
茨城県で大型トレーラーが横転し、21歳の女性が命を落とした事故から3年。原因とみられているのが、極端にすり減ったタイヤによる“危険な運転”です。取材で浮かび上がってきたのは、安全とコストの狭間で揺れる運送業界の厳しい実情でした。
【何があった?】突然、反対車線を走るトレーラーが…イメージCGを見る
タイヤ摩耗のトレーラーが横転 21歳女性が下敷きに茨城県常総市の国道で花を手向け、手を合わせた星さん夫妻。娘の有里紗さん(当時21)は3年前の5月19日、この場所で事故に遭いました。
軽乗用車で国道を走っていた有里紗さん。反対車線の大型トレーラーが突然スリップし、回転しながら横転。有里紗さんは下敷きになり死亡しました。
有里紗さんの父 星伸一さん(58)
「(当時)あっちの道路はえぐられちゃてて、今直しちゃったけど」
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有里紗さんの母 ひろみさん(59)
「本当になんか生々しくて涙が出てくる。やっぱりここまで有里紗が生きていた。常に頭の中で考えていて、そばにいて欲しいな、会いたいなって思ってます」
警察の捜査では、トレーラーの駆動輪のタイヤ4本の溝が保安基準を下回る1.6mm以下にすり減っていたことが明らかになりました。
“極端にすり減ったタイヤ”での走行が事故を招いたとして、運転手は危険運転致死傷などの疑いで書類送検されましたが、事故から19日で3年経つ現在も、いまだ起訴されていません。
有里紗さんの父 星伸一さん
「なんかはがゆいというか、うちのはどうなっちゃってんだろうという。そういう思いが強いですね」
5月18日、事故があった常総市内では、茨城県警と県による大規模な取り締まりが行われ、ヘリやドローンを使い、車の整備不良などをチェックしました。
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約2時間の取り締まりでも…
ドライバー(過積載で警告を受けたトラック)
「これで飯食ってんだ。わかって走ってんだよ」
県の担当者
「でもやっぱりオーバーしたら危険性は高まるじゃないですか。我々の気持ちもわかってください」
9台の車が積載量を超える荷物を積んでいたとして警告などを受けました。積載量の超過は横転などの事故に直結するほか、タイヤのすり減りを早めます。
警告を受けたトレーラーのタイヤを見ると、かなりすり減っているようにも見えます。
事故が起きた後も、こうした危険な走行は後を絶ちません。
茨城県警交通指導課 田谷光寿課長
「コストの部分を踏まえて、摩耗のタイヤで走ってしまうという実態があるのかなと」
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トレーラーなどの燃料となる軽油の過去10年間の小売価格は、2020年ごろから急激に上昇。中東情勢の影響もあり、現在も高止まりに。
大型トレーラーやトラックなど、約3500台を保有するこちらの運送会社では、軽油に加え、タイヤにも高いコストがかかるといいます。
フジトランスポート(株) 川上泰生さん
「当社のセミトレーラーです。平均して1か月で1万キロ以上は走るんです。もちろん重たいものっていうのもありますけど、いろいろな環境の中で磨耗していきます」
タイヤのすり減るペースは早く、トレーラーなどのタイヤは一般的に約5万円〜10万円だといいますが、価格は上がり続けているといいます。
フジトランスポート(株) 川上さん
「(タイヤのコストは)昨年に比べて8%ほど上がっているんですが、また来月から(さらに)5%ほど上がるという話も聞いております」
――タイヤのコストが高くても、削れるところではない?
フジトランスポート(株) 川上さん
「当たり前です。運送事業者というのは、何よりも安全を優先すべきだと思います」
この会社では日々の点検や車検などで異常が確認されると、すぐにタイヤを取り換えているといいます。
しかし…
「車検のときだけタイヤを交換」ドライバーが語った運送会社の不正JNNが取材したトレーラーの運転手の男性は、以前勤めていた運送会社でタイヤのコスト削減を理由に不正が行われていたと証言します。
トレーラーの運転手
「車検のときだけ正しいタイヤをつけて、それ以降は経費のかからないようにタイヤ付けるとか、人それぞれ個人のやり方があるので」
車検時にだけ、すり減ったタイヤを通常のタイヤにすり替えていたのです。
男性も危険だと認識しながら、すり減ったタイヤで走行していたと言います。
トレーラーの運転手
「できるだけ経費を削減しないと売り上げにならないので。手元に残らないから、正直ギリギリまで使ってました。雨の日は普通に走るときにタイヤが滑るので、空回りしているのがわかります。タイヤもできるだけケチらなきゃやっていけないんで。みんなそうだと思います」
「コストカットのため」。背景に浮かび上がったのは 身勝手なものでした。
事故から3年 遺族「これからも戦う」摩耗したタイヤの走行によって死亡したとされる有里紗さん。5月19日が命日です。
娘のために母・ひろみさんが作ったのは、有里紗さんが大好きだった「唐揚げ」と「グラタン」です。
有里紗さんの母 ひろみさん
「お肉が特に好きで。運動会の時は必ず毎回お弁当に入れていました。おかわりとかしてくれるから、 作り甲斐がありますよね」
「久しぶりに作ったグラタン」
大好きだったものが食卓に並びました。
遺族はこう訴えます。
有里紗さんの父 伸一さん
「罪をちゃんと、人ひとり殺してるわけですから、その罪をしっかり償っていただきたい」
有里紗さんの母 ひろみさん
「有里紗に恥じないように頑張ってこれからも戦っていきたい」
小川彩佳キャスター:
事故から3年もの間、ご遺族の無念が置き去りにされています。
この間にも一部の業者では、安全対策よりもコストが優先されて、不正行為が繰り返されている。同じような事故が起きる可能性もあります。
地域エコノミスト 藻谷浩介さん:
有里紗さんの死を無駄にしないためにも、業界全体のやり方を変えなければなりません。安全を損なってまで値下げをする時代ではないと言われれば、ほとんどの人が納得するでしょう。
建設業界では「安価だが安全性を損なう」違法建築は許されない、ということはだいぶ浸透しましたが、輸送業界はなっていません。これは業界だけでなく、1円でも安く運んでもらえればそれでいいという荷主にも問題があります。
不当な安い値段の価格転嫁を日本全体で受け入れなければなりません。
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<プロフィール>
藻谷浩介さん
地域エコノミスト 共著「東京脱出論」
(株)日本総研主席研究員
