2018年に撮影された、お笑いトリオ「ジャングルポケット」元メンバー、斉藤慎二被告
写真/産経新聞社 2024年7月、ロケバスの車内で共演者・Aさん(女性・20代)に性的暴行を加えたとして不同意性交などの罪に問われている、お笑いトリオ「ジャングルポケット」の元メンバーの斉藤慎二被告(43)の論告・求刑公判が、8月5日に東京地裁(伊藤ゆう子裁判長)で開かれた。
この日の公判で、検察側は斉藤被告に対して「懲役7年」を求刑。弁護側は「無罪判決が言い渡されるべきだ」と主張して結審した。
今回は、Aさんが法廷で陳述した“峻烈な処罰感情”などを詳報する——。
◆遮蔽板の向こうから聞こえたAさんの声
筆者が法廷に入ると、検察官席の後方に薄水色の背の高い遮蔽板(パーテーション)が立てられていた。遮蔽板の奥から物音がしたあと、Aさんの声が聞こえた——。Aさんは、証人出廷した際に映像と音声を使って別室から証言する方式がとられ、斉藤被告と同じ法廷に現れることがなかった。
一方の斉藤被告は、これまでと変わらず黒色のスーツに紺色のネクタイ姿。この日で裁判が結審することもあってか、いつもより表情が硬いように思えた。
伊藤ゆう子裁判長は開廷の宣言をすると、「期日間に被害者意見陳述の申し出がありました。Aさんご本人が陳述されますか?」と確認。Aさんによる心情の意見陳述がはじまった。
◆「人生を壊された」Aさんが明かした事件当日の恐怖と絶望
Aさんは意見陳述の冒頭で法廷に立った理由を述べた。
「私にとってこの事件は、過去の出来事ではありません。今も終わることのない苦しみを抱えながら生活しています。私がなにをされ、人生を壊され、どのような日々を送ってきたのか裁判所にわかってもらいたくて意見陳述をしました」
当時、インフルエンサーとして活動していたAさん。インフルエンサーとしての活動は、「唯一自分らしくいられる場所でした。私の人生を支える大事な財産になっていました」と回顧するが、事件の影響で案件の依頼が激減した。
Aさんは事件当日をこう振り返る。
「その日に被告人と出会ったことで人生が変わってしまいました。被告人は初めて会ったときに『どこの事務所に所属しているの?』と聞いてきました。今思えば、後ろ盾がない人か確かめていたのだろうと思います。被告人の卑劣さに強い憤りをおぼえます。被告人は吉本興業に所属しており、事務所には影響力がありました。私との間には圧倒的な差があり、さらに私を恐怖に陥れました」
ロケがはじまって約1時間40分が経過したころ、最初の犯行とされる「キス」があった。
「私は被告人と会ってから強い異常性を感じました。仕事の現場で、とまどいもない様子に、私には言葉の通じないモンスターに思えました。恐怖で頭が真っ白になり、自分の体じゃないように硬直しました。必死に『やめてください』と訴え抵抗する私の押し返す行動も全て無視され、絶望しかありませんでした」
◆「もう一度、心を踏みにじられた」“同意があった”との主張に憤り
Aさんは、スタッフへ相談しなかった理由にも触れた。
「出演者の中でも立場の弱い私のせいで撮影を止めてはいけない、私が我慢すればよいと思い込んでしまいました。私は苦しみを押し殺しました。被害者は軽かった、同意していたと受け止められたくありません。何度も強く抵抗できたのではないか、すぐに他の人に言った方が良かったのではないかと自分を責めています」
斉藤被告は裁判でAさんの「同意があったと思っていた」と起訴内容を否認している。
「被告人から『同意があった』と言われ、私の抵抗も表情も苦痛もすべてなかったようになりました。もう一度、心を踏みにじられました。責任を私に押しつける卑劣な行動だと思います」
証人尋問でも述べていたが、Aさんは事件を受けて「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」になり、「以前のように安心して日常生活を送れなくなりました」と現在を語る。
「事件に関するものが目に入っただけであの日の恐怖や光景が思い浮かび吐き気に襲われます。眠っている間も事件を忘れられません。夢の中でも私は追いつめられていることもあります。(略)被告人の行為はあの日で終わったかもしれませんが、私の心は決して終わっていません。ずっと傷ついています」
◆「私が加害者のようにされた」斉藤被告の妻の投稿で広がった誹謗中傷
さらに、被害申告後にAさんを苦しめた出来事についても語った。それは、斉藤被告の妻でタレントの瀬戸サオリ氏(38)による、SNS(Instgram)への投稿だ。瀬戸氏は、斉藤被告の書類送検報道を受けて、2024年10月にコメントを出していた。
「一部事実と違う報道がされております。(略)一方的な行為ではなかったことを伝えている状況でした」(瀬戸氏の投稿から)
Aさんはこのコメントによって「私の心はさらに壊されました」と吐露。声をつまらせながら、意見陳述を続けた。
「被告人の妻から謝罪されることもなく、著名人の立場から世間に向けて発信されました。(略)世間では『ハニートラップだったのか』などという声が一気に広がりました。日本中から責められることになりました。あまりにも卑劣で耐え難い屈辱でした。『嘘つき』『売名』『ハニートラップ』、知らない人たちから人格を否定され、私が加害者のようにされました」
◆2500万円でも示談を拒否…Aさんが求めた「6年を超える厳しい刑」
裁判でも明らかになっているが、示談の金額としてAさん側は2300万円を提示。斉藤被告側は2500万円で示談を求めたが成立しなかった。
「(示談に応じない理由は)被告人には自分の責任に見合う刑事責任を負ってほしいからです。2300万円を提示したのは、私の苦しみをお金に換えたかったわけではありません。いくらお金を払われても元には戻りません。(略)私はお金ではなく、裁判によって罪に向き合い、自分のしたことに見合う刑事責任を負ってもらいたいと思います。言い訳をせず、私に押し付けず、心から反省してほしいです」
Aさんは明確に斉藤被告の「刑務所行き」を示唆し、被害者の立場から量刑の意見を述べた。
「二度と同じ行為を繰り返さないように専門的な教育をしてほしいです。私はこれ以上、私と同じ思いをする人を増やしたくありません。被害を訴えた人が『ハニートラップ』『売名』『嘘つき』と言われ、仕事を奪われる社会であってはいけません。被害の重さに見合う責任を負わせ、6年を超える可能な限り長く厳しい刑にしてください」
はじめはハッキリとした口調で意見陳述をしていたAさんだが、徐々に涙声になり、終盤には絞り出すような声になる場面もあった。一方の斉藤被告はやや下を向き、口を真一文字に結び、目を細めて終始重い表情だった。
◆検察側は「懲役7年」を求刑…斉藤被告が最終陳述で語った言葉
実刑を覚悟しているのか——。筆者には、斉藤被告の表情や態度の端々から感じ取れた。特に判決を左右するともいわれる、検察官が「被告人を懲役7年に処するのが相当であると思料する」と求刑した際も、斉藤被告は姿勢と表情を変えることはなかった。
また、最終陳述では、被告人の中には数分にわたってメモを朗読する者もいるが、斉藤被告は30秒ほどにまとめた。
「Aさんには、Aさんの代理人の方がおっしゃっていたことを、重く受け止めています。本当に、申し訳ございませんでした」
検察側の奥に座る被害者参加代理人に体を向けると、深々と3秒ほど頭を下げ、姿勢を戻すと続けた。
「裁判所には、当時、好意があったと思っていたことは、理解していただきたいと思います。(数秒沈黙して)以上です」
◆裁判長から「必ず出頭してください」と命じられる
閉廷直前、判決期日を指定したあと、伊藤ゆう子裁判長は「この日に判決を言い渡しますから必ず出頭してください」と命じると、斉藤被告は小さな声で「はい」と答えた。その表情も、筆者には覚悟が決まっているようにみえた——。
真っ向から対立する主張。司法判断は11月16日に下される予定だ。
取材・文/学生傍聴人
【学生傍聴人】
傍聴歴7年、傍聴総数1000件超。 都内某私立大の大学院に在籍中の現役大学院生。趣味は御神輿を担ぐこと。高校生の頃から裁判傍聴をはじめ、有名事件から万引き事件など幅広く傍聴している。その他、裁判記録の閲覧や行政文書の開示請求も行なっている。