写真大事件ばかりがニュースではない、身近な小さな事件の方が人生を左右することも。注目のテーマを取り上げ大反響を呼んだ仰天ニュースからベストセレクション!(初公開2025年9月26日 記事は取材時の状況) * * *
会社内で巻き起こる数々のハラスメント行為に対して、以前よりも厳しい目が行き届くようになりつつありますが、それでも、まだまだ職場で苦しんでいる人は少なくありません。
今回は、かなり劣悪な労働環境で仕事に従事していた男性が、意を決して打開したエピソードです。
◆恐怖の命令「崩れかけのプレハブで働け」
話を聞いた金属加工会社で働く田中さん(仮名・29歳)は、真面目で几帳面な性格。しかし、その誠実さが、上司に逆らわない都合のよいキャラクターとして、工場長の目には映っていたようです。
ある日、「おい田中、旧社屋のプレハブに行って在庫を確認してきてくれ」と、工場長から思わぬ命令が下ったといいます。
その建物は、今にも崩れ落ちそうな老朽化した工場でした。田中さんは身の危険を感じ、「あの建物は危ないです。中に入るのは……」と渋りました。すると、工場長は机を叩きつけるようにして怒鳴り散らしました。
「文句を言うなら、辞めろ!」
その瞬間、田中さんの胸に走ったのは恐怖だけでなく、強い疑問だったといいます。「このままでは、必ず事故が起きる」と感じた田中さんは、黙って従うべきか、立ち向かうべきか、揺れ動きながらも、心に決意を固めていたそうです。
◆孤立無援の戦いと小さな武器
工場長の家は町の名士として知られ、誰も逆らうことがありませんでした。田中さんは「もし自分だけが声を上げたら、職場に居場所がなくなるのでは」と不安を抱えていたといいます。
「正直、夜は眠れませんでした。けれど、このまま放置すれば誰かが大けがをする。それだけは避けなければと思ったんです」
そう語る田中さんが手に取った方策は、意外にも毎日の作業日報でした。工場長が命じた危険な作業の指示を、一字一句漏らさず記録し続けたのです。そして、その日報を写真に撮り、匿名で労働基準監督署へ通報したのでした。小さな一歩に見えて、それは大きな波紋を呼ぶ行動でした。
◆労基署の抜き打ち調査と工場長の失墜
通報から数日後、労働基準監督署の担当者が突然工場を訪れました。普段は強気な工場長も、この時ばかりは狼狽(ろうばい)していたそうです。隠していた作業日報が押収され、危険な指示の数々が明るみに出ました。
「本来は他の部署や上司に相談すべきなのは分かっていました。しかし、会社側がその行為に対して素直に応じてくれるかどうかは不明でした。さんざん悩んだ挙句の行動です。正直言って、労働基準監督署の人が訪問してきた瞬間は震えました。けれど同時に、ようやく真実が認められたという安堵感もありました」
調査の結果、工場長は厳重注意を受け、後日さらに大掛かりな監査が入ることに。経営陣も事態を深刻に受け止め、工場長をサービスセンターへ異動させました。事実上の左遷であり、現場を去る姿は憔悴しきっていたといいます。
◆工場を救った小さな勇気
工場長がいなくなった後、現場には穏やかな空気が流れるようになりました。作業員たちから「よくやってくれた」「これで安心して働ける」と声をかけられた田中さんは、胸をなでおろしました。
「自分ひとりの力なんて微々たるものです。でも、あのとき行動しなければ、誰かが傷ついていたかもしれません」
田中さんの小さな勇気は、工場全体を守る大きな転機となりました。危険な命令に屈せず、証拠を積み重ねた冷静な判断が、現場の未来を変えたようです。また、今回の行動は上層部の目にもしっかりと映り、数ヶ月後に人事部への異動が決まったそうです。
「どこまでできるか分かりませんが、会社に認められたことが、とても嬉しくて、これからもより働きやすい環境を整備するためにがんばりたいです」
取材の最後に握手してくれた田中さんのしっかりとした目力がとても印象的でした。今回のことがきっかけとなり自分自身に自信がついたという彼は、入社以来交際していた彼女と来春に結婚することになったそうです。
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営