Netflix「WBC中継」はライブでありライブラリでもあった――テレビと違う、配信ならではの視聴体験

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2026年03月17日 12:40  ITmedia NEWS

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 3月5日からスタートした「WBC2026」。日本で行われたプールCは10日で全試合が終了し、「侍ジャパン」は全勝で準々決勝ラウンドへコマを進めたものの、15日のベネズエラ戦で敗れ、準決勝進出を逃した。


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 今回のWBCは、日本ではテレビ中継がなく、米Netflixによる独占ライブ配信で行われている。日本以外の地域では、スポーツ放送局による放送となっている。


 従来WBCの中継は、電通が代理店となって大会運営側と話をまとめ、各テレビ局が費用を分担するという構造になっていた。だが今回は米国内で、運営側とNetflixで直接話を決めたと聞いている。


 そもそも全体会の5倍と言われる150億円の放映権は日本のテレビ局には負担できなかっただろうとも言われている。2月6日から22日まで「冬季オリンピック」を放映したばかりでもあり、昨今のワールドスポーツイベントの放映権高騰と円安のダブルパンチで、日本企業にとってはなかなか厳しい話である。


 WBC開催前には、無料で見られない、年寄りにはNetflixの加入の仕方がわからないなど、マスコミでは盛んに騒いでいたが、結局のところ独占放映権を取得したNetflixを叩きたいのか、それとも放映権を取れなかったテレビ局を叩きたいのか、よくわからない論調であった。


 日本におけるNetflix加入率は、コロナ禍の追い風もあったことから2024年の時点ですでに1000万世帯を突破しており、およそ5世帯に1世帯は加入済みである。有料ネット配信サービスとしては、かなり高い加入水準にある。今さら「ネットの見方がわからない」という論調には無理がある。実際試合が始まってみると、そうした論調は下火になっていった。「叩き」の旬は過ぎたということだろう。


 プールCの全試合が終了したということで、日本国内の中継も終了したことになる。今回は日本で行われたWBCのライブ配信について、テレビ放送との違いをいくつかの方面から分析を加えてみたい。


●技術的には地上波と遜色ない理由


 ネットの意見を見てみると、Netflixによるライブ中継は、テレビとは違ったアングルで楽しめたという意見も多かった。ただこれは、レギュラーの野球中継と比べての話であろう。


 こうしたワールドイベントの場合、公式戦の中継よりも多くのカメラが入るのが普通なので、Netflixだから、ということでもないはずだ。


 なお日本の中継では、日本テレビが中継制作をNetflixから受託している。公式球場におけるライブ中継技術やノウハウをNetflix本体が持っているとは考えられず、外部の制作技術会社へ委託するのは妥当である。日本テレビの制作ではあるが、実際には日本テレビ以外の撮影・技術会社も多数入っているはずだ。


 カメラ数はかなり多い。いわゆるスタジアムレンズを使った固定カメラは通常通りの配置だが、それに加えて客席の模様だけを撮影する機動部隊が、少なくとも2班以上出ている。機動性を考えれば、固定カメラではなく、おそらくハンディによるワイヤレス伝送だろう。


 ホーム前や各ベースの近くに、地面に埋め込まれたカメラもあった。ホーム以外はあまり使われていなかったが、珍しいアングルである。


 グラウンドには、ジンバルによるワイヤレス伝送カメラが配置されていた。筆者が映り込みを見つけた時は「α」のロゴが見えたので、おそらくソニーの「FX6」ではないかと思われる。ライブの時もあればスロー映像になっている時もあったので、おそらくカメラ側ではハイスピード撮影しており、中継サブ側でメモリー記録し、スローリプレイとしても出していたようだ。


 ただジンバルカメラはこれは1台ではなく、おそらく複数台のカメラと人員が交代で撮影しているはずである。オープニングからエンディングのセレモニーまで含めれば4時間以上になる中継を、1人と1台のセットで走り回っているとは思えない。


 また3塁側のグラウンドと同じレベルでの設置カメラに、1台シネマカメラと思われるものがあった。被写界深度がかなり浅く、高コントラストな映像で、ピッチャーやバッターを抜いていた。以前も本コラムで言及したことがあるが、「シネマティックライブ」は2025年あたりからワールドワイドで実戦投入され始めた考え方である。


 カメラの多さは、スイッチングミスの減少にも貢献する。カメラが少ないと、1台のカメラをあちこちに振っていろんな絵を撮影しなければならず、スイッチャーとのタイミングが合わなければまだカメラがアングルを探している最中に取ってしまうようなミスが起こる。またベンチ内の選手を撮影しようとするも、前に別の選手がいて顔が見えないといったことも起こる。だが今回の中継を見る限り、そうしたミスは見られなかった。


 サブカメラの伝送は、ワイヤレスも含めIP伝送をかなり使っているはずだ。カメラ数が多くなるほど、途中にルーターを入れて回線をまとめながらスイッチャーまで伝送したほうが、合理的だからだ。逆に主幹線が死ぬと複数台のカメラが死ぬという弱点もあるが、試合自体を撮るメインカメラはベースバンドで直結しておけば、大きな問題にはならない。東京ドーム自体がIPシステムを導入したという話は聞かないので、日本テレビ側の技術が持ち込んだものだろう。


●独特のルールで運営されたCM


 WBCの独占中継を記念して、Netflixでは2月19日から3月18日までの間、加入初月料金を値引きするというキャンペーンを実施している。「広告つきスタンダードプラン」は890円→498円に、「スタンダードプラン」1590円→795円に、「プレミアムプラン」は2290円→1145円と、ほぼ半額となっている。


 WBCだけ見られればいいという人は、1ヶ月だけ498円で加入し、終わったら解約すればいいことになる。日本戦以外の全試合が1ヶ月間いつでも見られるという利便性を考えれば、約500円のコストは悪くない。


 筆者は以前からNetflixのプレミアムプランのユーザーなのでこのキャンペーンは関係ないが、広告なしプラン加入者から見れば、WBCのCM配信の方法はなかなか興味深かった。


 ライブ配信を視聴している際には、チェンジやピッチャー交代などの間にCMが挿入される。チェンジの間は2分間と決められており、普通に全画面でCMが放映されるのだが、右上にカウントダウンが表示されていた。


 テレビのCM枠は、番組によって長さが違うが、基本的には視聴者にはこのCM枠がいつまで続くのかわからない。逆に言えば番組がいつ始まるかわからないわけで、結果的にCMもそのまま見ることになる。


 一方でカウントダウンがあるCM枠の場合、あとどれぐらい時間的に余裕があるなというのが視聴者にはわかるので、その間トイレに行ったり冷蔵庫にビールを取りに行ったりといったことができてしまう。CMを見せるという観点からすればマイナスではあるが、視聴者にとっては広告があることのデメリットは少ないとも言える。


 CMには一般スポンサーのものが大半だが、Netflix自体のWBCに関する広告や、Netflixで配信中のコンテンツの広告も放映された。いわゆる「自社広」である。これを見ている人はすでにNetflix加入者であるなら、自社広を打つのはあまり得策ではないように見える。


 だが実際には、自分は加入していないが友達の家で一緒に見てるとか、公式パブリックビューイングで見ている人には効果があっただろう。


 ライブ中継中にも、前に戻って追っかけ再生ができるのもネット中継ならではだ。この時には、通常のコンテンツとは違い、早送りしてもサムネイル表示が出ない。タイムライン上の時間しかわからないのだが、CMも早送りで飛ばすことができた。


 つまりライブ中継とCMも込みで、グロウイングファイルになっているようだ。むしろCMが嫌いな人は、あえてライブから遅れて視聴し始めるということもできる。


 3月10日の日本vsチェコ戦は、7回までライブで見て、続きは約1時間半後に視聴した。すでにライブ配信は終了していたが、追っかけ再生時にはまだ、試合のハイライトシーンによるサムネイルははめ込まれておらず、国旗と文字だけである。おそらくこの状態がグロウイングファイルのままということだろう。


 しかしこの時コンテンツ再生直前には、「編集済み」という表示が出ていた。視聴してみると、CM枠がカットされていた。これは筆者が広告なしプランに加入しているからかもしれないが、広告なしプラン加入者からすればありがたい仕様である。


 7回以降には一部のCMが放映されたが、中継画面とCM画面が「PinP」で2画面表示となった。これはテレビ放送ではありえない広告の出し方だ。CMの横で準備中の選手の映像が見られる。逆にこれならCM中も席を立たずちゃんと見る。


 放送システムでは番組とCMは完全別回線でガバッと切り替わるだけなので、それを「混ぜる」ことは想定されていない。だが方法論としては、放送局も検討の余地があるだろう。CM離脱率が大幅に下がることが期待できるからだ。


 翌日、同じファイルを見てみると、他の試合同様、ハイライトシーンのサムネイルに差し替えられていた。これを再生すると、早送り中にはまだサムネイルは表示されなかった。一方3月9日の日本vsオーストラリア戦は、早送りするとサムネイルが表示された。サムネイルの反映までは少し時間がかかるようだ。


●スペシャルコンテンツを保持する意味


 Netflixでは、WBC関係のコンテンツは試合中継だけにとどまらない。試合のハイライトや強化試合、プールC以外の3プールの試合も視聴することができる。さらにはWBC開催に至るまでのドキュメンタリー、過去5大会のダイジェストなどのコンテンツも制作されている。


 加入すればライブだけでなく、これらをいつでも見られるというのは、スポーツファンにとっては魅力的だろう。いわゆる、大会全部のライブラリ化が行われるということだからだ。これは枠が無限大にあるというネットサービスならではのサービスである。


 今回テレビ放送ではなかったデメリットとして、飲食店などの営業中の放映が利用規約上できなかったことが挙げられる。街頭テレビからスタートし、テレビがある家に近所の子どもたちが集まってきた時代から連綿と続くテレビ放送は、コンテンツを共同視聴することには基本的におおらかである。


 ただNetflixもすべてのパブリックビューイングが禁止されたわけではなく、選手の出身地や縁のある地、出身校などでは、公式による『「2026 ワールドベースボールクラシック」ホームタウンヒーロー・パブリックビューイング』が実施された。放送中にもこうしたパブリックビューイング会場からの中継が挿入され、舞台を盛り上げた。高校野球中継などではおなじみの手法だが、仕掛けとして実によくできている。


 今回のWBCは、ネット配信事業者のライブ中継参入という意味にとどまらず、ワールドイベントの映像化として意義深いイベントとなった。ライブに関しては技術的にはテレビ技術に頼るところが多い反面、ライブ配信後の素早い編集作業や周辺の編集コンテンツの豊富さは、ネットサービスならではの強みである。


 150億円とされる放映権費用は、CM販売や新規加入者があったとしてもとても賄えるような金額ではないだろう。多額の持ち出しになっていると思われる。だがそれは、テレビ放映のような短期的収益で見るべきではない。この独占権が一過性のものではなく、次回3年後やそれ以降も価値を持ち続けるとしたら、ネット配信ならではの息の長い収益性で見るべきである。


 さらに言えば、この独占配信はNetflix自体の広告宣伝費としても機能する。日本のテレビ局が束になってもかなわない、ワールドイベントを独占できるほどの事業規模があるということを日本国民へ訴えたということでもある。


 すでにテレビのリモコンにNetflixの専用ボタンが搭載されて久しいが、これがテレビチャンネルボタンと同等の価値を持たせることに成功したのであれば、ネット配信事業者としては大きな成功である。


 ここで注意しておきたいのは、Netflixが興味があるのはワールドイベントであって、必ずしもプロ野球のペナントレースではないということだ。デイリーな野球中継の収益性を考えれば、Netflixが乗り出す価値はない。よってプロ野球中継がネットに取って代わられるということはないだろう。


 逆に言えば、テレビがせっせと日々放映するスポーツ中継が、ワールドスポーツイベントを抑えられる大規模ネット事業者の養分となる。今回うまく立ち回った日本テレビのような事例もあるように、今後のワールドイベントではテレビ局がネット配信事業者の下請けで働くという構図も見えてくる。


 放送の未来としては、それも悪くないのではないか。自分たちしか持っていない技術を売るのは、悪いビジネスではない。ただしメンツを捨てれば、の話ではあるが。



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