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音楽好きが集まって小さなイベントなどをしていた非営利団体が、ある日突然大量のSP盤レコードを引き取ることになり、その整理に奮闘しています。戦中戦後の貴重な音楽資料とも言える、5000枚のレコードを仕分けしている現場にお邪魔して、お話をうかがいました。
【写真】複葉機のイラストが描かれたヒコーキレーベル。濃厚な昭和の空気を感じます
アナログレコードの元祖、SP盤とは
音楽を配信で聴く時代になって、CDの売上が厳しくなっているといわれて久しいですが、一方で一部の人の間ではアナログレコードの人気がいまだ根強いといわれています。
アナログの音が好きなファンはもちろん、最近では自宅にレコードプレーヤーなどの再生手段を持たない若い人がレコードを買う、ということも起こっているようです。CDに比べて大きなジャケットを楽しむ、また推しのアーティストの楽曲を「物質」として手元に置いておく、そんな楽しみ方があるようです。
アナログレコードを「LP」と呼ぶことがありますが、あれは12インチ(直径30センチ)の盤の呼び方で、意味は「ロング・プレイ」です。毎分33+1/3回転で、片面におよそ30分の音が入ります。LPに対してシングル盤という7インチ(直径17センチ)の盤もありました。これは毎分45回転、片面に一曲、5分ほど収録できるもので、中心の穴が大きいのでドーナツ盤とも呼ばれました。他に、同じく7インチで中心の穴の小さいEP(エクステンデッド・プレイ)盤や、12インチで45回転の12インチシングルというものもありました。
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さて、LPの「ロングプレイ」は一体何に対して「ロング」なのか。それはLPよりもさらに昔、SPという規格があったのです。円盤形のレコードの元祖で、直径は10から12インチ。毎分78回転という、LPと比べるとものすごく速い回転数で回します。そして、片面の再生時間は5分ほどでした。だからLPは「ロングプレイ」なんですね。
また、LP以降のレコードは「ヴァイナル」なんて呼ばれたりしますが、つまり材質はビニールです。しかしSPはシェラックという重くて硬い樹脂でできていて、落とすと割れる、カビが生えやすい、といった取り扱いの難しさがありました。
最後のSPレコードが作られたのは1962年。それ以降はもう製造できなくなってますので、いま残されているSP盤は貴重な音楽文化遺産といえます。
愛好家が遺した5000枚のSP盤、遺志を継ぐ市民メンバー
兵庫県西宮市に、コンサートや音楽カフェなどのイベントを催す「みやっこ音楽回廊」という、非営利の団体があります。その代表を務める加美智一さんの元に、約5000枚のSPレコードの引き取り依頼がありました。西宮市に住まわれていたレコード愛好家、故・中西大正(ひろまさ)さんが生涯をかけて収集された、貴重なコレクションです。
物置と自宅に遺された膨大なSPレコードは、一枚一枚高値で取引されるとかそういうものではありませんが、膨大なコレクション全体として、戦前から戦後の音楽史の文化を読み解く大切な資料です。ただしそれらが順不同で保管されているので、全体像が把握できず、つまり実際にどうしようもない状態です。そこで、とりあえず整理してレーベルごとに並び替え、リストを作成しようということになりました。
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西宮市立中市民館に音楽好きの仲間が集まって、作業に取りかかることになります。時間借りで、1日の作業は3時間ほど。会場の広さとしても、作業時間としても、またSP盤は1枚150gくらいあるので重さの面でも、5000枚のレコードを一気に展開することはできません。400〜500枚くらいを運び込んで、回数を分けての作業です。
2月15日、仕分け作業を見せていただきました。長テーブルの上に積み上げられたレコードを、10人ほどのメンバーでレーベルごとに分けていきます。ジャケット(紙製の袋)の中心に円い窓が開いていて、中のレコードのレーベル面が見えます。厄介なのは、ジャケットと中身があまり一致していないこと。なので、袋の文字に惑わされず、窓から見えるレーベル面の小さな文字を読まなければなりません。
キングやコロムビアといったおなじみのレーベルに加え、複葉機のマークのヒコーキレコードや戦艦が描かれたグンカンレコードなど、右から左へ向かって書かれた文字も含めて、濃厚な昭和初期の空気を感じます。特に当時西宮にあったタイヘイレコードの盤は、地元の貴重な歴史資料として今後イベントで実際に演奏していくなどを予定しているといいます。
最終的にどこで保管するのかなど、まだまだ未定ですが、とりあえず2025年中をめどにリストを完成させるべく、今後も作業を続けられます。
中西さんは生前、西宮市立中央公民館で「懐かしの歌声を聴く集い」を定期的に続けておられたそうです。遺されたレコードがまた、広く聴き継がれていけば素晴らしいと思います。
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(まいどなニュース特約・小嶋 あきら)