限定公開( 1 )
「捕鯨のまち」「イルカ漁のまち」として知られる和歌山県太地町。この人口3000人あまりの小さな町が揺れている。観光施設「町立くじらの博物館」に入館拒否されたオーストラリア人女性らから、慰謝料約670万円を求める訴訟を起こされているためだ。
【関連記事:「ツイてる!ツイてる!」 小学校「スーパーハッピー」動画を弁護士はどうみる?】
朝日新聞によると、このオーストラリア人女性はイルカ漁に反対する団体のメンバー。今年2月、博物館を訪れたとき、「反捕鯨のかたは入館できません」と書かれた紙を職員から示され、入館を拒否された。女性らは「(入館拒否は)憲法14条が禁じる人種差別にあたる」「思想・良心の自由も侵害している」と主張しているという。
|
|
一方、博物館長は「町の文化や財産、産業を守るため。差別ではない」と反論している、と報じられている。捕鯨・イルカ漁をめぐっては、賛成派と反対派の対立がエスカレートしがちといえるが、今回の問題をどう見ればよいのだろうか。日弁連憲法問題対策本部の委員をつとめる森一恵弁護士に聞いた。
「今回のケースでは、太地町が、『反捕鯨』の立場の外国人を対象として、入館を拒否しています。裁判所では、博物館が拒否した理由・目的と、拒否した手段の妥当性の2点が、厳格に検討されることになります」
|
|
「原告は、次の2点を主張しています。
(1)人種・信条による差別を禁止し、法の下の平等を保障した憲法14条に反するのではないか
(2)思想・良心の自由を保障した憲法19条に反するのではないか
|
|
これらは『精神的自由』と関連する問題になります」
精神的な自由は、誰にも保障されているので、入館拒否の理由にはならない気もするが・・・
「したがって、『町の文化や財産、産業を守るため』という入館拒否の理由が、本当に必要なものであったかどうかを吟味しなければなりません。
これは、私個人の意見ですが、この博物館が捕鯨の歴史や文化を展示していることから、『町の文化や財産、産業を守るため』という拒否した理由は、妥当なものだったと考えます」
では、拒否した方法・手段の妥当性については、どう考えるべきなのだろうか。
「『反捕鯨』の立場の外国人を対象として入館を拒否するという手段が、必要最小限度のものだったかどうか、判断しなければなりません。
ここでは、原告らが入館しようとした際の立ち入り方が問題となるでしょう。また、入館拒否以外の手段を取ることができなかったかどうかといった、個別具体的な事情を考慮して判断することになります」
確かに、たとえば普通の入館者として秩序を守って静かに入館したのと、捕鯨反対のプラカードを持ってシュプレヒコールをしていたのとでは、大きく判断が分かれそうだ。
「はい。これは、憲法問題を含む難しい問題です。意見が分かれるでしょうので、裁判所の判断が注目されます」
捕鯨問題では、国内でも様々な意見があるだろう。ただ今回は、捕鯨問題だけでなく、憲法の問題という視点も加えて裁判ウォッチしたいものだ。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
森 一恵(もり・かずえ)弁護士
三重弁護士会所属。三重弁護士会両性の平等に関する委員会委員長、日弁連憲法問題対策本部委員
事務所名:三重合同法律事務所
事務所URL:http://miegodo.com/
|
|
|
|
Copyright(C) 2024 bengo4.com 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。