「改革の原点に立ち返れ!」 政府の刑事司法改革案に刑法学者らが「待った!」

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2013年10月31日 15:31  弁護士ドットコム

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厚労省官僚の村木厚子さんが無罪となった裁判で、提出された証拠が検察官によって改ざんされていたことなどをきっかけとして、法曹関係者のあいだで議論されている「刑事司法制度改革」。政府・法制審議会の特別部会が年内にもまとめるとされる「答申」はその重要なターニングポイントだが、国内の刑法学者らが「待った!」をかけた。


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学者らは9月中旬、同特別部会に意見書を提出。「(答申が)刑事司法改革の原点とは異質の制度案となることが危ぐされる」と表明した。改革の原点は、えん罪を生みだしやすい密室での取り調べや、それに依存した捜査・裁判のあり方を変えること……などとして、取り調べの全過程可視化や、検察側証拠の全面開示などを実現するよう訴えた。



この意見書には9月17日時点で103名の刑法学者らが名を連ねている。なぜ、学者らはこれほど強い危機感を持っているのだろうか。そのワケについて、意見書の呼びかけ人の一人である関西学院大学法科大学院の川崎英明教授に聞いた。



●原点は「刑事裁判の抜本的改革」


「『新時代の刑事司法制度』構築に向けた改革の直接的なきっかけは、厚労省村木事件の無罪判決と大阪地検・特捜検事の証拠改ざん事件でした。



誤判・えん罪や検察の不正行為を防止するには、まず、捜査過程の透明性を高めること。さらには、密室での糺問的取り調べに依存しない公判審理が必要です」



川崎教授はこのように切り出した。糺問的取り調べという言葉は耳慣れないが、この場合、全てから隔離された取調室で、捜査官が被疑者の罪を厳しく問いただす、というようなイメージだろうか。



教授らは、捜査機関がそうして一方的に集めた調書(証拠)を中心に裁判が行われていることも、大きな問題だと考えているようだ。



「糺問的捜査に依存した調書裁判という今の刑事裁判の抜本的改革が不可欠である。そういう問題意識が今回の改革の原点です」



川崎教授はこのように強調するが、政府の議論はそれとは違う方向性なのだろうか?



「改革案を検討している法制審議会の『新時代の刑事司法制度』特別部会の議論を追っていくと、この改革の原点とは乖離(かいり)した刑事司法改革に終わってしまうのではないかという疑念を払拭できません」



●取り調べの全過程可視化「すら」実現しない!?


具体的には審議内容の、どんな点が問題視されているのだろうか。



「たとえば、取り調べ全過程の録音・録画(可視化)は当然行うだろうと思っていましたが、特別部会では、捜査官の裁量判断による録音・録画にとどめて《全過程可視化にはしない》という意見も根強くあります。



また、全過程可視化を原則としつつも、捜査官の裁量判断によって《広い例外を認める》という意見も強いのです」



意見書を提出した刑法学者たちの感覚からすれば「やって当然」といえる全過程可視化すら、認められない可能性がある、ということだ。



川崎教授はさらに、「その一方で、通信傍受(盗聴)の拡大や会話傍受(盗聴)の導入など、捜査権限が格段に強化されようとしています」と指摘する。



たしかに、第三者からの監視も不十分なまま捜査機関の力が強まれば、ますます密室での取り調べの重要性が増すだろう。



「『改革の原点に立ち返れ』という、多数の刑事法学者の主張と危機意識が、今回の意見書では表明されているのです」。川崎教授はこのように強調し、審議の内容に一石を投じていた。



【取材協力】


川崎 英明(かわさき・ひであき)関西学院大学法科大学院教授


1951年生まれ。1979年島根大学法文学部講師。同助教授、教授を経て、1994東北大学法学部教授。2001年関西学院大学法学部教授、2004年から現職。


現代検察官論(1997年、日本評論社)、刑事再審と証拠構造論の展開(2003年、日本評論社)など著書多数。


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