「ゴミ屋敷禁止法案」では問題を解決できない 「ゴミ弁連会長」が指摘する深刻な課題

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2014年06月19日 11:21  弁護士ドットコム

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敷地内に大量の廃棄物をため込んだ「ゴミ屋敷」。周囲に広がる悪臭や衛生上の問題から、周りの住民が迷惑しているケースも少なくない。ところが、ゴミを撤去してくれと申し入れても、家主が反対すれば、強制することは難しいのが現状だ。


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こうしたことから、自治体がゴミの撤去を勧告できるようにする「ゴミ屋敷禁止法案」がこのほど、野党4党から国会に提出された。この法案では、「ゴミ屋敷」が原因で周辺の生活環境が損なわれている場合、自治体がゴミの撤去を勧告できるようにする。勧告に従わなかった場合は50万円以下の罰金となる。一方で、撤去に費用が掛かる場合の費用補助も盛り込まれた。



ゴミ問題にくわしい弁護士は、今回の法案をどう見るのだろうか。「闘う住民と共にゴミ問題の解決を目指す弁護士連絡会」(ゴミ弁連)の会長をつとめる梶山正三弁護士に聞いた。



●「ゴミとは何か」という問題


「行政が『ゴミ屋敷現象』に対処できなかった最大の原因は、何でしょうか。それは、『ゴミ』と『ゴミでないもの』の区別が困難だという点です。ゴミ屋敷の主人が『これはゴミでない』と言い張ったらどうするのでしょうか。この点が、この法案では何ら解決していません」



このように梶山弁護士は指摘する。ゴミとはいったい何なんだろうか? 提出された法案は、「廃棄物処理法」でいうゴミと同じだと定義しているが・・・。



「廃棄物処理法では、ゴミを『汚物又は不要物』としていますが、これは、出来の悪い定義です。『汚物』はともかく、『不要物』かどうかは持ち主の考え方しだいですよね。ある人にとっては不要であっても、他の人にとっては使えるものであったり、価値のあるものであったりします」



たしかに、家族の中ですら、モノを「捨てる」「捨てない」でケンカになることもある。


「自治体としてみれば、生活環境が損なわれている原因が『ゴミの大量の滞留』であるかどうか、きちんと判断できなければ、撤去勧告もできません。さらに刑事罰を科するには、法的に厳密な認定が必要になります。こうしたことから、ゴミの定義は大変、重要なのです。立案した人は、こうした現場の難しさを理解していないのでしょう」



●勧告や罰金くらいでは、ゴミ撤去の勧告に応じてもらえない


「もう一つの大きな問題が、多くの場合、ゴミ屋敷の主人が『勧告に応じない』という事態が予想されることです。そうしたケースでは、たとえ罰金を科しても、なかなか事態は改善しないでしょう」



それでは、ゴミ屋敷問題はどのように解決すべきなのだろうか?



「問題の抜本的解決には、2つあります。1つは『ゴミと認定するための判断基準』を新たに創設することです。もう1つは、ゴミ屋敷の撤去に簡易な行政代執行の規定を設けて、一定期間撤去物の保管規定を作り、それらの費用を請求するシステムを作ることです」



ゴミかどうかを判別するための客観的な基準と、ゴミをひとまず移動させられるルールをつくって、行政の対応を促すということのようだ。



ただ、ゴミ屋敷の住民は、貧困や社会的からの孤立など、様々な問題を抱えていることも多い。ゴミ屋敷への対処については、そうした視点も踏まえたうえで、どのような対処が良いのか、議論を詰めていく必要があるだろう。


(弁護士ドットコム トピックス)



【取材協力弁護士】
梶山 正三(かじやま・しょうぞう)弁護士
東京都公害研究所職員から転身。関弁連公害環境委員会の委員長を6年務める。宇都宮大、滋賀大、東大、埼玉大等の非常勤講師。2000年〜現在、「闘う住民と共にゴミ問題の解決を目指す弁護士連絡会(ゴミ弁連)http://gomibenren.jp/」会長。
事務所名:駒ヶ岳法律事務所



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