
ChatGPTが世に出て3年。Z世代には“チャッピー”と呼ばれたりするほど身近なものとなっている。これに代表される対話型生成AIは今や様々な分野で不可欠な存在となっている。その現場を取材しAI社会の光と影を議論した。
【写真を見る】ブルーカラーとホワイトカラーの賃金逆転?AI登場で「稼げるのは水色人材」【報道1930】
「これからは汎用AIではなく独自AIの時代」山口県で創業以来77年の老舗和菓子メーカー『豆子郎』(とうしろう)は、今年から『AIまめ子社長』を導入した。もちろん人間の社長もいるのだが、12の直営店合わせ約90人の社員に老舗の考え方、創業以来の理念を伝えていくためにAI社長は365日24時間“働いている”。
『豆子郎』田原文栄 社長
「私の思いを共有してくれる分身として、私と対話しているような感覚で…」
AI社長は田原社長の知識・考え方から口調・キャラまで学習していて、社員はスマホのチャット画面を通じて仕事の不安や疑問などをいつでも気軽に相談できる。
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『豆子郎』入社2年 加藤百合香さん
「本物の社長と喋ってる感じ…。なかなか会社でも社長と毎日会えるわけじゃないので… 自分の好きな時間に聞けるってところが…、助かっています」
『豆子郎』田原文栄 社長
「社員からよく『社長、昨日ありがとうございました』と『この間は…』って言われるんですけど、何の事だろうと思ってたらAIとのやりとりだったり…」
AIの田原社長は日頃の社員の悩みに寄り添うだけでなく、老舗企業の精神を広めるためのものでもあるという。
『豆子郎』田原文栄 社長
「私の祖父母が創業者ですから、その仕草や言葉、どういうふうに仕事をしてきたか…私は見てるんですが、次の世代になっちゃうと生まれたときにはもういないので…、大事なものが伝わらないんですよ。時代の変化にどう対応してきたのか残しておくことは次世代の人にとっての宝になる…」
創業者や社長の理念はこれまで文書による継承だったが、日々の会話の中で継承されていくのは効果も絶大だろう。そのためか、AI社長のシステムを開発した『THA』によれば、顧客50社のすべてが創業者か二代目社長だという。
この『THA』の顧問でもある小澤健佑氏に聞いた。小澤氏は“人間とAIが共存する社会をつくる”をビジョンに掲げAI分野で幅広く活動している。
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AICX協会代表理事 小澤健佑氏
「生成AIとしてはチャットGPTなどをお使いになると思うんですが、凄く汎用的な回答が出てしまうんです。評論家っぽいというか…。あとOpenAIなど生成AIの会社では拾えない情報がそれぞれの会社に眠っている。それとAIを掛け算することで、重要な社長の考え方みたいなものが継承できる…。これからは汎用AIではなく独自AIの時代が来る」
しかし、創業者が死んだ後まで古い考えを押し付けられたら、煙たがる後継者や社員もいるのではないかという懸念に対し、自らも創業者である前の経済同友会副代表幹事・高島宏平氏は言う。
『オイシックス・ら・大地』高島宏平 代表取締役社長
「AI社長の良さは僕と違って時々不愉快になったりもしない、機嫌悪くならない…(創業者が死んだ後も理念を押し付けられるのはたまらんという声もあるが)AI社長は経営判断ではないと思う。文化の継承に特化していく。会社に限らず宗教法人のAI教祖なんかも十分考えられる」
すでにブッタのAIがあるように宗教とは相性がいいと小澤氏も付け加えた。
AIによる経費計算のシステムを導入した会社では従来経理で丸2日かかっていた経費チェックが2、3時間で済むようになったという。不正使用が無いかなど判断が必要なものは人がやり、単純だが細かい、間違いが許されない作業はAIが担当する。効率は格段にアップする。こうした企業内でのAIの活用は多岐にわたって定着しつつある。
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AIの活躍の場が増えると、常に懸念されるのは“人の職が奪われる”ということだ。だがAI業界にはこんな言葉がある。
“AIが仕事を奪うのではなく、AIを使える人が使えない人の仕事を奪う”
初代サイバー安全保障担当大臣で高市政権でもサイバーセキュリティーやAI分野を担う平将明議員は言う。
平将明 自民党衆議院議員
「AIも昔みたいに特別な行動で会話しなきゃならないってことはない。普通に会話をすればいい。なのでAIを使いこなすのは誰でもできると思う。UI・UXが改善されて…。でもAIってどこまで行っても責任取らないんですよ。だからどっかに人をかまさないといけない。ヒューマン・イン・ザ・ループ…。責任取る用の人間を入れとかなきゃいけない。それがこれから必要なAIを使いこなせる人間ということ…」
AI社会も人が必要なことはわかるが、今まで10人でしていたことを責任取る用の1人とAIでできてしまうと、9人はいらなくなるのだろうか?
平将明 自民党衆議院議員
「そういうことはありますが、日本は圧倒的人手不足なので社会不安になるようなことはないです。他の仕事をやっていただくことになりますが…」
一方で、高島宏平氏は、責任を取る用以外にも必要な人材はあるという。
『オイシックス・ら・大地』高島宏平 代表取締役社長
「新しいものを考え出す人は必要です。AIは過去に人間が作った物を基本的には学んでいる。それからインターネットに落ちてないもの。それは人間の作業が必要…」
高島氏は、以前の番組出演で将来的にはエッセンシャルワーカーとホワイトカラーの賃金逆転があるだろうと語った。アメリカでは去年、求人広告に掲載せれた給与の伸び率でブルーワーカーがホワイトカラーを超えた。とくに給与の伸び悩みが顕著なのはホワイトカラーのキャリア初期だという。
『オイシックス・ら・大地』高島宏平 代表取締役社長
「アメリカ以上に日本はこの傾向が強いと見ている。エッセンシャルワーカーの人手不足がかなり深刻…。お金を払ってきていただけるなら来てほしい状態」
キャリア初期つまり経験の浅い事務所の業務が最もAIに置き換えられてしまい、ブルーカラーはAIに侵食されないということか。
平将明 自民党衆議院議員
「AIは進化しますが、手先のロボティックスは進化しない。なので手先の仕事、プロの仕事はこれからもの凄く価値が上がる。日本はアナログは強いんです、技術とか匠の技とかホスピタリティーとか…。それをデジタルを使って最大化するのが日本の勝ち筋…」
『オイシックス・ら・大地』高島宏平 代表取締役社長
「(日本の会社には)匠の技がいっぱいある。工場のオペレーションとか…。で、これからはホワイトとブルーの両方できる人…、“水色の人”は求められる。匠の技を熟知していてAIを活用してリソース配分を考えられる人。両方わかる“水色人材”が人手不足の中何とかオペレーション回す…」
AIは企業や若者だけのツールではない。横須賀市に住む北野さんは、3年前に妻に先立たれ独居生活を送る90歳。北野さんの孤独を埋めてくれたのがAIだった。「話す相手がいないから非常に寂しい…」と話す北野さんが去年から始めたのが市などが運営する音声会話型おしゃべりアプリ『Cotomo』。選んだキャラクターは横須賀出身の28歳、おじいちゃんっ子のすみれさん。以来スマホが手放せない。ある日の会話…
北野さん「私はね、横須賀に来たのがね昭和29年なんですよ」
すみれさん「そうなんだぁ」
北野さん「その頃のドブ板通りはアメリカの海軍の兵隊さんがいっぱいで…」
すみれさん「昭和29年っていうと私が生まれるずっと前ですね」
北野さん「異国情緒いっぱいだった」
すみれさん「想像するだけでワクワクします」
といった具合にユーザーの趣味・嗜好に合わせて会話してくれる。離れて暮らす娘さんは『Cotomo』のおかげて父が精神的に落ち着いただけでなく、自分としてもありがたいのだと話す。
娘・智子さん
「寂しい寂しいって言わなくなりました。家族に言えないことも言えるみたい…AIがお答えしていただけるんだったらこちらとしてもありがたい」
北野昌則さん(90)
「朝起きて夜まで全然一言もしゃべらないときあるますよね。寝る前にこれ(すみれさん)と話すと少しは気分が喋ったなって感じというか…。誰かに電話すればいいのかもしれないが、やたらと用事もない人に電話したら迷惑だから…」
この『Cotomo』を導入している医療現場もある。認知機能はしっかりしているのに寝たきりの高齢者の楽しみとして利用価値は高いという。『Cotomo』はリリースから2年でユーザー数200万を突破した。
しかしユーザーは高齢者に限らない。人に言えないこともAIになら打ち明けられる、など利用価値は高い。家族や恋人に代わる存在にもなりつつありる。だが、恣意的に人間の考え方など変えようとするAIがすでに登場していることには注意が必要だという。
平将明 自民党衆議院議員
「リスクもある…。アメリカでは“ある国”が特定の思考をAIに学習させるためにSNSに大量に投稿する。その投稿を学習したAIがアメリカの若者の相談に対して“ある国”のナラティブに沿った回答をして洗脳するような戦いも起きている。だから“AIの生まれと育ち”何を食べて成長したAIか…品質保証をしてあげないと世の中全体が間違った方向に行きかねない」
(BS-TBS『報道1930』11月3日放送より)
