別人が作曲していた「佐村河内守」 CDを買ったファンは「返金」してもらえるか?

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2014年02月10日 11:50  弁護士ドットコム

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両耳に障害を持つ作曲家として知られる佐村河内守(さむらごうち・まもる)さんが、代表作の交響曲などを別人に作ってもらっていたことが明らかになり、騒動となっている。「18年間、ゴーストライターをしていた」と名乗り出た大学講師の新垣隆さんは、2月6日の記者会見で「(佐村河内さんの)耳が聞こえないと感じたことはない」と語り、さらなる衝撃を与えた。


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佐村河内さんは、耳が聞こえないにもかかわらず、壮大なクラシック曲を作り出しているということで注目を集めてきた。代表作「交響曲第1番 HIROSHIMA」は、NHKの番組で取り上げられたこともあり、クラシックとしては異例の10万枚を超える大ヒットとなっている。「現代のベートベン」と称える声もあったほどだが、今回の騒動を受けて、レコード会社はCDの出荷を停止した。



これまで佐村河内さん名義で発売されたCDを購入したファンのなかには、「耳が聞こえない佐村河内さんが作曲しているから買った」という人もいるのではないか。おそらく「だまされた!」と憤っていることだろう。では、そんなファンは、レコード会社やCDショップに対して、「CDを返却するから、金を返してくれ」と要求することができるのだろうか。好川久治弁護士に聞いた。



●「全聾の人が作曲した音楽」という点をどれだけ重視したか


「一般論として、CDの購入代金の返金を求めるためには、『音楽CDという商品が、本来備わるべき性能や性質を欠いている。あるいは、商品に欠陥や不具合がある』と主張して、売買契約を解消する必要があります」



好川弁護士はこのように説明する。



「そのための法的根拠としては、(1)契約不履行(履行不能)にもとづく解除(民法543条)、(2)重要事項の不実告知を理由とする取消し(消費者契約法4条1項1号)、(3)『要素の錯誤』を理由とする無効の主張(民法95条)、の3つが考えられます」



では、今回のようなケースで、どれかが認められる可能性はあるのだろうか?



「(1)の『契約不履行にもとづく解除』が認められるためには、『契約の目的が達成できない』と認められる必要があります。



今回のケースにあてはめると、購入者が『全聾の人が作曲した音楽』という点を特に重視し、その特性が備わっているからこそ、音楽そのものの良さとは関係なくCDを購入した、といえるような事情が必要です」



●「一般通常人の感覚」にしたがって判断する


では、(2)重要事項の不実告知を理由とする取消しや(3)錯誤を理由とする無効については、どうだろうか。



「(2)や(3)についても、おおよそ同じような事情が必要といえます。



音楽CDの売買契約を取り消したり、契約が無効だと主張するためには、(a)その音楽CDの内容や性質について、購入者の認識と実際との間に食い違いがあり、(b)もしこの食い違いを知っていれば音楽CDを購入しなかったであろう、といえなければなりません。



この際の判断基準は、実際に購入したファン自身の目線ではなく、一般通常人の感覚となります」



そうなると、結論はどうなるのだろう?



「もし『全聾の作曲家が作った音楽』という点が、単に購入のきっかけにすぎなかったとすれば、ゴーストライターが作った曲だったとしても、『契約目的を達することができない』とはいえないでしょう。また、『事実を知っていたら、一般通常人もCDを購入しなかっただろう』ともいいがたいでしょう。



したがって、そのような場合は、契約を解消して返金を求めることはできない、ということになります」



ここまでの話を聞く限り、返金は簡単には認められなさそうだが、実際にはどうなのだろうか?



「請求が認められるかどうかを判断するためには、個々の事案ごとに具体的な事情を検討していかなければなりません。



具体的な事情としては、CDを購入した動機や目的のほか、特定の作曲家が作曲に関与していたことをどの程度重視したか、作曲家が他人に作曲を丸投げしていたのか、それとも作曲の一部にでも関与していたのか、その関与が作品の内容(リズム、メロディー、ハーモニー)にどのような影響を与えたのか、などといった点があげられます」



つまり、請求が認められるかどうかはケースバイケースで、一概には言えないということだろう。



●「すばらしい楽曲」だからCDを購入したとしたら・・・


「今回の件では、CDを購入した方が、『両耳が聞こえない障害を持つ作曲家が作った楽曲』とか、『TV番組で取り上げられて話題となっている楽曲』といった背景事情に興味や関心を持ったことは容易に想像できます」



このように好川弁護士はCDを購入した人の心理を推測しつつ、次のように付け加えていた。



「ただ、誤解を恐れずに申し上げると、CDを購入した方の多くにとっては、『両耳が聞こえない作曲家の作品だから』という点よりも、むしろ『評判のよい音楽だから』『すばらしい楽曲だから』という点が、購入を決めた一番の動機や目的となっていたのではないでしょうか。



そう考えると、購入者が重視したのは『音楽』そのものであり、『障害をもつ作曲家が作った』という背景事情は附随的なものにすぎません。そうだとすれば、『別人が作った曲』という理由だけでは、契約を解除したり、取り消したり、無効を主張したりして、返金を求めることは難しいのではないかと思います」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
好川 久治(よしかわ・ひさじ)弁護士
1969年、奈良県生まれ。2000年に弁護士登録(東京弁護士会)。大手保険会社勤務を経て弁護士に。東京を拠点に活動。家事事件から倒産事件、交通事故、労働問題、企業法務まで幅広く業務をこなす。趣味はモータースポーツ。
事務所名:ヒューマンネットワーク中村総合法律事務所
事務所URL:http://www.hnns-law.jp/



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  • 作曲家名は著作者人格権の1つで他人に譲渡できない。それが虚偽だったんだから、重要事項の不実告知に該当するでしょう。
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