「なんちゃって制服」は誰が着るのか 原宿と舞浜で広がる“意外な利用シーン”

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2026年04月18日 12:10  ITmedia ビジネスオンライン

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なぜ、若者は制服を借りるの?

 東京・原宿の路地裏をぶらぶら歩いていると、ちょっと気になる店を見つけた。ディスプレイには中高生向けの制服が並ぶが、よく見ると女子用だけではない。ブレザーやスラックスなど、男子用の制服もそろっている。


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 調べてみると、この店では学校指定ではない、いわゆる“なんちゃって制服”を販売している。学校の制服といえば、指定された店でしか買えないケースが多い。色やボタンなど細かな指定があるので、生徒は疑問を持たずに、決められたところで購入するわけだが、この原宿の店は違う。


 店内に足を踏み入れると、まず目に入るのは、さまざまなデザインの制服だ。ピンクや黄色といった派手なスカートのほかに、ベーシックなネイビーやグレーまで幅広く並んでいる。また、販売だけでなく、レンタルも行っており、例えば5時間だけ借りることもできる。


 店の名前は「カンコーショップ原宿セレクトストア」(以下、カンコーショップ)。「制服の販売やレンタル」と聞くと、イケイケドンドンの新興企業を想像するかもしれないが、運営しているのは、1854年創業で学校の制服などを手がけてきた菅公学生服(岡山市)である。担当者によると「長い歴史の中で、なんちゃって制服の販売は初めての試み」だという。


 筆者は、50代の男性である。店内に並ぶ制服とは、全く関係のない生活を送っている。興味本位で入っても、店のスタッフから「怪しい人が入って来たな」と冷たい視線を向けられるかもしれない(そうに間違いない)。いや、じっくり見ていたら、店の外につまみだされるかもしれない。


 そんな不安もあったが、記者として取材で話を聞くのであれば問題はないはず。恐る恐る打診したところ「大丈夫ですよ。ぜひ、お願いします」と前向きな返事が返ってきた。そこで、お言葉に甘えて、インタビューをお願いすることにした。


 そもそも、この店にはどのような人が訪れ、どのような目的で制服を購入・レンタルしているのだろうか。カンコーショップの店舗運営を担当している堀小百合さんに話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンライン編集部の土肥義則。


●オープン当初の反響


土肥: JR原宿駅から徒歩5分ほどのところに「カンコーショップ」がありますよね。「観光地+若者文化の中心」ともいえる場所に、この店は2016年にオープンしたそうで。入口を入ると、向かって右手に購入できる制服がズラリと並んでいて、左手にレンタル用の制服がたくさんある。


 中高生の制服といえば、学校や自宅近くの指定店で購入するケースが多いと思いますが、流行の最先端ともいえる場所に、なぜこのような店をオープンしたのでしょうか?


堀: 当社は学校の制服や体操服などを販売していますが、ご存じのとおり、子どもの数がどんどん減っています。このまま本業だけを続けていても、業績の維持が難しくなるのではないか。このような課題があったので、ターゲットを広げることはできないかと考えました。


 学校によっては、制服がないところがありますよね。そうした学校の生徒の中には、私服で通う人もいれば、市販の制服を購入して通う人も。こうした生徒に向けて、制服を販売できないかと考え、この店をオープンしました。


土肥: 当初の反響はどうでしたか?


堀: 残念ながら、いまひとつでして。制服の価格は、セットで5万円ほど。高校生がフラッと立ち寄って、購入できる金額ではないですよね。1日の売り上げが「ゼロ」の日もありました。


 苦戦した日が続いていましたが、お客さまから「遊びに行くときに、ちょっと着たい」「学校指定の制服がない。購入するのは高いので、試しに着てみたい」といった声がありました。であれば、レンタル事業を始めてはどうかと考えました。


●どんな人が借りているのか


土肥: レンタルの価格を見ると、3点セット(スカート+リボン+シャツ)の場合、当日返却で2400円。高校生にとっても、手が出る金額かなと思いますが、反響はいかがでしたか?


堀: 「この店で制服を借りられる」という知名度がなかったので、当初は苦戦しました。ただ、口コミの広がりもあって、じわじわと人気が出てきまして。繁忙期の2〜3月には、売り上げが想定の2倍ほどになりました。


土肥: ふむふむ。ところで、どのような人が借りているのでしょうか?


堀: 当初、中学生または高校生が多いかなと思っていました。もちろん、その世代も多いのですが、大学生の利用も少なくありません。高校を卒業すると、制服を着る機会ってほぼないですよね。そうした中で、「遊びに行くなら制服を着てみない?」といった友だち同士の会話をきっかけに、来店するケースも多いです。


土肥: 高校生のときに制服を着ていた人であれば、不要ですよね。なぜ、わざわざ借りるのでしょうか?


堀: 次の4つのパターンが多いですね。高校生のときに指定の制服がなかったので、借りに来た。制服はあったけれど捨ててしまったので、借りに来た。制服はいまも持っているけれど、デザインが好みでないので、かわいいものを借りに来た。友だちと同じ制服を着たいので、借りに来た。


 また、大学で彼氏ができたケースもありますね。高校が違うので本来の制服はそろわないんですが、“なんちゃって制服”で同じデザインを選んで、「そろった雰囲気で写真を撮りたい」と。ちょっとした思い出づくりですね。


 あっ、ちなみに、利用者のほとんどは女性です。男性は交際相手に付き添って来店し、「私はこのデザインを着るから、あなたも同じにして」と言われ、その流れで借りるケースがほとんどですね。ほぼ、自分の意見はない(笑)。


 あと、コロナ後はインバウンドのお客さまが増えました。原宿の店で借りて、近くの観光地を歩く……といった人も多いのですが、制服を着て「鎌倉に行く」という声もよく耳にします。


土肥: 原宿から鎌倉に? 鉄道で1時間ほどかかりますが、なぜ?


堀: 漫画『スラムダンク』で、鎌倉の踏切が登場しますよね。いわゆる“聖地”とも呼ばれている場所で、作品のシーンを再現するかのように、制服を着て写真を撮る人が多いんです。


●人気のコーディネート


土肥: 制服レンタルは200アイテムほど扱っているそうですが、人気のコーディネートや色を教えてください。


堀: 高校生らしい色がよく選ばれています。ブレザーは、ネイビーとグレーが中心ですね。スカートは落ち着きのある色味が多く、チャコールグレー、ピンクグレー、グレーが上位に。スラックスもチャコールグレー、グレー、ネイビーが中心です。先ほど「男性の意見はほぼない」という話をしたように、スカートに合わせた色が上位に並んでいますね。


 ブレザーとスカートはベーシックな色がよく選ばれていますが、リボンやニットで自分らしさを取り入れようとする人が多い。リボンはピンク、ネイビー、エンジ、ニットはエンジ、ネイビー、ベージュがそれぞれ人気ですね。


 レンタル事業を始める前は、非日常感を味わうために、派手な色が好まれると思っていました。ハロウィンやバレンタインなどの季節イベントでは、華やかな色を好む人が増えてきますが、それでもベーシックなものが人気ですね。ちなみに、外国人はどうか。同じく、ベーシックな色を好むんですよね。「日本の高校生らしくいたい」という気持ちが強いのではないでしょうか。


土肥: 2023年に、千葉・舞浜駅の近くにある商業施設「イクスピアリ」内にもオープンしましたよね。


堀: 原宿店でレンタル事業を始めたところ、「ディズニーに行くから、制服を借りたい」という声がものすごく多かったんですよね。原宿で借りてそのまま現場に行ったり、前日に来店して翌日に行ったり。であれば、ディズニーの近くに出店すればよいのではと考え、出店しました。


 原宿店は一人で来店するケースが多いですが、イクスピアリ店は複数人での利用が目立ちます。友だちと制服を着て、ディズニーに行く人が多いからではないでしょうか。ちなみに、こちらでもベーシックな色が人気で、高校生らしさを求める声が広がっています。


 あと、イクスピアリ店の近くには、プリクラの店がありまして。制服を借りて、近くのプリクラで撮影する。そうした循環が生まれているのも特徴ですね。


●制服のデザインにトレンドあり


土肥: 一般的なアパレルには、流行がありますよね。昨年はこのデザインが流行って、今年はこの色が選ばれるといった具合に。制服のデザインにも、トレンドはあるのでしょうか?


堀: アパレルほど流行に大きく左右されることはないですが、実は少しずつ変えているんですよね。生地を変えたり、柄を刷新したり、色を変更したり。200アイテムほど扱っていますが、毎年1〜2割ほど入れ替えています。


土肥: 売れ行きを見て、ラインアップを調整しているのでしょうか?


堀: 売り上げのほかに、お客さまがどんな制服を試着しているのかといったデータも分析しています。また「カンコー委員会」という組織があって、高校生に参加してもらっています。そのメンバーには、商品開発にも関わってもらっていて、さまざまな声を集めています。中にはかなり鋭い意見もあって、そうした“生の声”を参考にしながら、デザインに反映しています。


土肥: かなり細かく分析しているのですね。ただ、最後はやっぱり「高校生らしく見えるかどうか」に行き着く。突き詰めるほど、結局は“それっぽさ”に戻っていくわけですね。本日はありがとうございました。


(おわり)


※下記の関連記事にある『【完全版】「なんちゃって制服」は誰が着るのか 原宿と舞浜で広がる“意外な利用シーン”』では、配信していない豊富な写真とともに記事を閲覧できます。



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