもあって、なんだか最近、人生の来し方を考えてしみじみしてしまうんですよ。あんなに小さかった子たちがこんなに大きくなって。その分、私たちは年を重ねた。この夏休みはそれが心にずしんときました」

子どもたちが小さいころから夏休みには家族旅行をしてきた。ふだんは多忙な夫も、夏休みの家族旅行だけは敢行する。とはいえ、旅行の手続きはマイコさんが全部するのだが。

「春先に、今年の夏はどこへ行こうかと言ったとき、息子がスマホを見ながら『オレ、留守番』と真っ先に言ったんです。続いて娘が『私も部活があるから留守番』と。それじゃ意味がないでしょと思わずムッとしてしまいました」

子どもたちはもう親と一緒に旅行したい年齢ではなくなっている。それは分かっていた。親が執着しているのだ、子どもたちと時間を過ごすことに。夫に相談すると、「実はオレも夏は仕事が忙しくてなあ」と小声になった。

「じゃあ、いっそやめようかと言いかけたんですが、心と裏腹に『じゃあ、今年を最後にしよう。子どもたちは来年、二人とも受験生だし』と言ってしまった。

これが最後だからという文句に惹かれたのか、母を憐れだと思ったのか、息子も娘も渋々、行くことを了承。でも『行き先はお母さんの好きなところでいいよ』って。計画しがいがないですよね」

それでもやはりマイコさんは行きたかったのだという。大人になりかけの子どもたちとふだん、ゆっくり話す機会があまりないから、旅先で家族がたわいもない話ができればいいと思っていた。

大人になりかけだと分かってはいても、マイコさんにとっては、やはりいつまでたっても「子ども」なのだ。

旅は思うようにならず

場所を決め、綿密に計画を立てた。息子や娘が興味を持ちそうなスポットも見つけ出した。たった2泊だが、本当にとりあえずは最後の家族旅行になるかもしれない。大事に時間を過ごしたかった。

ところが旅行はそううまくはいかなかった。

「そもそも夫が仕事の都合で遅れて来ることになりました。子どもたちと私は予定通りの新幹線に乗ったけど、二人ともスマホから目を離さない。動画を観ているかと思えば、友達とメッセージのやりとりをして。

せっかくの駅弁も、娘は『向こうに到着したら、どこかお店で食べようよ。私、駅弁って好きじゃない』と。わがまま過ぎますよね」

現地で泊まるのは旅館だった。今までの旅行ではほとんどホテルだったから、子どもたちが興味を示すかと思ったのだ。だが、二人はほとんど無反応。温泉を勧めても、夫が来るまで散策しないかと誘っても、二人とも「暑いから出たくない」と言うばかり。

「仕方なく一人で散歩に出ました。すてきな町並を歩き、蔵を改装した喫茶店に入って。娘に電話をして、出てらっしゃいよ、すてきなカフェがあるからと言ったら、娘はふらりとやってきました。

ふだんは私もパートに出ていて、娘の心の中までは分からない。だから部活のこととかボーイフレンドはいるのかとか軽い感じで聞いてみたんです。でも娘は『いいじゃん、そんなこと。楽しくやってるよ』と言うばかり」

急に悲しくなってきて……

マイコさんの周りでも、娘とものすごく仲のいい人たちは多い。娘は何でも相談してくれるし、逆に今の流行を娘に聞くこともあるという話が耳に入ってきていた。だがマイコさんの娘はまだ中学生ということもあるのか、特に流行に興味もなさそう。部活のバスケットボールが何より大事なようだった。

「宿に戻って、夕飯直前、ようやく夫がやってきた。一応、夕食はみんなでとりましたが、夫は途中で電話を受けたりかけたり忙しそうで……。家族4人、せっかく同じ部屋にいるのに全然、一体感がない。なんだか急に悲しくなってきて、私はすごくへこんでしまいました」

無口になった母が心配になったのか、息子が「お母さん、具合悪いの?」と声をかけてくれた。それを機にマイコさんはさめざめと泣いてしまったのだという。

「一番雰囲気を壊したのは、結局、私でした。翌朝早く、夫と散歩をしながら『家族って何なんだろう。子どもたちが大きくなるにつれ、家族が壊れていくような気がする』と愚痴ってしまいました。夫は『オレが遅くなったのがいけないんだろう、悪かったよ』と逆ギレ状態。それにもあきれましたね」

息子と娘は、どことなく母の機嫌をうかがうようなところがあったという。結局、2泊の予定をなんとか「こなす」ようにして帰宅したマイコさん一家。それぞれに思うところがあったのだろうし、それぞれに気は遣ったのかもしれない。

自分だけが過去に囚われている

「この先、子どもたちは親なんか乗り越えて若いエネルギーで人生を進んでいく。そして取り残されるのは夫婦。でも夫はあと15年は働ける。オレはもう一花咲かせると言ったこともありますしね。私はどうなるんだろう。子どもたちが大きくなったのはうれしいけど、同時に自分の老いを実感し、過去を振り返ってしまうんです」

まだまだ、人生を総括するのは早すぎる。だが、かつては人生五十年とも言った。半世紀生きてくると、少しは立ち止まってゆっくり生きるよう、心身が要求してくるのだろうか。

家族のありようも、変わって当然なのだから、憂えるより受け止めるしかない。もちろん、そんなことはマイコさんも分かっている。それでもなんだか憂鬱(ゆううつ)になるのは、無条件に愛情を注ぐ対象が大きくなって「自分の意志」を持っているからなのかもしれない。

亀山 早苗プロフィール

明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
(文:亀山 早苗(フリーライター))

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