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自販機市場がじわじわ縮小している。国内の設置台数を見ると、2016年には494万台だったが、2024年には397万台に(矢野経済研究所調べ)。8年間で100万台ほど減少し、2025年にはさらに減って、390万台を見込んでいるのだ。
こうした動きを目にすると、「あ〜もう自販機もオワコンね」「スーパーで買うほうが安いから、苦戦するのは仕方ないよ」などと思われたかもしれないが、1台当たりの売り上げを伸ばしている会社もある。
JR東日本クロスステーション ウォータービジネスカンパニー(以下、JR-Cross)が運営する「acure(アキュア)」だ。自販機の台数は9000台を超えていて、その数は横ばいまたは微増である。ただ、1台当たりの売り上げは、20年前と比べて、1.5倍に伸びているのだ。
アキュアの自販機は、JR東日本の駅ナカを中心に展開していて、最大の特徴は販売データを分析できること。いつ、どこで、どの商品が売れているのかをリアルタイムで把握し、さらにSuicaなどの決済データや駅の利用者数、天候などの情報も組み合わせて分析している。その結果を品ぞろえに反映することで、売り上げ向上につなげている。
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同社は2006年に創業し、この20年でどんなデータを分析してきたのか。駅ごとに売れ筋や売り上げの傾向に違いはあるのか。また、駅ナカでどのような“商圏”を築いているのか。事業戦略ユニットを担当する小室塁(おもろ・るい)さんに話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンライン編集部の土肥義則。
●自販機「アキュア」の特徴
土肥: 自販機「アキュア」の特徴は、大きく分けて2つありますよね。1つめは、ブランドミックスであること。一般的な自販機は、飲料メーカーの商品だけを販売するケースが多いですが、アキュアは複数メーカーの商品を販売している。売れ筋の商品だけを並べることもできるわけですよね。
また、プライベートブランド(PB)商品も扱っている。例えば「From AQUA(天然水)」や「天然水ゼリー」など。飲料メーカーは、スーパー、コンビニ、自販機などさまざまな販路で売れる商品を開発しなければなりません。
一方、JR-Crossは自販機向けの商品開発に集中できますよね。JR東日本の駅ナカでどんな商品が売れているのか、そうした傾向を分析し、商品開発に生かせることも特徴のひとつかと。
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もう1つは、Suicaなどの電子マネー決済を通じて、データを分析できること。時間帯、曜日、駅ごとの利用傾向、売れ筋商品の変化など。売れ行きを見ながら商品を入れ替え、それぞれの駅や自販機の利用者に合わせた品ぞろえができるんですよね。
このように膨大なデータを抱えているわけですが、例えば、コロナ禍の前後で販売状況に変化はあったのでしょうか?
小室: アキュアのデータを見ると、販売のピークは通勤ラッシュ時の午前7〜9時ごろなんですよね。夜のピークは、午後10〜11時くらいにある。会社の飲み会帰りに、酔い覚ましとして購入する人が多いのかもしれません。
コロナの前後で見ると、大きな変化はありませんでした。ただ、満員電車を避けようという人が増えたのか、朝のピーク時よりもちょっと前に、またはちょっと後に購入する人が増えました。
また、コロナ前は夜のピーク時に集中していましたが、コロナ後は違う。早く出社した人は早い時間帯に、遅く出社した人は遅い時間帯に、購入する時間帯が分散する傾向も見えてきました。
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●駅ごとの購買データ
土肥: 駅ごとの販売データを見ると、どのような違いがありますか。例えば、利用者数の多い駅と住宅街に近い駅では、売れる時間帯や商品の傾向に違いはありますか。
小室: 東京駅、新宿駅、原宿駅、吉祥寺駅、大宮駅、仙台駅の時間別の販売データを比べてみました。東京駅の場合、朝と夕方の通勤時間帯は伸びていますが、他の時間帯とそれほど差がないんですよね。つまり、どの時間帯でも一定の売り上げがある。なぜこのような結果になっているのかというと、新幹線を利用する人が多いからと見ているんですよね。
大宮駅も仙台駅も新幹線が停車する駅ですが、売れる時間帯には違いがあります。大宮駅は、朝のピーク時に販売が突出しているんですよね。周辺に住宅街が多いので、通勤時に購入する人が多いのではないでしょうか。
一方、仙台駅は朝と夕方にピークがありますが、夜の販売はそれほど伸びません。他の駅では、飲み会帰りにミネラルウオーターを買う人が多いのではないかと見ていますが、仙台駅ではその傾向があまり見られないんですよね。
その理由の一つとして、地方では移動手段としてクルマを利用する人が多いことが挙げられます。飲み会の帰りに駅を利用する人が少ないので、自販機の利用も伸びにくいのではないかと考えています。
土肥: ふむふむ。東京駅、大宮駅、仙台駅の違いはなんとなく分かりました。ただ、3駅とも新幹線が停車する駅ですよね。それなのに、販売データに大きな違いが出るのはなぜでしょうか。
小室: 「東京駅は始発駅である」ことが大きいと思うんですよね。出発時刻の30分ほど前に到着して、「乗車前に飲み物を買っておこう」という人が多いのではないでしょうか。また、1本だけでなく、家族分をまとめて購入するケースも少なくありません。
土肥: 販売データを見ると、東京駅と新宿駅はよく似た傾向がありますよね。朝と夕方にピークを迎えるものの、それ以外の時間帯もよく売れている。新宿駅は午後10〜11時の売り上げが伸びていることから、飲み会帰りに利用する人が多いことがうかがえます。
あと、吉祥寺駅と大宮駅は郊外の住宅地ということもあって、売り上げの傾向が似ていますね。朝の通勤ラッシュ時にピークがあって、それ以外の時間帯は売り上げが落ち着いている。そんな中でも、気になったのは原宿駅なんですよね。他の5駅と違って、昼にものすごく売れている。なぜでしょうか?
●最も売れている自販機
小室: 昼の時間帯からじわじわ売れ始めて、ピークを迎えるのは午後2〜3時にかけて。なぜこのような傾向が出ているのかというと、原宿駅を利用する会社員が比較的少ないためではないでしょうか。
考えてみると、原宿駅の出口から、スーツを着たビジネスパーソンがたくさん出てくるといったイメージはないですよね。大きな会社の本社がたくさんあるといったイメージもないです。
ということから、朝の通勤時間帯に購入する人は少なく、昼ごろにショッピングや観光目的で訪れる人が多く購入しているからではないでしょうか。
土肥: アキュアの自販機は9000台ほどありますが、その中で最も売れているのはどの駅にあるのでしょうか?
小室: 東京駅ですね。東北新幹線の改札内で、利用客の目につきやすい場所に設置した自販機が最も売れています。月商が500万円を超えたこともありました。アキュアは駅ナカを中心に展開していますが、道路沿いに設置している自販機もあります。こちらは、月商7万〜10万円が多いですね。
土肥: 道路沿いに設置した自販機と、東北新幹線の改札内に設置した自販機では、売り上げが50倍ほど違うということですね。これほどの差があれば、社内から「もっと改札内に設置しようよ」といった声が聞こえてきそうですが、いかがでしょうか?
小室: 人通りの多い場所に設置したいのですが、改札内はスペースに限りがあるんですよね。かといって、自販機を置くことでお客さまの通行を邪魔してはいけません。そのため、基本的には壁や柱を背にする形で設置しています。
限られたスペースの中で売り上げを伸ばすには、どこに設置するかが重要なんですよね。特に、自販機の向きは大きなポイントです。歩いている人から商品が見えやすい向き(正面)に設置すると、「ちょっと買っておこう」「この自販機で買おう」という行動につながりやすいんですよね。
土肥: 目的地に向かって歩いているとき、自販機の側面しか見えなければ、どんな商品が並んでいるのか分かりません。一方、正面が見える場所なら商品がずらりと並んでいるのが目に入り、「ちょっと買ってみよう」と思う人が増えるのも納得できます。
ただ、駅ナカはスペースが限られているので、そうした理想的な場所にばかりではありません。限られた条件の中で、1台当たりの売り上げをどのように伸ばしているのでしょうか。
●駅ナカで磨かれた「商圏」
小室: 例えば、駅のホームにある階段を下りると真正面に自販機1台があり、その奥に縦に並んだ自販機が3台あるとします。駅の利用客にとって、計4台の自販機が目に入るわけですが、こうした場所のことを「商圏」と呼んでいるんですよね。
最も売れるメインの自販機は、階段から下りてきて、真正面に見えるものです。では、その奥にある縦に並んでいる3台の自販機には、どのような商品を並べるべきでしょうか。
土肥: ん? 基本的には、売れ筋の商品を並べればいいのではないでしょうか。販売データを分析して、人気の飲料から順番に並べていけばいい、という発想ですね。
小室: 4台に同じ商品を並べてしまうと、利用客は「この自販機にもないし、隣にもない」と、欲しい商品を見つけられないかもしれません。そうではなく、「この自販機になくても、隣にはある」というように、商品を分けて並べることが大切なんですよね。
では、もう1つ例を挙げます。駅構内の階段を下りた先に、自販機が正面に設置されているケースです。利用客は左右2方向の階段から集まり、それぞれの動線上に自販機(計2台)があります。右側の階段から下りた利用客の先には自販機があり、その背後にはコンビニ、さらに奥にはベンチがあります。
一方、左側の階段から見ると、自販機の先にベンチ、その奥にコンビニがある配置です。このように、複数の動線や周辺施設が影響する場所では、商圏をどのように考えればよいでしょうか。
土肥: うーん、どちらの自販機も好立地ですよね。階段から下りてくる人にとって、真正面に自販機がある。それぞれ別の商圏として考えるのでしょうか。
小室: いえ、このような場所では、2台を1つの商圏として考えています。先ほどの例では、階段を下りた正面にあるほうが中心的な役割を担っていました。一方、今回のケースでは、左右どちらも利用されるため、2台ともメインとして考えています。
ただし、1つの商圏として運用しているので、両方の自販機に同じ人気商品ばかりを並べることはしません。「こちらになくても、もう一方にはある」という状態になるよう、商品の並べ方を工夫しているんですよね。
土肥: ただ、気になるのは、コンビニの存在です。右側の自販機を見ると、すぐ裏にコンビニがありますよね。そのため、飲み物を買う人がコンビニに流れてしまい、売り上げに影響が出るのではないでしょうか。
さらに、左側の階段から下りてきた人にも、自販機の先にコンビニが見える。この場合、2台ともコンビニの影響を受けるのではないでしょうか。
●ときどき「駅を見に行って」
小室: もちろん、コンビニの影響が全くないわけではありません。ただ、利用客は目的に応じて使い分けていると思っています。食べ物と飲み物を一緒に買いたい人はコンビニへ行くでしょうし、レジに並ばず飲み物だけを買いたい人は自販機を利用するでしょう。そのため、コンビニが近くにあるからといって、自販機を設置しないという考え方はしていません。
今回は商圏の2つの例を紹介しましたが、実際にはさまざまなケースがあります。重要なのは、それぞれの商圏に合わせて、どの商品をどの自販機に並べるかを考えること。そのためには、販売データの分析が欠かせないんですよね。
例えば、一番人気のミネラルウオーターは、多くの自販機に並べます。一方で、コーヒーはどうするのか。1台にはブラック、もう1台にはカフェラテを置くなど、商品の組み合わせを変えてみる。その組み合わせによって、1台当たりの売り上げを伸ばせるのかを試しながら運用していますね。
土肥: なるほど。試行錯誤を続ける中で、ある程度「この配置なら売れる」というパターンは見えてきたのでしょうか。
小室: いえ、改善の繰り返しですね。その大きな理由の一つが駅の工事です。売り上げは好調だったのに、工事の影響で場所を移さなければならないことも。しかも、工事が終わっても元の場所に戻せるとは限りません。駅の構造が変わり、設置場所や向きを変えざるを得ないこともあるんですよね。
また、駅のホーム工事がなくても、利用客の動きが変わることがあるんですよね。例えば、ホームへ下りる階段を工事していて、2つある階段のうち1つが使えなくなることがあります。そうなると、その階段の近くにある自販機は人通りが減るので、売り上げに影響が出るんです。
こうした工事の情報は、事前に分かっていれば対応できるんですよね。ただ、見落としてしまうこともあります。そうした異変を教えてくれるのが、販売データなんですよね。
例えば、駅全体の売り上げは前年比101%なのに、この自販機だけ94%しか売れていない。「なぜだろう」と思って現場へ行ってみると、近くの階段が工事で閉鎖されていた、ということもあるんですよね。
というわけで、販売データだけですべてが分かるわけではありません。データを見て、実際に現場も見る。この2つを組み合わせて分析することが大切なんですよね。
土肥: なるほど。データはうそをつかない。でも、ときどき「駅を見に行って」とも言っているわけですね。本日はありがとうございました。
(おわり)
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