
2016年3月に警察庁が神戸山口組との「対立抗争状態」にあると認定した直後に家宅捜索を受ける6代目山口組総本部
10年以上にわたる山口組の抗争を巡り、規制の一部が解かれる一方で、核心部分の縛りはいまなお続いている。特定抗争指定暴力団の解除を渇望してきた六代目山口組と、当局との神経戦の行方を追った。
【本部に野生動物が棲みつく異常事態】
9月21日、兵庫県など8府県の公安委員会は、六代目側と対立抗争を繰り広げてきた大阪府寝屋川市を拠点とする絆会との双方の「特定抗争」指定を解除した。これに先立つ同月8日には、六代目側と岡山の池田組との間でも「特定抗争」指定が解除されている。いずれにおいても、抗争が一定期間途絶えたことと、組員への聴取を踏まえたうえでの判断となった。
一見、抗争終結が進んだかに見える措置だが、六代目側と神戸山口組との間の指定は、期限の10月6日から3カ月延長された。このため、六代目側の根拠地である兵庫・大阪・愛知などでは依然として事務所の使用が禁じられ、おおむね5人以上での集会も許されない状況が続く。
六代目側はこの間、指定解除に向けて様々な手を尽くしてきた。25年4月、兵庫県警に対して抗争終結の誓約書を提出。組織内でも各団体との抗争禁止を通知し、さらには20年近くにわたって組織の屋台骨を支えてきた高山清司若頭が相談役に就き、名目上、一線を退くという人事まで断行した。周囲に「抗争終結」を強くアピールするための布石だったことは疑いようがない。
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山口組の特定抗争指定解除のカギを握る、兵庫県警本部と兵庫県公安委員会が入るビル
そこまでしても、神戸側との間の「抗争指定」が継続されたことに、組織内部からは動揺と不満の声が噴出しているようだ。ある暴力団事情に詳しい関係者が語る。
「六代目側は誓約書を出して、トップ人事まで発動したのに、指定解除がかなわなかった。いま、山口組の"聖地"ともいうべき神戸・篠原本町の総本部は、使用禁止措置が長引く中で老朽化の一途をたどっている。さらに、人の出入りが途絶えたために、六代目側の一部の施設では野生動物が棲みついているところもあるという。一刻も早く復旧を果たしたい思いは切実だ」(関係者)
事務所が使用できない状況は、組織の実態に深刻な影を落としている。
警察庁の統計によれば、全国の暴力団構成員・準構成員数はピーク時の約18万人(1963年)から近年は2万人台にまで激減しており、六代目側もその例外ではない。事務所も使えず、会合も開けず、組織としての体裁すら保てない状況が続けば、若い組員ほど渡世の先行きに見切りをつけ、トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)や半グレへと舵を切る傾向が強まる。組織の結束を取り戻すことが急務となっているのだ。
【井上組長の「穴熊作戦」】
六代目側の焦燥感をよそに、神戸側の井上邦雄組長は籠城を続けている。その動静が久々に明らかになったのは8月末のことだった。
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六代目側の組員を包丁で刺したとして懲役3年6月の有罪判決を受けた、神戸側の藤田恭道若頭補佐が府中刑務所を出所。井上組長を含めた神戸側の幹部が、兵庫県明石市内に集結して放免を祝う席を設けた。藤田若頭補佐の出所祝いは、当局から見れば抗争での"戦績"を称揚するに等しい行為にほかならず、今回の指定延長の判断材料になったとみられている。
暴力団問題に詳しい実話誌記者が解説する。
「藤田若頭補佐は、自らの拠点付近で下調べをしていたとみられる人物を包丁で刺して逮捕された。その出所祝いに井上組長が顔を出したことは、神戸側がまだ抗争の意思を持っているというシグナルとして当局に受け取られた可能性がある。とはいえ、神戸側は幹部クラスの離脱が続いて休眠状態。とても六代目側を相手に戦える状態とは見受けられません」(実話誌記者)
【指定対象の不均衡】
ここで一つの疑問が浮かぶ。今回、絆会、池田組の指定は解除された。しかし絆会は2023年4月、神戸市内のラーメン店経営者でもあった六代目側の弘道会系幹部を射殺した事件に関与したとして、若頭が逮捕・起訴されている。池田組も2024年に宮崎市内の組事務所で六代目側の組員によって幹部が射殺される事件が起きている。
対して、六代目側と神戸側との間では、2019年の兵庫・尼崎のマシンガン殺人事件以降、双方で死者を出すような抗争事件は確認されていない。にもかかわらず、双方の特定抗争指定は延長される――。この非対称な構図を、別の暴力団事情通はこう読む。
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「とにかく、六代目側への特定抗争指定を継続させることしか考えていないのだろう。指定解除をした途端に殺傷事件を起こされたら当局の責任問題になりかねないからね。池田組や絆会は規模や活動範囲が限定的。ただ、指定には抗争相手が必要だから、敵対側では一番勢力の大きい神戸側が付き合わされているというのが実情。六代目側と神戸側は各都道府県に勢力がまたがるので規制の影響は大きい」(事情通)
【来年1月解除の観測も...】
いつまでも解除の見通しが立たない状況が続いた先に何が待っているのか。前出の事情通が続ける。
「誓約書を出して、若頭まで退かせて、それでもダメとなれば六代目側の忍耐はいずれ限界を迎える。指定は今回限りで、来年1月で解除されるという観測もあるが、当局のさじ加減次第なので先行きは不透明。解除への努力を続けることへの意味を見いだせなくなったとき、組織の判断が変わる可能性は否定できない」(事情通)
その「判断の変化」が意味するものは二つある。一つは、抗争の再燃だ。組員の中には延々と続く規制への鬱積した不満を、神戸側への新たな襲撃という形で爆発させようとする動きが生まれかねない。
もう一つは、組員の闇への潜行だ。事務所を持てず、会合も開けず、組織としての存在感が薄れていく中で、特殊詐欺グループやトクリュウとの連携を深めながら"見えない組織"として活動を続ける道だ。これは当局にとっても社会にとっても、むしろ厄介な事態だろう。
解除へ向けての働きかけが報われない日々が続く中で、山口組という巨大組織は岐路に立たされている。その先に何が待つのか――当局との攻防戦が続く。
文/大木健一 写真/時事通信社、photo-ac.com
