写真女子SPA!で大きな反響を呼んだ記事を、ジャンルごとに紹介します。こちらは、「結婚」ジャンルの人気記事です。(初公開日は2022年4月27日 記事は取材時の状況)
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配偶者の不倫が人生を思いがけない方向へ急転させることがある。許せずにすぐ離婚する人もいるだろうし、再構築を目指す人もいるだろう。だが、選択肢が見つからず、許したわけではないが同居せざるを得ないというケースもある。
◆結婚してからずっと幸せだったのに
「結婚して13年になります。妻とは大きなケンカをしたこともないし、ずっと幸せだった。だからここ1年のできごとが自分でも信じられないんですよ……」
憔悴(しょうすい)したようにそう言うのは、ヒデキさん(42歳)だ。仕事関係で知り合い、20代半ばからつきあっていた同い年のユウカさんと結婚したのは29歳のとき。30歳で長女を、4年後に次女を授かった。
「共働きで育ててきました。妻はおっとりした性格で、声を荒げることなどめったにない。
僕が異動になってひどく忙しかった時期があり、何もできなくてごめんねと言うと、『私は家庭優先、あなたは仕事優先でいいからね』と。その後、妻が仕事で多忙になったときは、もちろん僕が積極的に家庭を切り盛りして。うまくバランスがとれていたんです。でもそれはたぶん、彼女が無理してそうしてくれていたんだと思う」
そんな彼女が40歳を目前に妊娠した。今から子育て、大変だなあと一瞬、ヒデキさんは思ったという。だが、「3度目の子育てが楽しみ」と喜ぶ妻の笑顔を見て、「もう一度、がんばるか」と心を決めた。
「3人目は男の子でした。上は10歳と6歳になっていたから、母親が3人いるみたいに息子をかまっているのがおもしろかった。僕も男の子と遊ぶのが楽しみでした。とはいえ、うちは娘たちがふたりともサッカーをやっているので、僕も常に練習にかり出されていたんですが、ますます体を鍛えなくてはと思いましたね」
ただ、息子が1歳になったころ、ヒデキさんは息子にふと違和感を覚えた。言葉にはならないのだが、何かが違う。本当に自分の息子なのだろうか、と。
◆親子鑑定検査キットを密かに申し込んだが
「あの違和感が何だったのかいまだにわからないんです。もちろん、妻が浮気したとか、そういうふうに思ったわけではない。だけど本当に自分の子なのかと疑惑がわいてきて」
DNAの親子鑑定検査キットを密かに申し込み、会社宛に送ってもらった。妻は産後半年で職場復帰していたから、息子の口内粘膜をとる機会はいくらでもあった。だが、ヒデキさんはなかなか行動にうつせずにいたという。
「でもあるとき息子の笑顔を見て、やはり本当のことが知りたいと検査キットを使いました。半月ほどでメールが来ました。その間、ずっともし自分の子でなかったらどうしようと考えていて、妻に『何か悩みでもある? 大丈夫?』と心配されたりもしましたね。
いざ返事が来たとき、僕、会議中だったんですよ。だけど見てしまった。そして……息子と僕が親子である可能性は限りなくゼロに近いとわかったんです。思わず会議を抜け出してトイレに駆け込み、吐きました。心のどこかで、そんなことがあるはずはないと思っていたんです」
ショックのあまり、その日はどうやって帰宅したのかも覚えていない。
◆心の中が嵐となって
妻に言うべきか言わざるべきか。ヒデキさんは悩んだ。こうなってみると妻を憎む気持ちはわいてこない。だが妊娠にいたる真実を知ったら恨んだり憎んだりするのかもしれない。妻の反応も怖かったし、自分の感情がどう動くかも予測できず不安が募っていった。
「それでも聞かないわけにはいかないというのが僕の結論でした。結果が出てから1ヶ月近くたっていた。でも娘たちには聞かせたくない。たまたま妻の両親が、娘たちを連れてどこかに遊びに行きたいと言ってくれました。僕らの子育ての負担を考えて、ときどきそういうことをしてくれたんです」
週末、娘たちを妻の実家に送り届け、ヒデキさんは自宅に戻った。息子が昼寝をしたところで、妻に鑑定結果を見せた。
「正直に言ってほしい。それだけ告げました。妻はじっと結果を見ていましたが、『だまっていてごめんなさい』と。
そこからぽつりぽつりと話したことをつなぎあわせると、僕には何の不満もない。ただ、あるとき取引先の男性に会って心臓が止まるほど驚いたと。その人は彼女の中学時代の初恋の人だった。片思いのまま告白もしなかったけれど、彼は1年生が終わると同時に挨拶もなく越していったというんですね。
それで彼女の心の中には彼の存在が焼きついてしまった。もちろん結婚後はほとんど思い出すこともなかったけど、偶然出会って、また恋心がよみがえった、と」
◆妻から関係を迫ったことにショック
だからといって関係をもたなくてもいいだろうとヒデキさんは妻に言った。そうよねと言いながら、妻は自分の気持ちが舞い上がってしまって、どうしたらいいかわからなかった。だから1度だけ関係をもって、初恋にケリをつけたかったのだそう。
「妻から関係を迫ったことにショックを受けました。それほど好きな人だったのか、好きな人がいれば僕や子どもたちを簡単に裏切るのか、と。
そう言ったら妻は泣きながら、『私の13歳のときの大事な思い出なの』と言いました。あなたと知り合う前のことに自分でちゃんと終止符を打ちたかったと。その気持ちはわからないでもないけど、実際に行為に及んだのは39歳の妻ですからね……」
“離婚するしかないの?”と言われたとき、ヒデキさんはドキッとした。離婚などまったく考えていなかったからだ。そういう選択肢があるのかと改めて感じた。
「もちろん、その彼とはそれきり会っていないそうです。たまたま彼が担当を変わって、仕事で会うこともなくなった。妊娠がわかっても彼には連絡をとらなかったと妻は断言しました。そこは信じようと思いました」
◆運命として僕らは受け入れるしかない
問題はこれからのことだ。息子はかわいい。違和感はあっても、それは愛情を覚えないということではない。むしろ真実を知ったために違和感をも受け入れられそうだと彼は思った。
「ともかく考えさせてほしいと言うしかなかった。その1週間後、妻の兄が突然、亡くなったんです。元気で明るい人だったんですが、脳卒中でした。義兄の妻も子どもたちも、そして義両親も、さらに妻もすっかり落ち込んで……。僕は彼らのサポートやらうちの子どもたちのケアやら、てんてこまいの日々でした」
今年になってようやく少しずつ、みんなが落ち着いて日常生活を送れるようになってきた。同時に2歳になったヒデキさんの息子のこともまた、彼の中で浮上してきた。
「妻から『気持ちに余裕がもてなくてごめんね。息子のことを話さないと』と言ってくれたんです。その間、兄を亡くした妻の悲しみや苦悩を見てきて、僕の中でも少し変化が起こっていました。妻と義兄は仲がよかったんですよ。義姉は妻が自分の友だちを兄に紹介して結婚した。だから兄ともう会えない妻の気持ちは、僕にもよくわかりました。
『人はいつかいなくなる。僕にとって縁のない子でも、きみの子であることには変わりない。今はそんな気がする』と僕は言いました。妻は『そうね、やっぱり離婚するしかないのかもしれないね』と。いや、そういう意味じゃないんだと僕はあわてました」
彼が言いたかったのは、これもまた縁なのかもしれないということだった。妻が浮気したのは事実だが、彼女は彼女の中に昔から巣くっている彼への思いを解放したかったのだろう。結果として子どもが産まれた。避妊はしていたし、妊娠する可能性の低い時期だったと彼女は言った。それなのに妊娠したのだ。産まれてくる運命だったのだろうと彼は考えた。
「義兄さんが亡くなって僕自身もショックだった。いい人でしたから。でもそれもまた運命として僕らは受け入れるしかないわけです。
理不尽ですよ、元気だったのだから。だけど受け入れるしかない。だったら妻が産んだ息子を受け入れてもいいんじゃないか。なんだかそんなふうに思ったんですよね」
◆「人として試されている」とすべてを受け入れた夫
妻はじっと聞いていたが、彼の目をまっすぐに見た。そして「愛せる?」と尋ねた。もうすでに2年も一緒に暮らしているんだから、愛していると彼は答えた。「きみのこともね」と彼はつけ加えた。妻は号泣したという。
「娘たちと息子を比べない。それだけは自分に課しました。おねえちゃんたちがものすごくめんどうを見てくれるので、息子は早くからおしゃべりが上手。息子を見ていると、これが自分の本当の子であっても不思議じゃないなあと今は思っています。
妻に対しては許す、許さないの問題ではないと思うようになりました。妻がしてしまった行為を、今さら責めてもどうにもならないですから」
もともと仲のよかった夫婦に亀裂は入っていないのだろうか。
「妻のほうは僕にちょっと遠慮しているところがあるかもしれませんが、もうそういうのはやめようと言いました。些細(ささい)な気持ちの変化も伝え合おうと。
過去を振り返っても何も生まれませんから。なんだかねえ……生きていくということは、自分や大切な人たちに起こったことをどううまく受け止めていくかにかかっているんじゃないかと最近、しみじみ思うんです。常に人として試されているような気がしますね」
彼はすべてを受けとめ、受け入れた。この先、夫婦関係や親子関係がどうなるかはわからない。だがそのつど、起こったことを受け止めて受け入れていくしかないのかもしれないと彼は穏やかな笑みを浮かべた。
<文/亀山早苗>
【亀山早苗】
フリーライター。著書に『くまモン力ー人を惹きつける愛と魅力の秘密』がある。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio