『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は“大人の可能性”を教えてくれた 鮎美&勝男のラストに「幸あれ!」

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2025年12月13日 09:10  クランクイン!

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ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』最終話より
 今期、もっとも支持されたドラマと言ってもいい『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS)が全10話で終幕。雨の別れにはじまり、晴れの旅立ちで終わった物語だった。もちろん演技に裏付けされたものなのだが、とにもかくにも、海老原勝男を演じた竹内涼真が愛らしかった。そして難しい役を繊細に演じきった、山岸鮎美役の夏帆はやっぱり素晴らしかった。特に最後の2人の会話から、初回の鮎美の「分かってほしいとも、もう思わないかな」の真意が伝わった気がした。

【写真】鮎美&勝男のラストに「ロス」『じゃあ、あんたが作ってみろよ』最終回場面カット

◆勝男の“化石化”は、鮎美が育てた面もあったと感じた初回

 亭主関白思考で固定観念に縛られていた勝男と、恋人ファーストで「選ばれること」だけを考えて生きてきた鮎美が、それぞれに再生していった本作。彼らの身近にいた南川(杏花)とミナト(青木柚)の最終回の言葉は、視聴者を代弁しているようだった。「海老原さんを見てると、ちょっとだけ希望が持てるんです。少しずつでも、変わることもあるのかな」という南川。そしてミナトの「アユちゃん見てると、ちょっとずつでも人は変われるのかもなって」。

 別れる前の2人は、大学でも「パーフェクトカップル」に輝いていたように、ある意味お似合いだった。俺が引っ張っていくタイプの勝男と、ついていきますタイプの鮎美……に、見えていた。しかし、鮎美はそうした自分にどこかで違和感を抱えていたのだろう。もともと今の生活に疑問がなければ、渚(サーヤ)との会話も、大きな出会いとはならなかったはずだ。しかしあのときの鮎美には、「鮎メロの好きなことは?」というシンプルな質問に答えられなかったことが、大きなショックだったのだ。

 とはいえ鮎美の行動には、気になるところがあった。初回、鮎美の手の込んだ料理を前にした勝男の「しいて言うなら、おかずが茶色すぎるかな」といったイラっとする上から目線のアドバイスなどがあまりに強烈で、注目がいきがちだったが、たとえば公園でお弁当を食べるシーン。「ほとんど冷凍食品のやつあるでしょ。あれは手作り弁当ではない! 解凍弁当」と言い切る勝男に、「そうだよね」と相槌を打ち、「女の子だからじゃないよ。勝男さんのこと、大好きだから作ったの」と話す鮎美。「おいしい、おいしい」と笑顔で頬張る勝男を見て、気質を助長させているのでは? と感じずにいられなかった。

 例の「おかずが茶色すぎる」と言われた際も「ごめんね、次からは気を付けるね」と笑顔で返す鮎美。「鮎美、かわいそう!」という反応も分かるが、これまでに勝男に苦労を伝えてきたことがあるのかどうかは分からなかった。最終回、「私ね、勝男さんのかわいくて優しいところが好きだった」と言っているだけに……。もちろん嫌われたくない、選ばれ続けたいと演技を続けてきたのだろうが。

 そして、プロポーズを断った場面。「勝男さんには分からないし、分かってほしいとも、もう思わないかな」との言葉には、「分かってもらうために、これまで何か伝えたことがあったの?」という疑問が湧いてしまった。

◆鮎美が本当にやりたいことを見つけた“まさか”のきっかけ

 その後、勝男は料理作りや、後輩の南川、白崎(前原瑞樹)との交流や椿(中条あやみ)といった新たな出会いを通じて、周囲も巻き込みながら、驚くほどに変化を遂げていった。もともと素直で前向きな男である。鮎美と2人だけだった世界から飛び出たあとの吸収力には、目覚ましいものがあった。

 ただ、目に見える変化を遂げていった勝男に対し、30歳にして自分を模索中の鮎美の変化はゆっくりだった。だが第9話、結局詐欺ではあったものの、「考えるんじゃなくて、感じて。あなたが本当にやりたいことは頭じゃなくて心が知っているはず」という言葉に動かされ、会社を辞めて、飲食店をやろうと決意した。無謀にも思える決断だが、鮎美にとっては、自分を見つめて真にやりたいことを見つけ出した瞬間だった。

 だからこそ、そのタイミングで勝男にあれこれアドバイスされるのは違った。勝男も、相手の気持ちを汲み取らなければと思うようになったことで、鮎美に「困っていない」と断られると、いけないことをしてしまったと落ち込んでしまう。鮎美を好きなだけに、このままでは、どんどんハレモノを触るような態度になってしまうだろう。相手を支えたい気持ちが強くなっている勝男と、ひとりで立とうとしている鮎美。しかも、勝男自身、仕事でうまくいかなくなっているのにも関わらず、復縁できたうれしさで、「鮎美を助けたい! 支えたい!」という気持ちが全面に出てしまった。2人は、明らかにギクシャクしていた。

◆最後の勝男の涙は、ほんの少し瞳に光る美しさだった

 ダイニングでの2人の最後の会話は、穏やかで、切なかった。そして勝男と一緒に、じっくり鮎美の言葉を聞くことができた。「私、誰かに選ばれるためにずっと頑張ってた。でもそれで誰かと一緒になっても、今度は言ってもわからない。どうせ伝わらないって、最初から諦めて、そうやって我慢する関係になっていたのは、私のせいだったんだ」と。

 勝男と付き合っていたときのやりとりもそうだが、あのプロポーズを断ったときの「分かってほしいとも、もう思わないかな」は、勝男に対してとともに、自分自身への諦めが入っていたのだと感じた。そうした自分を見つめなおし、怖くても、ひとりで立つことを決めた鮎美。

 そして変化を続けながら、鮎美のことを好きという気持ちだけは変わらずに持ち続け、復縁を願い続けていた勝男が、最後に、「終わりにしよう」と決断した。本音を話し合えたのが最後の会話だったのが悲しいが、それも2人が変わったからできたこと。これまで幾通りもの魅力的な泣き姿を見せてくれた竹内涼真の勝男だが、この最後の会話でのほんの少し涙のにじむ瞳も素敵だった。

 初回の惑星カツオの爆発による雨の別れが、最終回は傷が残るも修復された惑星カツオと、レンコンと人参の飾り切りらしき模様の見える惑星アユミの周回する晴れの旅立ちになった。ラスト、高円寺の駅前ロータリーを、それぞれ別の方向へと進んでいく勝男と鮎美の姿に、視聴者としては後ろ髪をひかれつつ、それでも納得した。顔を上げて歩く2人からは、ようやくスタートラインに立ったようなすがすがしさがあった。(文:望月ふみ)

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