街にとっての「サードプレイス」、それこそ理想の本屋のあり方だと思う ―アノヒトの読書遍歴:内沼晋太郎さん(後編)

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2014年04月21日 12:11  BOOK STAND

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内沼さんの言葉には本に対する愛情が感じられます
本と人との新たな関わり方を提案するブック・コーディネイターとして、ご自身でも東京・下北沢で本屋「B&B」をプロデュースする内沼晋太郎さん。今年の夏でオープンして3年目を迎える同店は、ビールを飲みながら本を読むことができたり、毎日本にまつわるイベントを開催するなど、"本そのもの"を楽しむことができる新しい形の本屋として日々多くの人で賑わいます。今回は、内沼さんがこの本屋「B&B」を手がけるに至った背景と同店に託す思いを、ご自身が本屋づくりのヒントとしている一冊と共に、おうかがいしました。

「いろいろな形で本と関わる仕事をしてきて、いずれ新刊書店をやってみたいという気持ちはありましたが、こんなに早くやるつもりはありませんでした。きっかけになったのは、震災の直後くらいに、現在のB&Bの共同経営者でもある博報堂ケトル・嶋浩一郎さんと一緒に、雑誌『BRUTUS』の「本屋好き。」という特集号を、一緒にお手伝いさせていただいたときのこと。
 ぼくも嶋さんも全国の本屋によく行っていましたが、地方の小さな本屋ってすごく面白いんですよね。独特の書棚づくりをしている店もあれば、その土地土地に馴染んだ雰囲気の店もあってすごく魅力的なのですが、残念なことに、そんな地方の本屋の中には厳しい経営状況のお店も少なくない。
 あの時の取材であらためて、小さな街の本屋の面白さと難しさを同時に知りました。そこで、『これから先もやっていける本屋さんのかたちって何だろう』と、嶋さんと話し合うようになったんです」

 そうして「成功する小さな本屋のモデルケースを、自分たちでつくろう」と内沼さんがB&Bをオープンしたのは、それからおよそ1年後の2012年7月のこと。今現在も、B&Bと共に理想的な街の本屋の在り方を模索している内沼さんですが、とある一冊の本にそのヒントを見出したそうです。

「最近では、自宅でも職場でもない、カフェのような個人にとっての"第三の場所"を『サードプレイス』と言うようになりました。この言葉を初めて世に広めたのがレイ・オルデンバーグの著書『サードプレイス―― コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』です。僕はこの本を読んだ時、これからの街の本屋も、正しくこのサードプレイスになるべきだと思いました。フラッと立ち寄るだけで別に何も買わなくていいけど、そこには何かしらの発見や出会いがある、この本の副題にもあるような『とびきり居心地よい場所』って、実はなかなかないものです。でも街の本屋って、まさしくそんな場所ですよね。

 ただ、同書にはこのサードプレイスが『インフォーマルな公共の集いの場』であり、ある程度の会話があることが前提とされています。けれども、そもそも日本、特に都心部では、たとえばカフェなどで隣になった人と話しはじめるような習慣はなく、サードプレイス風につくられた場所もどちらかというと『一人になれる場所』になってしまいがち。もちろんそれは、一般的な街の本屋も同じです。

 けれど僕たちの店では意識しないうちに毎日イベントを開催して、そこでアルコールを提供することによってコミュニケーションを促すようなことをしていました。まさに隣に住んでいる人や働いている人たちが集まる場を作ったんです。

 また、より広く考えれば、そもそも本は人が書いた言葉です。街の本屋で偶然出会った一冊と対話をすることが、その人と街との関係を作っていく可能性がある、と僕は考えるようになりました。

 大型書店がたくさんでき、Amazonなどのネット書店が勢いを増し、電子書籍の普及も進むいま、街のサードプレイスとしてどうあるべきかというところに、『これから先もやっていける本屋さん』のヒントがたくさんあるような気がしています」


<プロフィール>
内沼晋太郎
うちぬま・しんたろう/1980年生まれ。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。「本とアイデア」のレーベル「numabooks」主宰。著書に『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版)や『本の逆襲』(朝日出版社)がある。



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