将棋の王座戦5番勝負第5局を終え、感想戦を行う伊藤匠二冠(手前左)と藤井聡太六冠(同右)=28日午後、甲府市 伊藤匠叡王(23)が、八冠独占を極めた絶対王者、藤井聡太七冠(23)から今度は王座のタイトルをもぎ取り、二冠となった。第1局は落としたものの、第2局の逆転勝ちで流れを引き戻した。
第2局の終盤、78手目に放った2二銀引(ひく)が相手の攻めをいなす絶妙手。藤井六冠はこの手が「見えていなかった。構想がまとまらないまま進めて崩れてしまった」と脱帽した。
伊藤二冠は昨年6月の叡王奪取以来、他のタイトル戦でことごとく敗退し、挑戦者争いに絡めない時期が続いた。しかし、叡王初防衛を決めた今年6月から本来の実力を発揮するようになり、7月3日の王座戦本戦決勝で羽生善治九段(55)を破って今回の挑戦権を獲得した。
明快な解説で人気の勝又清和七段(56)は、伊藤二冠の強さの秘密を「精神的タフさ」と指摘する。伊藤二冠が同学年の藤井六冠と公式戦で初めて対戦したのは2022年のNHK杯。以来、昨年4月の叡王戦第1局まで持将棋(引き分け)1を挟み、公式戦11連敗を喫した。ところが、同月の叡王戦第2局で初白星を飾ると、3勝2敗で一気に初タイトル獲得を達成した。
「めげない。負けても平然としていられる精神的強さがある」と強調する勝又七段。藤井六冠は形勢を苦しくした時など感情を表に出すことがあるのに対し、伊藤二冠は常に表情を変えない。
「当分は藤井さんと伊藤さんの二強が続く」とみる勝又七段。一方で「棋士のピークは35歳が私の持論。羽生さんも、将棋の内容は七冠制覇時(25歳)より35歳ごろがピークだった」とし、永瀬拓矢九段(33)や、竜王戦挑戦中の佐々木勇気八段(31)ら上の世代の巻き返しに期待する。