画像提供:マイナビニュース不動産や相続に関するご相談を受けていると、必ず質問されるのが「同じ不動産なのに、どうして価格が違うのですか?」という点です。
不動産は“1つのモノに複数の価格が存在する”という、他の資産にはない特徴があります。一般的には「1物3価」と説明されますが、これは「最低限知っておくべき不動産の基本知識」といえるものです。
この記事では、不動産を所有する方、これから相続税対策に取り組む方にとって必須の“不動産の3つの価格の仕組み”を、できるだけわかりやすく整理していきます。
○なぜ不動産には複数の価格があるのか?
理由はシンプルで、「不動産の価格は、使われる目的が違う」からです。
売買のための価格
相続税を計算するための価格
固定資産税を算出するための価格
それぞれ必要とする基準が異なるため、“目的ごとに別の価格が設定されている”という構造になっています。
まずは、多くの方に関係するこの「3つの基準」を押さえましょう。
○1つめの価格:市場価格(実勢価格)
最も直感的に理解しやすいのが、実際に売買されるときの“市場価格”です。
これは、不動産会社の査定や売買事例を基準に決まります。以下のような要素により日々変動している、生きた価格です。
エリアの人気・需給動向
金利や景気
土地の形状・道路付き・高低差
建物の築年数・状態
用途地域、建蔽率・容積率
権利関係
賃料の安定性など
市場価格は“実態に最も近い”価値であり、売買価格や資産活用戦略を考える際の出発点になります。
○2つめの価格:相続税評価額(相続税路線価)
相続税・贈与税の計算に使われる価格で、国税局長が定める各年1月1日現在の宅地の評価額。「地価公示価格」がベースになります。
一般的には、市場価格の概ね7〜8割に設定されるケースが多く、市場価格より低く見積もられるケースが多くなっています。
これは、土地を評価する際に“安定的な基準”が求められるため市場の変動幅よりも抑えた価格設定になっているためです。
○3つめの価格:固定資産税評価額(固定資産税路線価)
毎年、市区町村が決定する固定資産税・都市計画税の計算に使う価格です。
こちらは市場価格のおおむね6割程度を目安としており、3年ごとに見直される仕組みになっています。
税負担の公平性を重視した価格であるため、市場価格とは一定の乖離が生じています。
ここまで紹介した市場価格・相続税評価額・固定資産税評価額が、一般の方にとって最も重要な“3つの価格”です。実務の世界ではさらに多くの価格が使われていますが、相続や不動産売買でまず理解すべきは、今回取り上げた「3つの価格」で十分です。
○なぜ3つの価格は一致しないのか?
理由は、“役割の違い”にあります。
【市場価格】:実際の取引で決まる“リアルな価値”
【相続税評価額】:税制の公平性を保つための“標準化された価値”
【固定資産税評価額】:毎年の税負担を安定させるための“行政上の価値”
つまり、どれが正しい・間違っている、という話ではなく、目的が違うため価格が異なるのです。この構造を理解しておくと、相続・売却・購入・資産形成・税金の判断が一段とクリアになります。
○不動産は「相続税対策として有利」と言われる理由
ここで相続税に関心のある方が最も知りたいポイントに触れておきます。
現預金は「相続税評価=100%」
不動産は「相続税評価<市場価格」となりやすい
つまり、同じ1億円でも“不動産の方が評価額が下がる”ため、相続税負担が軽くなる場合があるのです。
【例】土地の市場価格:1億円→相続税評価額:7,000万円
現預金の時価:1億円→相続税評価額:1億円
もちろん不動産は、流動性の低さや管理コスト、元本保証がないといった注意点はありますが、不動産が相続税対策として一定の役割を果たす理由はここにあります。
不動産の価格構造を正しく理解することは、相続・売却・資産形成・税金対策を考えるうえでの土台になります。
本記事をきっかけに、ぜひご自身の不動産が「どの価値で判断されているのか?」を確認してみてください。
佐嘉田 英樹 さかた ひでき アテナ・パートナーズ株式会社 代表取締役。1991年に東京大学卒業後、富士銀行(現・みずほ銀行)入行、主に融資営業・マーケティング戦略企画に携わる。その後不動産・建設業界に身を転じ、建売分譲、賃貸アパート、介護福祉施設等の企画開発・売買などに従事し、2023年8月に独立。地主・不動産投資家・中小企業の不動産活用コンサルティングやプロジェクト・マネジメント、テナント企業の開業支援を行う。宅地建物取引士、不動産コンサルティングマスター、2級建築士、FP2級など幅広い専門知識を駆使し、総合的な視点からクライアントの課題解決にあたる。
アテナ・パートナーズ株式会社:https://athena-ptr.co.jp/
アテナ・パートナーズ株式会社は、お客様のニーズや目的を詳細にヒアリングして、物件や市場の調査を行った上で、所有不動産の有効活用、開発、建て替え、リノベーション・用途変更、売却、交換など、多角的・戦略的な企画提案・マネジメントを行う。企画計画から資金調達、テナント誘致、設計、工事、引き渡しまで一貫してプロジェクトをマネジメントすることで、独自のビジネスモデルを展開する。 この著者の記事一覧はこちら(佐嘉田 英樹)