グラミー賞に見る世界の音楽界2大トレンド「米国以外出身」「インディー契約」

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2014年01月28日 23:40  リアルサウンド

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Macklemore & Ryan Lewis『Heist』

 1月27日(現地時間1月26日)にロサンゼルスのステイプルズ・センターで行われた第56回グラミー賞授賞式。今回のグラミー賞で特筆すべきなのは、アメリカ以外の国のミュージシャン、そしてインディーズで活動するミュージシャンの躍進だ。



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 主要2部門を含む5冠を達成したダフト・パンクは、ご存知の通りフランス出身のエレクトロ・デュオ。年間最優秀楽曲賞を、史上最年少で受賞したロードはニュージーランドのシンガーソングライターである。また最優秀新人賞、最優秀ラップ・アルバム、最優秀ラップ楽曲賞、最優秀ラップ・パフォーマンスの4部門を受賞したマックルモア&ライアン・ルイスは、インディーズで活動するミュージシャンで、メジャーレーベル的な大がかりなプロモーションは一切行われなかったが、インターネットやオンラインでの露出と、ライヴで着実にファン層を広げていき、全米iTunesチャートで1位を獲得。ビルボード200アルバム・チャートでも初登場2位を獲得(2012年10月19日付)し、インディー・アーティストとして、異例の初週売上7万8000枚を記録した。さらに最優秀オルタナティブ・ミュージック・アルバムを受賞したヴァンパイア・ウィークエンドは、米国出身ではあるが、所属するのはイギリスのインディーレーベルであるXLレコーディングス。同レーベルは1989年にスタートしたまだ歴史の浅いレーベルだが、所属するアーティストはアデル、ベック、ジャック・ホワイト、レディオヘッド、シガー・ロスと錚々たる顔ぶれだ(ただし、彼らの多くは地域によってメジャーレーベルとも契約している)。



 ポピュラー音楽の評論家であるキム・ジャッカは、こうしたグラミーのトレンドについて「グラミーは数年前から、英国のアデルやマムフォード&サンズ、カナダのアーケイドファイアに注目し、米国内の創作力枯渇を、インディーズ出身の非米国音楽家から求めてきた。今回のダフト・パンクやロードの受賞は、ポップのミッドフィルダーを占めていた米音楽界が、ほかの国から進むべき新しい道を示されたような形を見せている」と語る。



 アメリカのメジャーレーベルが「創作力枯渇」かどうかはさておき、これまでの主流、すなわち「アメリカ人でメジャーレーベルに所属し、大々的なプロモーションでヒット」という図式が崩れてきているのは間違いないだろう。事実、今回グラミー賞にノミネートされた398作品のうち、199作品がインディーズ・アーティストによるもの。半数をインディーズが占めるようになったのは、集計が開始されて以来はじめてのことだ。





 インディーズミュージシャンが活躍できるようになった理由。そのひとつにソーシャルメディアによるプロモーションが挙げられる。テレビやラジオ、雑誌という媒体が、以前ほどの影響力を保てなくなっている一方で、TwitterやFacebook、YouTubeなどのツールを使えば、誰でも簡単に自分のメディアを持てるようになった。さらに、そこへリスナーの購買行動の変化も後押しする。以前であればレコード店でCDを購入しなければならなかったため、店頭でのプロモーションが非常に効果的であったが、現在ではiTunesでダウンロード、あるいはSpotifyのような音楽聴き放題ストリーミングサービスで、ワンクリックすればスマートフォンひとつでどこにいても楽曲を聴くことができる(ダフト・パンクの「ランダム・アクセス・メモリーズ」の発売初週売上33万9000枚のうち65%の22万1000枚がデジタルダウンロードによるものだ)。このようなデジタルによる流通は、ソーシャルメディアと非常に相性がいい。さらにウェブには国境がないため、ミュージシャンがどこの国を活動拠点にしていようが関係ない。良い作品を作れば売れる、全てのミュージシャンにフラットな環境が与えられ、それを反映したのが今回のグラミー賞の結果であったように思う。



 今後もインディーズに限らず、ミュージシャンの活動形態は多様化していくだろう。かつて存在していた「王道」が、失われつつある状況をどう受け止めるか。あまり悲観的にならず、あらたなビジネスチャンスとしてチャレンジするミュージシャンの活躍に期待したい。(北濱信哉)



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