高品質なものこそシンプルに楽しみたい 身の回りにあって当たり前に使っている言葉ほど、意味を真剣に考える機会が少ないもの。例えば「ウインナー」と「ソーセージ」はどう違うのか、きちんと説明ができる人は多くないのではないだろうか。
そこで、山梨県に所在する世界のソーセージ専門店「hayari」のシェフであり、現代ソーセージ研究家でもある村上武士氏に「ウインナーとソーセージの違い」を聞いた。
◆ソーセージは「食品のジャンル名」
村上氏によれば、ウインナーとソーセージ、それにフランクフルトを加えた三つの言葉を混同してしまう人が多いという。そのなかで、まず理解すべきは「ソーセージ」のみ位相が違うという点だ。
「ソーセージは食品のジャンル名で、いわば『親カテゴリ』といったところでしょうか。細分化した『子カテゴリ』としてウインナーやフランクフルトがあるんです。他の食材で例えるなら、パスタは小麦粉と水を練り合わせてできた食品のジャンル(親カテゴリ)。そのなかに、子カテゴリとしてペンネ・フェットチーネ・マカロニがあるのと同じことです」(村上氏、以下同じ)
筆者も恥ずかしながら、この区別を知らないままに村上氏に「日本で消費量が多いのは、ウインナーとソーセージのどちらですか?」という質問をぶつけてしまっていた。
◆太さや使われる「動物の腸」によって分類される
ソーセージがウインナーやフランクフルトの総称であることは理解できた。次に、それぞれがどのように区別されているのかについても学んでいきたい。
「まず、ウインナーソーセージは太さが20mm未満、または羊の腸を使用したもの。一方のフランクフルトソーセージは20mm〜36mm未満または豚の腸を使用したもの。そして、36mm以上、または牛腸を使用したものはボロニアソーセージと定義されていて、これが日本におけるソーセージの三大類型なんです」
つまり、太さや素材によって分類されているということ。村上氏は「どの類型も流通段階でそのまま喫食できる状態(加熱や乾燥がなされている)が条件です」とも付け加えた。
◆「消費者を混乱させる理由」がいくつか存在
ではなぜ、これらが混同されるようになってしまったのか。村上氏はあくまで推測であるとしながら次のような回答をくれた。
「日本のスーパーでは、あらびきポークウインナー・徳用ウインナーなど、ウインナーの売り場が広く取られています。そこに並ぶウインナーは、小ぶりなものが多いことから『小ぶりな食肉加工品はウインナー』というイメージが形成されているのかもしれません。それに対して『ソーセージ』という言葉は、全ソーセージのパッケージに書き込めるんですが、おのずとウインナー以外の商品に使用することが多くなるんですね。そうすると『ウインナーよりもなんか太くて、がっちりした食肉加工品はソーセージ』という無意識の刷り込みがなされることが原因かと思います」
メーカーやお店のイメージ戦略も消費者を混乱させる一因なのではないだろうか。
「ウインナーという言葉にはデイリーなイメージがありますが、高級感を出す場合に『〇〇牛のソーセージ』など、あえてウインナーという呼称を使わないものも多くあります。また、細長いウインナーが乗っているマヨネーズ系のソースをかけた惣菜パンも、大手メーカー各社が『まるごとソーセージパン』など、商品名にソーセージを冠する傾向がありますよね。これもまた混同する要因だと推測します」
さらに、メーカーや店舗がある程度自由につけられる「商品名」と、国の定めによって記載のフォーマットが決められている「名称」が混同されているとも指摘。
「商品名に『◯◯ぶりっとソーセージ』などとあっても、名称はウインナーやフランクフルトとなっているものもたくさんありますよ。原材料表示シールをよく見てみましょう」
◆ウインナーは「煮込み過ぎないことが大切」
せっかくの機会なので、それぞれの美味しい食べ方も指南いただくことにしよう。
「ウインナーの味わいを楽しむためには煮込み過ぎないことが大切です。お湯が沸騰してウインナーを入れたらすぐ火を消し、蓋をして6〜8分余熱で温めると、ウインナーのうま味とプリプリ感がしっかり味わえます」
さらに、これから暑くなる季節にも爽やかに食べられる調理法もあるという。
「チェコの『ウトペネツ』(ピクルスソーセージ)という料理がオススメです。ピクルス液にスリットを入れたお好みのウインナーを入れて1日以上漬け込みます。使うウインナーは、粗挽きで脂肪がゴツっと入っているものよりも、滑らかな生地状のものの方が合います。キュウリやセロリなどを一緒に漬ければ、さっぱりとした付け合わせにもなりますよ」
◆「コンビニのフランクフルト」もちょっとした工夫で化ける
次に、フランクフルトの調理のコツと美味しいメニューは以下の通り。
「縦割りにカットして、焼いても反らないように皮側に包丁でスリット(切れ目)を数カ所に入れます。両面をフライパンでカリッと焼き、オニオンスライスやカットしたトマトと一緒にパンに挟みます。サルサソースをたっぷりかけて食べれば、アルゼンチン風のホットドック『チョリパン』の完成です」
さらに、普段料理をしない人でも簡単に新しい美味しさが体験できるレシピも伝授してくれた。
「コンビニのホットスナックとして売られている真っ直ぐなフランクフルトがありますね。あれを、リンゴのデニッシュ(アップルパイ)に刺してホットドックにします。海外ではソーセージにフルーツソースを合わせることもあり、リンゴの甘酸っぱさがフランクフルトの脂とよく合います。ヨーグルトをトッピングしても美味ですよ!」
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ウインナーやソーセージの区別がわからなくても生命に関わることはない。しかし、きちんとした知識を備えていれば、食事がより充実して楽しめるはずだ。今回の取材を踏まえて、自分の好きなソーセージを探求してみようと思った次第だ。
<取材・文/ Mr.tsubaking>
【村上武士】
現代ソーセージ研究家。福島県いわき市出身。役者を目指して劇団を渡り歩くも料理の道に目覚め転進。様々な料理店の経験中ソーセージの奥深さに魅了され2009年東京恵比寿に世界のソーセージ専門店「hayari」をオープン。2012年『シャルキュティエのソーセージレシピ』誠文堂新光社より発刊。2016年上野原市に移住。工房併設カフェ「ハヤリテラス」オープン。2023年DLG(ドイツ農業協会)国際コンテスト金賞。現代ソーセージ研究家としてメディア出演、執筆、レシピ開発などを手掛ける。日々、ソーセージ=筒形料理「お料理としてのソーセージ」を追求している。
【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。