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飲食店版ファストパスサービス「SuiSui」がじわじわと広がっている。
【画像】最大5000円で「行列をスキップ」して先頭に 飲食店ファストパスじわり拡大
優先入店チケットを購入することで、人気店で行列をスキップして一番前に並ぶことができるサービスだ。みそかつの「矢場とん」やラーメンの「つじ田」など有名店も導入しており、2025年5月のサービス提供開始から、導入店舗数は全国の主要都市を中心に約70店舗に上る。
これまでも飲食店の「行列問題」を解消するサービスは存在していた。事前に日時を指定して有料で優先入店枠を確保する仕組みが代表例として挙げられるが、SuiSuiは店頭で優先入店チケットを購入することで順番をスキップできる点に特徴がある。
「有料で予約して来店したが、想定より空いていた」という事態が起こり得る事前予約型と異なり、混雑を確認したうえで判断できる即時性の高さが強みだ。
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チケット価格は変動制を採用しており、平均価格は900〜1000円。しかし、人気店ではランチ帯のチケット価格が1000円を超えたり、期間限定のコラボイベントなどを実施している店舗では5000円の値がついたりすることもある。
「並んでいるのに」と、抜かされることに不満を覚える消費者もいそうだが、SuiSuiでは価格設定や運用面の工夫によって、大きなクレームに発展することは避けられているという。
導入店舗では、店頭のポップでSuiSuiの存在をアナウンスしている。加えて、SuiSui利用者が入店する際には、店員が「SuiSui利用です」と声を出して案内し、並んでいる客にもサービスの存在を伝える。店舗によっては、列の先頭客に「SuiSuiの利用があるため先にご案内します」と説明し、唐突な順番変更にならないよう配慮しているという。
SuiSuiのサービスや価格設計の考え方、利用者や利用シーンについて、サービスを運営するSuiSui(栃木県那須塩原市)の代表取締役 佐藤慶一郎氏に話を聞いた。
●サービス設計の肝は「変動する価格」
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まず、SuiSuiの使い方から紹介したい。利用者はSuiSuiの公式Webサイト経由か、SuiSui導入店舗の店頭に掲出されているQRコードをスマホで読み込んでアカウントを作成し、決済用のクレジットカードを登録する。
実際に来店し、登録画面上でファストパスを使いたい飲食店を選択。代表者1人が「現在のチケット価格」を確認したうえで人数分のチケットをまとめて発行する。チケット価格は変動制のため、店頭での発行という仕様にしている。
発行したチケットの画面を店舗スタッフに提示し、店頭の指定場所で待機。席が空いたタイミングで、チケットの料金を支払い、行列をスキップして1番目に入店できるという仕組みだ。チケット価格の上限金額や1組当たりの購入枚数制限は店舗が自由に設定できる。
佐藤氏は「サービス設計において、チケットの価格設計が肝でした。行列と価格のバランスをどう取っていくか、そのバランスがハマった時に『SuiSuiというサービスの可能性』を感じました。実証実験で検証した価格設計が現在のサービスを支えています」と話す。
実証実験では「抜かされる」という点に不満を覚え、怒鳴られた経験もあったという。どのような試行錯誤を経て、いまのSuiSuiがあるのか。
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●「ふざけるな!」 渋谷の人気店で怒鳴られた実証実験
SuiSuiの実証実験は2023年1月、渋谷の町中華「喜楽」でスタートした。ランチタイムには行列ができる人気店だ。現在は価格変動制を採用しているが、当時は価格固定制で運用を開始した。
「喜楽さんでは最初500円で案内していました。ある時、チケットを購入する人が続出して、SuiSui利用者の列にたくさん人が並んでしまいました。その時に普通に待っていた先頭のお客さんに『ふざけるな! 一生入れないだろ』と怒鳴られたんです」
その経験を踏まえて、価格変動制への移行を決めた。当時は行列を見ながら、「あそこの路地に入ったら700円にしよう」「あの店の前まで列が続いたら1000円にしよう」といったアナログな調整をしていた。
価格の上げ幅を見誤ると、SuiSuiの利用者は減ってしまう。その適切な水準を見極めるのが難しかった。喜楽での実証実験からヒントは得られたものの、混雑状況に応じて価格を自動的に決められる段階には至らなかった。その後、実証実験の場を名古屋の「矢場とん」に移し、2023年3〜10月まで試行錯誤を繰り返した。
「矢場とんさんでは、列に並んでいる人全員に『今500円払ったら先頭に行けますが、どうですか?』と話しかけて、購入時間と組数、購入理由を調査しました。また、購入につながる待ち時間や待ち環境についても複数店舗に足を運び仮説検証を行いました」
8カ月の実証実験を経て、客単価、席数、回転率、客層、待ち時間、待ち環境の6つの要素を基にチケット価格が自動的に変わる仕組みを整えた。その中でも、特に「待ち時間」と「待ち環境」が購入を後押しする要素として大きいという。
「待ち時間でいうと、視覚的に『30分ほど待ちそう』という感覚が生まれると購入率が上がります。人数でいうと10組20人並んでいる状態です。待ち環境は少し複雑で、例えば店頭で待てるのかどうかも大きく影響します。店舗Aは店頭で待てるけど、店舗Bは店頭で待てるのは10人程度で、それ以降は100メートルくらい離れた待機場所に列を作ってもらう。Bの店舗の場合、待機場所から店の入り口が見えないので『いつ入店できるのだろう?』と不安になり、購入につながることも多いです」
実証実験の中では、カメラで待ち時間をリアルタイムで計測して価格に反映させる案も出たが、列が離れている場合に両方を計測するのが難しかったり、初期費用やメンテナンス費用が発生したりする理由から断念した。
●店舗のチケット売り上げは約10万円に 最高単価は5000円
チケットの価格設定は業態や店舗によって異なるが、現在の平均は900〜1000円。先述したように、イベントや人気IPなどとコラボしている店舗の場合だと一時的に5000円になるケースもあるという。
「飲食店に入るのに追加料金は支払いたくないが、抜かされるのはモヤモヤする」という声もありそうに感じるが、意外とクレームにはつながっていないという。その消費者心理について、佐藤氏は以下のように説明する。
「ユーザーインタビューを通して、日本人は待つことへの抵抗感が高くないことが分かりました。全店がSuiSuiを導入している『東京ラーメン横丁』で並んでいる人に話を聞いたところ、『30分は全然待てる。1時間でもギリギリ待てる』という声が意外と寄せられたのです。飲食店さんにSuiSuiの話をするとクレームを心配されるのですが、SuiSuiの利用率はランチなどのピーク帯で10%程度なので、SuiSuiのせいで普通に並んでいるお客さんが抜かされ続けるということは起こっていないと思います」
SuiSuiは都内の人気店や、主要都市でご当地グルメを提供する店舗での導入が進んでいる。利用者は観光客が中心だが、都内の人気ラーメン店などではビジネスパーソンの利用も目立つという。待ち時間を時給換算したときにチケット価格がお得であれば利用するというわけだ。
外国人観光客の利用も増えている。店頭のポップでSuiSuiを知り、その場でアカウント登録して使用する。チップ文化が浸透しているからか、外国人の中でも米国出身者の利用が多いという。
店長が頻繁に変わりSuiSuiの運用が引き継がれなかったり、混雑していてSuiSuiに対応できなかったりする店舗を除くと、導入店舗でのチケットの平均売上は月10万円に上る。収入は、店の修繕費や人件費に充てられている。
実証実験と丁寧なユーザーインタビューで消費者のニーズを捉え、順調に導入店舗数を伸ばしているSuiSui。佐藤氏は今後、どのような点が課題になると考えているのか。
●そうは言っても「抜かされる」は一定のリスク
佐藤氏は今後の事業課題について「すでに並んでいる人が『抜かされる』のは、やはり一定のリスクをはらみます。この不満を解消するためには大手企業が運営する店舗や、商業施設単位での導入が必要になってくると考えています」
SuiSuiの「行列を抜かせる」という利点が、サービス成長の足を引っ張る可能性があるのだ。飲食店でのファストパス利用を、日本でも文化として定着させることが喫緊の課題となる。
こうした課題に付随して、飲食店のGoogleマップや食べログなどのWebサイトにネガティブな口コミが書かれる可能性も懸念しているという。導入店舗もその点は気にしており、佐藤氏は導入店舗と対策を話し合っている。
その一つとして、店頭に掲出しているSuiSuiのポップの変更が挙げられる。これまではメリットを分かりやすく訴求するシンプルなデザインだったが、ネガティブな印象を持たれないよう、イラストを入れるなどして、優しい雰囲気のデザインに変更した。
「ポップ以外ですと、接客の質の向上も重要です。抜かされた人が入店した際に雑な接客をされたり、料理の提供スピードが遅かったりすると、不満がどんどんたまっていく。逆に接客の質が高ければ、抜かされたという負の感情は多少小さくなると思うので、そこは店舗さんにお願いしています。実際、店員さんの視野が広がって、接客の質が上がったという声も導入店舗さんから聞いています」
SuiSuiによって飲食店は、行列を「収益」に変える手段と、これまで「いつも並んでいるから」と入店を諦めていた潜在顧客を獲得する機会を得た。追加料金を払って行列をスキップする行動はまだ少数派だが、少しずつ新たな選択肢として受け入れられていくかもしれない。
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