長時間の車中待機もいとわない“釣果のためには何でもやる”をモットーに、釣りの楽しさを伝えるYouTubeチャンネル「バチ抜けチャンネル【初心者釣りガール】」が人気を博している。
出勤前にスーツ姿で釣りへ繰り出すなど、現役のOLでもある発信者の「バチ抜け」さんに聞く後編では、釣り具へのこだわりや出勤前の釣りの最中に見舞われたアクシデント、今後の目標などについて聞いた。
◆こだわりの“自作釣り具”
――釣り具に対するこだわりは何ですか?
バチ抜け:けっこう自作しているんです。山形県にある大鳥池という湖に、伝説の巨大魚と言われているタキタロウを釣りに行く計画を立てた時、準備段階として「タキタロウを釣るための竿作り」を動画にしました。まずは竿の元になるブランクスという棒を購入し、その棒に糸を通すためのガイドを自分で配置したり、リールを付けるためのシートを付けたりして、リュックに入れて持ち歩くためのパックロッド(収納できるタイプの釣竿)を作ったんです。
自作の竿で釣った魚は格別なので、まだ作ったことがないという方は、1本だけでもいいので作ってみてほしいです。いまはいろいろな材料が売られていますし、竿のことも詳しく分かるようになりますし、何よりも愛着がわきます。
――他におすすめのアイテムはありますか?
バチ抜け:ジェットボイルはおすすめです。小さな火力で短時間でお湯を沸かせて、その中でラーメンやレトルトカレーを作れるのですが、めちゃめちゃ重宝しています。釣り場は海や磯など風が強い場所が多いですが、風にも強いですし、なくてはならないアイテムです。車中泊をしていても、最初はパエリアとか凝った料理を作ったりしていましたが、結局ラーメンやレトルトに行きつきます(笑)。ジェットボイルを持っている釣り人の方はすごく多いですが、それだけ役に立つアイテムなんじゃないかなと。
車だと軽バンですね。フルフラットで快適に寝られて荷物がたくさん積める車が一番だと思っていて、ハイゼットカーゴに乗っています。運転席と助手席をつぶさず、後方で完結できる車だと人を乗せることもできますし、ラクかなって。助手席をフルフラットにできる車もありますが、後ろでベッドを組んだり、完全に寝られる状態にしたかったんです。
◆人気スポットで直面した、車中泊の過酷さ
――ベッドも自作されている?
バチ抜け:自分で切ったり、つなげたりできる、けっこう太めのイレクターパイプ(金属性)を組み合わせてベッドを作っています。キャンピングカーみたいなことがしたくて、軽バンを選んだ感じですね。
――車中泊で印象的だったことは?
バチ抜け:新潟県上越に「ハッピーフィッシング直江津」という釣り場があるのですが、すごく人気で車の行列ができるんです。オンシーズンだと前日から並ばないと入れないような状況(※)で、翌朝に釣りをするために前日の午前中から車で並んで。24時間くらい車内で過ごしていました。
※並び方は適宜変更される場合があり、行かれる方は事前にご確認ください。
全然車が動かないのですが、それでもいつ前に進むかもわからないですし、私は一人で行っていたので車から離れることもできず、大変でした。寒い日だったのですが、エンジンをつけっぱなしにするわけにもいきませんし、凍えていましたね。あと、一番困ったのはトイレです。携帯トイレを持参しましたが、とにかく何もかも車内でしなければいけなかったので。
――そこまでして行くほどの魅力がある?
バチ抜け:そうですね。30〜40センチほどの大きなアジを釣れたりしますし。それくらいのアジが陸から釣れる場所って本当にないので、定期的に行きたくなる釣り場です。ハッピーフィッシング直江津周辺は釣りをできる場所がほとんどないので、みんな並んででも行くんでしょうね。
◆注意喚起を込めて投稿した動画が大反響
――出勤前にスーツ姿で釣りをされている動画で、手に釣り針が刺さってしまったアクシデントも拝見しました。
バチ抜け:それまでに魚を釣った経験が少なかったのが大きな要因だったのかなと。釣れた直後にどうしていいのかわからなくなり、パニックに陥ってしまったんです。針には釣った魚をかかりやすくするために「かえし」という部分があるのですが、かえしまで皮膚に中に入ってしまって…。けっこう大型の魚を狙っていたこともあって、自分で曲げたりすることは絶対にできないくらいの太い針でしたしね。
――どのあたりに刺さったのですか?
バチ抜け:親指と人差し指の間のけっこう厚みがある部分です。仮に皮膚の端とかに刺さっていたら逆に貫通させてしまって、針を切ったり、かえしを潰して引き抜いたりとかできるのですが、貫通させることもできない微妙な箇所だったんです。近くで釣りをされていた方が手伝ってくれて、魚と針は引き離すことはできたのですが、針は自分で引き抜けず、これは病院へ行かないといけないと。
針が刺さったままの手で車を運転して朝一で病院へ行き、麻酔をして針を抜いてもらいました。出勤前に釣りをしようと思って行ったのに、結局会社に遅れることになってしまって……。
――そんな状況でよく動画が撮れていましたね。
バチ抜け:めちゃめちゃ焦っていたので、カメラが付いているか付いていないかもわかってなかったんです。でも、後でカメラを見たらめっちゃ映ってるやんって。でも、動画を投稿したら、「リスクを考えてなかったんじゃないか」と言われたり、炎上する可能性もあるわけじゃないですか。そういう心配もあって動画を投稿しようかどうかすごく迷ったのですが、初心者にありがちなリスクの一つでもあるので、注意喚起の意味を込めて思い切って投稿しました。
◆「釣れない時間」があるからこそ
――その動画が500万回近く再生されています。
バチ抜け:そうなんです。なので、この動画をきっかけに私を知ってくださっている方が多いと思います。「あ、スーツの子やろ」みたいに言われるので(笑)。私のチャンネルは知らなくても、「スーツで出勤前に釣りしたりしています」と言うと、「あぁ!」って言ってくれる方もいたりします。
――YouTubeチャンネルを運営するうえで、意識していることは?
バチ抜け:どんな動画を視聴者さんに見てもらいたかって考えてみると、魚を釣るまでの“全ての過程を共有したい”というのがあって。順序良く全てが上手くって魚が釣れましたっていう動画も一つの形だと思いますが、全然釣れなかったり、いろいろな失敗をするのが普通ですし、その分最後に釣れた時の感動を共有できると思うので。そういう部分も含めて見てもらえるような動画作りは心がけています。視聴者さんたちはすごく優しくて、そんな失敗に対して励ましてくれたり、今後失敗しないように丁寧に教えてくれたりします。
◆視聴者は「保護者のような存在」
――バチ抜けさんにとって、視聴者の方々はどんな存在ですか?
バチ抜け:保護者のように、優しく見守ってくださる存在ですね(笑)。すごく温かい方が多いですし、視聴者さん同士でも仲良くしてくださっているような雰囲気も感じています。最近では「バチ抜けさんを見て釣りを始めました」とか「バチ抜けさんと同じ釣り具を買いました」と言ってくださる方が増えてきましたし、それもすごく嬉しいです。
――オフ会など、ファンの方々と交流する機会はありますか?
バチ抜け:今のところ、そういうことはあまりしていません。一度だけ店頭イベントに呼んでいただいたことがあるのですが、その時に多くの視聴者の方々とお会いできました。
――サインとかもするのですか?
バチ抜け:「サインをしてください」って言ってくださる方とかもいるのですが、ただのОLなんで、サインとか考えてないじゃないですか(笑)。でもサインを作らなみたいになって、友達に考えてもらったサインを書く練習をするのですが、いまだにちゃんと覚えてなくて、毎回違うサインを書いています(笑)。
◆釣れる魚は増えたけど、友達は減った
――YouTubeを始めて、暮らしは変わりましたか?
バチ抜け:ガラっと変わったかもしれません。本当に釣りばっかり行くようになってしまったので、友達と遊んだりする時間はほとんどなくて……釣れる魚の種類は増えたのですが、友達は減りましたね(笑)。
――会社勤めはこの先も続けていく?
バチ抜け:続けるつもりです。YouTuberはいつどうなるかわかりませんし、この先のことを一切保証されていないじゃないですか。もしYouTubeチャンネルの運営だけになったら、めちゃめちゃ怖いです。生活の安定というか、老後も安心して釣りをしていくためには働かないといけないと思っています。
――ご家族の反応は?
バチ抜け:親にはYouTubeをやっていることを言っていないんです。動画を見られるのがすごい恥ずかしいというのが理由なんですけど。
――登録者が10万人以上いますし、メディアにもご出演されているわけで、よくバレませんね?
バチ抜け:バレたらバレたで、それくらいまで登録者が増えたってことかな、嬉しいことかなって思えるかもしれませんが、自分から言うつもりはありません(笑)。最近、地上波のテレビ番組に出演させていただく機会があったのですが、親がたまたまテレビをつけていて私が出ていたらびっくりするだろうなってドキドキしているのですが、いまだに言われたことはないので。もしかしたら知っている可能性はありますし、知っているけど私には言っていないだけかもしれませんし…いずれにせよ、バレていないと信じてやっています。
◆「釣れないチャンネル」の看板を下ろしたい
――今後の夢やYouTubeチャンネルの展望をお聞かせください。
バチ抜け:チャンネル登録者が10万人になったので、4月に六甲マリンパークで10万人突破感謝イベントを開催する予定です。「みんなで釣り場でワイワイできたら楽しいだろうな」ということは以前から思っていましたし、それが実現できることがすごく嬉しいです。あと、釣りの目標でいえば、ショアジギング(岸から金属製のルアールアーを遠投して青物を狙う)でブリを釣ることです。ずっと目標にしているのですが、5年かかってもまだ釣れてなくて……。
――なかなかうまくいかないことも釣りの魅力?
バチ抜け:そうですね。ただ、私のチャンネルは「釣れないチャンネル」と呼ばれているくらい釣れていないので、なんとか釣りたいなと思います(笑)。
<取材・文/浜田哲男>
【浜田哲男】
千葉県出身。専修大学を卒業後、広告業界を経て起業。「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」の取材をはじめ、複数のスポーツ・エンタメ・ニュース系メディアで連載企画・編集・取材・執筆に携わる。X(旧Twitter):@buhinton