市内全域が路上喫煙禁止になった大阪市、鶴見緑地南喫煙所 大阪市では、1月27日より市内全域での路上喫煙が禁止となった。これは4月13日に開幕する大阪・関西万博に向けて、国際観光都市にふさわしいまちの美化 を目的に条例改正されたもので、違反者は1000円の過料が徴収される。これには前々から賛否の声が上がっていたが、実際はどうだったのか? 条例改正に向けた自治体の苦労、求められていた喫煙所増設の行方について、大阪市の担当者に話を聞いた。
【一覧】喫煙カフェ14選、東京、大阪…三大都市の主な店舗も紹介■昼休みには喫煙所に行列、“市”と“府”の異なる喫煙ルールに懸念も
1月27日に、市内全域での路上喫煙禁止の改正条例が施行スタートした大阪市。この日までに整備された公共喫煙所は約170ヵ所で、昼休みの時間帯には行列ができる喫煙所もあったよう。「吸えるところを探すのが大変」「(条例施行を)知らなかった」という人もいて、周知の難しさのほかに、批判的に見る喫煙者も多いようだ。
「昨年8〜9月にパブリックコメントを実施したところ、非喫煙者の方からは『一刻も早く路上喫煙を全面禁止にしてほしい』という意見がありました。一方で喫煙者の方からは、『一気に市内全域に拡大するのは時期尚早なのではないか』という意見も。ただ共通して、『喫煙所の少なさが路上喫煙を誘発しているのでは』『分煙環境の充実(ゾーニング)をしっかりしてほしい』という意見は多かったですね」(大阪市環境局 路上喫煙対策担当課長・楠本大介氏/以下同)
ちなみに、今年4月には大阪“府”の受動喫煙防止条例が、30平米を超える飲食店を対象に「原則屋内禁煙(罰則あり)」へと改正される。つまり、“市”の条例で路上喫煙が全面禁止になり、“府”の条例では喫煙可能な飲食店が少なくなるということ。大阪市の喫煙者は4月以降、外でも屋内でも吸う場所が限られるということになり、戸惑いの声は多い。
また市内の飲食店からは、「売上に及ぼす影響が大きい」「公共の喫煙所を増設してほしい」という声も。府と市で異なる喫煙ルールがほぼ同時期に施行されることに対しては、自治体の苦労も大きいようだ。まず市としては、第1弾ともいえる市内全域での路上喫煙禁止をスムーズに実施する必要に迫られた。
西日本随一の繁華街を抱える大阪市は、もともと喫煙者に対しておおらかと言うべきか、同じく繁華街の多い東京に比べても歩きたばこやポイ捨てが目立つ印象がある。
「たしかに当局にも、東京から来られた方から喫煙マナーに対してご意見をいただくことはあり、もっと啓発に力を入れなければいけないと考えています」
ただ、楠本氏によると、平成19年度より一部エリアで路上喫煙禁止を施行して以降、喫煙マナーは徐々に改善されてきているという。
「もともとの喫煙禁止エリアでの定点調査によると、平成18年度の路上喫煙率は2.57%でしたが、令和5年度には0.2%と10分の1以下になっています。ちなみにそれ以外のエリアでも2.3%から0.33%と、路上喫煙禁止エリアを設定したことにより、全市的に一定の効果が見られています」
1月27日以前までの路上喫煙禁止区域は、繁華街を中心に6エリア。しかしそれぞれに設置された喫煙所は全7ヵ所(6ヵ所+近隣1ヵ所)と、自治体の規模に照らし合わせてみても極めて不足していたのは否めない。これが市内全域まで広がるとなれば、喫煙所を増やすことが必要だったが、大阪市ならではの問題もあった。
「大阪市内、特に駅近は土地が少なく、喫煙所整備のネックとなっていました。ただ条例の改正を前に、大幅増設が急務だったのも事実。市の整備だけでは間に合わないので、民間事業者にもご協力いただくべく、設置費用100%の補助金制度を創設しました」
民間事業者からは、令和5年度には34件、令和6年度には84件の応募があった。加えて大阪市が整備する喫煙所と合わせて、1月27日までに約170ヵ所の公共喫煙所オープンを達成している。万博というデッドラインはあれど、これだけ急ピッチに事業を達成した大阪市の努力は認めたいところだ。
■308億円のたばこ税収をどう使う? 賛否の声に模索する「公費をかけないゾーニング」
大阪市が民間事業者に交付する喫煙所設置への補助金は、条件にもよるが上限2000万円となかなかの大盤振る舞い。大阪市はこうした喫煙所整備にかかる予算は、たばこ税の一部も活用していく考えを示している。とはいえ、大阪市のたばこ税収は令和6年度で308億円。そのうち喫煙対策事業関連の経費に盛り込まれるのは約12億円と、たばこ税収の約5%程度。喫煙者からは「もう少し還元してくれてもいいのでは」という声も上がりそうだが──。
「そうした意見は重々承知しています。ただ、たばこ税は目的税ではなく、喫煙対策のみに活用するのは賛否もあるため難しいところでもあります。喫煙所そのものが不要だというご意見も、嫌煙家の方からありますから」
さまざまな意見はあれど、喫煙者も非喫煙者も快適に共存できる街づくり。その落とし所は「やはり分煙環境の充実(ゾーニング)ではないでしょうか」と楠本氏は言う。
「公費をかけない形でも、分煙環境の充実(ゾーニング)の方法はあります。たとえば大阪市が運用する地図サイト『マップナビおおさか』では、公共の喫煙所のほか、市内のカフェやコンビニ、商業施設などの喫煙ブースも合わせて313ヵ所の喫煙できる場所を公開しています。今後もマップに掲載させていただくお店を増やしつつ、喫煙できる場所のご案内をさらに充実させていく考えです」
1月27日の大阪市内では、さまざまな場所で喫煙ルールの啓発活動が実施されていた。市内を巡回する路上喫煙防止指導員も大幅増員し、外国人に対しては英語・韓国語・中国語のカードで説明する姿も見られた。喫煙ルールのポスターや喫煙所マップも3言語表記で周知を図っているが、「万博に向けてもっと多言語化できないかを検討している」とのことだ。
なお、政令指定都市が路上喫煙を全面禁止とするのは全国でも初のこと。特に大阪市は市民のみならず来街者も多いだけにルールの周知には苦労も多いだろうが、国際観光都市を掲げる大阪市の取り組みに期待したい。
(文:児玉澄子)