市民襲撃事件で殺人罪などに問われた特定危険指定暴力団「工藤会」(北九州市)のトップで総裁の野村悟被告(78)=1審で死刑、2審で無期懲役、上告中=が複数の土地を親族に信託したことに対し、事件の被害者側が、裁判所に信託の取り消しを求める訴訟を起こす方針を固めたことが関係者への取材で判明した。一連の信託を巡る取り消し訴訟は初めてで、被害者側は「賠償から逃れるために信託した」などと主張するとみられる。
信託法は、信託された財産について「差し押さえなどができない」と規定する一方、債権者を害することを知りながら信託した場合(詐害(さがい)信託)は取り消し請求ができると定めている。
工藤会を巡っては、組員が関与した市民襲撃事件などで被害者らが野村被告らに損害賠償を求めて提訴し、一部の訴訟では賠償命令が確定。ただ、野村被告側が支払いに応じなければ、野村被告が所有する資産を差し押さえた上で強制競売などで賠償金を回収する必要がある。しかし野村被告が2020年6〜10月、北九州市内にある土地少なくとも23筆(計7068平方メートル)と自宅を親族2人に信託し、仮差し押さえなどができなくなっていた。
関係者によると、信託された時期は、被害者らが起こした一部の訴訟で野村被告側の敗訴が濃厚となった時期だった。また、工藤会の組員が関与した事件は特殊詐欺など多岐にわたり、信託後も被害者らから少なくとも3件の訴訟が起こされた。そのうち、北九州市で11年に建設会社会長(当時72歳)が工藤会組員に射殺された事件を巡る損害賠償請求訴訟は、12日付の最高裁決定で野村被告らに計3850万円の賠償を命じた判決が確定した。
こうした状況から被害者側は、野村被告が「賠償を逃れるための詐害信託」をしたと判断した。信託された土地などが提訴前に処分されるのを防ぐため、被害者側は事前に処分禁止の仮処分を申請。福岡地裁小倉支部は5月22日付で仮処分命令を出し、少なくとも北九州市小倉北区にある土地9筆(計約947平方メートル)の処分を禁じた。これを受け、信託取り消し訴訟も準備が整い次第、提起する。
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一方、野村被告の信託登記に関与した弁護士は「当時、新たな訴訟が予想される状況ではなく、親族に財産を託す正当な目的もあった。差し押さえを逃れるためといった動機は認められない」として賠償逃れを否定している。
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