
プロのショコラティエがレシピを無料で公開する。経営者として考えれば「正気の沙汰ではない」と自分でも言う。それでも登録者38万人のYouTubeチャンネルを7年間続け、著書は今年10冊目となる。なぜやめられないのか。クックパッドのポッドキャスト番組「ぼくらはみんな食べている」で、江口和明さんが語ってくれました。
娘に伝えたかったレモンの味から始まった
江口さんのレシピには、プロの感覚からすると「こんなに入れちゃうの?」と思うほど素材をたっぷり使う場面がある。レモンケーキなら果汁をこれでもかと染み込ませ、バナナブレッドなら真っ黒になるまで熟れたバナナをふんだんに使う。その理由の一つに、娘への思いがあった。
「香料じゃないレモンの味を、このレモンケーキは子どもに伝えたかったっていうのは正直あります。なのでレモンってこうやって搾って、いっぱい果汁を染み込ませるんだよっていうのは、ある意味食育として教えたレシピなので」
自分の娘に伝えたくて作ったレシピが、YouTubeを通じて見知らぬ誰かの食育にもなっていく。それが、江口さんが一般向けにレシピを公開し続ける動機の原点にある。
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「僕のYouTubeを見た人がお菓子屋さんに行ったりとか、子どもにケーキを作ったりとか。そうすることによって未来のパティシエが育つじゃないですか。プロの講習会は今パティシエをやっているプロが見るんで、それは他のシェフにやってもらって、僕はその業界の裾野を増やしたいんですよね」
「絶対失敗させない」設計の哲学
裾野を広げるためには、誰でも作れるレシピでなければならない。だからこそ、設計に徹底的にこだわる。
卵を0.8個分、バナナ92グラムという表現は使わない。卵のサイズも何でもいい。「8の字が描ける状態まで」という工程表現も排除した。一方で絶対に外せない工程は決まっている。
「焼くときは予熱を10度高めにして。粉は絶対3回振るうこと」
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書籍でも同じ思想が貫かれている。見開きをまたいで工程が続くのを禁じた。手が汚れた状態でページをめくれないからだ。
「絶対失敗させない、みんながおいしいと思ってもらえるものを考えると、ああいう材料の使い方になるというか」
ただ、YouTubeは理想だけで続けているわけではない。7年分のデータはそのまま経営に直結する。店舗スタッフの「あれを売った方がいい」という意見にはバイアスがかかる。Googleから引っ張るYouTubeのバックデータに感情は入らない。
「全然売り上げに影響しますもん」
理想と現実、両方を走らせながら、7年間続けてきた。
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「レシピ配信なんて正気の沙汰ではない」
江口さんはかつてXにこう書いた。
「贅沢を言えば、私の書籍や配信を見た人がお菓子を作ってくれるととても嬉しい。成功するかもしれないし、うまくいかないかもしれない。でも、次また、材料を買いに行って、道具を買って、作るかもしれない。(中略)そういう、小さな幸せの種みたいなものが増えている感じが、やりがいになっている。そんな輪を、レシピ配信で創れるなら、私みたいなパティシエが居ても良いのかなって。普通は内緒にするだろうよ。当たり前ですよ、経営していればわかる。店やっているんだから、レシピ配信なんて、正気の沙汰ではない。ただ5年後10年後を考えたときに、今は未来の種を撒いているというか、その種が新しい形になっているんじゃないかって思って、続けているんですよね、だれか代わってくれるかな?」
その言葉について聞くと、江口さんはこう答えた。
「言っていることはブレてはいない気がしますね」
その言葉の通り、江口さんは今まさに行動に移し始めている。後継者づくりだ。
「15年先に10人後継者を作ろうと思ったら、今からやり始めるのがいいなと思ったんですよ。入社した瞬間に退社したときのことを考えるみたいなやり方って、今の時代にちょっと合っているなと思って」
その実践の場として、今年7月に新ブランドを立ち上げる。ショコラティエがロイヤルミルクティーのお菓子を作るブランドで、経営計画から事業計画まですべて共有しながら若手とともに動いている。
「未来の自分が今の自分を見たときに怒られないようにしておこう」
その言葉を胸に、今日も種を撒いている。
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【ゲスト】
第70回・第71回(3月27日・4月3日配信) 江口和明さん
シェフパティシエ・ショコラティエ
1984年東京都台東区生まれ。製菓専門学校卒業後、渋谷フランセ、高級チョコレート専門店などを経て、日本初上陸のベルギー老舗ショコラトリー「デルレイ」のシェフに就任。26歳でグローバルダイニングに入社し、経営を学ぶ。2013年、29歳でパティスリーカフェ「デリーモ」を創業。現在、東京を中心に7店舗を展開。2020年よりYouTubeチャンネルをスタートし、登録者数38万人を誇る。
HP:delimo.jp
Instagram:@delimo_patisserie
【パーソナリティ】
クックパッド株式会社 小竹 貴子
料理愛好家・料理の楽しみ共創室 部長
創業期から参画し、初代編集長としてメディアづくりに携わる。現在は、料理家や生産者といった食のつくり手の声を届ける活動を行っている。「日経ウーマンオブザイヤー2010」受賞。プロの技術や食材の背景にある物語を、暮らしに馴染む言葉で伝えることをライフワークに、生活者の目線で食の楽しさを探求している。
X: @takakodeli
Instagram: @takakodeli
この記事はクックパッドのポッドキャスト番組『ぼくらはみんな食べている』の配信内容を再編集した記事です。

