「フランス婚」の国、同性婚カップルが養子をもつ権利をめぐって国民的議論

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2013年03月19日 12:30  MAMApicks

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「あなたは同性婚に賛成ですか? 反対ですか?」
こんな質問について考えたことがあっただろうか。―――

フランスでは今年2月、同性カップルが結婚して養子をもつ権利を認める法案が国民議会下院で可決され、話題になっている。

同法案の成立は、昨年5月に政権交代を果たした社会党オランド大統領の選挙公約でもあり、まだ多くの関門が残っているものの、大きな第一歩を踏み出したことになる。

この法案には多くの人が関心を寄せており、今年1月には、まずは反対派が大規模な反対デモを、その後、支持派が規模の面では反対派に劣るものの、やはり反撃デモを行っている。

この反対派のデモを報じたテレビのニュース番組の中での参加者へのインタビューが印象に残った。

インタビューを受けた40歳前後の女性は、4人の子ども(園児くらいから高校生くらいまで)と一緒にデモに参加、「子どもにはパパとママが必要。」と同性婚には反対。

「一緒に参加しているお子さんたちはこの問題について理解して参加しているのですか?」という質問には、「一番小さい子にはまだ無理だけれど、上の子どもたちには普段から話しているから、ちゃんと理解して参加しているはず。」との答え。

中年の女性が反対するのには何とも思わなかったが、親が子どもを相手に議論し、その結果ではあるが、中学生や高校生までもこの問題に関心を持っていることに驚いた。

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現在フランスに在住する筆者だが、身近に同性愛者の知り合いがいるわけではない。ただ、同性愛者がフランスよりもさらにマイノリティとなってしまっている日本で育ってきた身としては、この議論に対しては完全に傍観という立場である。

「あなたは賛成? 反対?」ときかれれば、「うーん、考えたことないけど、やっぱり社会は変化してるんだし、同性愛者にも権利を認めてあげるのは良いことじゃない?」と、いかにも何も考えていない返答をして、白い目で見られていたかもしれない。


しかし、メディアの大きな取り上げ方や、普段は穏やかなフランス人夫家族の頑なな反対論議を聞き、これではいかん!と両方の主張を見てみることにした。

「同性婚」と一言に言ってしまうが、焦点となっているのは、結婚そのものよりも、養子縁組と代理母や人工授精による子どもを持つ権利。

家族手帳(※結婚した時にもらう家族の身分証明書、日本でいう戸籍にあたるもの)には、父・母の代わりに「親」とだけ表記されるようになる。

フランスでは、1999年にPACS(パクス法=連帯市民協約法)がすでに成立しており、事実婚や同性愛のカップルにも、税制控除や社会保障などについて結婚に準じる権利を付与しており、同性カップルの権利拡大にもつながっていたが、養子をもつ権利は認めていない。

法案支持派は、時代遅れの差別を終わらせ、既に10ヵ国以上で認められている養子をもつ権利を伴う同性婚を、フランスでも認めるべき、としている。これには仏国内の芸能人や政治家、スポーツ選手など、多くの著名人が支持を表明している。

一方、法案反対派は、そもそも前述のPACSにすら反対だった保守派。結婚は認めるが、「子どもには父親と母親が必要である」と同性カップルの養子縁組に反対する人々、「結婚は男女の愛の結びつきであり、社会の基盤を揺るがす」とするカトリックの人々、「父・母という言葉を排除することは父・母という概念を取り壊すことになりかねない」と懸念を示す人々、など、様々な立場がある。

反対派の主張を見ていると、私はカトリックではないものの、同性の親に育てられ、明らかに他の子どもたちとは生育環境が異なる子どもへの影響、また父・母という概念が薄まること、には考えてしまうものがあった。

これはたしかに社会を大きく揺るがす変化であり、ただ同性カップルが幸せになれる、と簡単に賛成してはいけないことのように思える。

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一方、婚外子の割合が年々増え続け、2006年には50%を超え、2011年には55%に達しているフランス。

日本でも「フランス婚」と呼ばれ、話題になったこともあるが、フランスは結婚をせずにカップルが同棲して子どもをもうける(こともある)「事実婚」が非常に多い国だ。

前述のPACSも、同性愛者の要請によって生まれた法律ではあるが、同性愛者に対象を限ったものではなく、異性カップルにも適用される。2005年の法律改正で、PACSの税優遇が婚姻とほぼ同じになり、PACSを選択する異性カップルは大幅に増えた。

離婚に多くの手続きと莫大な弁護士費用を要するフランスでは、結婚のもつ多くの権利を享受しながら、簡単に関係を解消できる(片方の意思だけでの解消も可能)PACSは、異性カップルには便利な制度で、婚外子が増える要因にもなっている。

「離婚が大変」と言いつつ、それでも離婚が多いフランス。
結婚件数に対する離婚件数の割合は、ピークを迎えた2005年にはなんと52.3%! その後少し落ち着きここ数年は横ばいだが、それでも2011年は44.7%である。PACSによって分母となる結婚件数が減ったというのもあるだろうが、やはりこの高い数字には驚きを隠せない。

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増え続ける婚外子、高い離婚率。―――
「従来型の結婚観にこだわらず、個人としての生き方を尊重し、認知する社会」というポジティヴな議論でまとめてしまえばそれまでだが、結婚しないまま最後まで添い遂げる事実婚カップルや、子どもが成人してから離婚するカップルの存在を考慮しても、つねに父・母の両方が存在する環境で育つ子どもは、現時点でも、以前に比べれば確実に減っているはずである。

この状況を踏まえて反対派の議論を改めて見ると、また自信がなくなってしまう。
子どもには父親と母親が必要であるという議論、結婚は男女の愛の結びつきであるという主張、父・母という概念の重要性、すべて説得力に欠けてくる。

すでにここまでの変化を受け入れてきた社会でも、この新たな変化はあまりに大きすぎる変化として食い止めるべきなのか……。

「あなたは同性婚に賛成ですか? 反対ですか?」
いつか日本でも同じように議論される日が来たら、皆さんは何と答えますか?


フォルク 津森 陽子
食品メーカーにて営業を経験後、一念発起してパティシエに転身。半年のパティシエ修行で来たはずのパリ滞在が伸び、いつの間にかパリで一児の母に。妊娠後はパティスリーを退職、現在はフランス人の夫の仕事を手伝いながらパリで2011年生まれの息子の子育て奮闘中。

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