東京・永田町の首相官邸前に立つ国会記者会館を管理しているのは、新聞やテレビなどのマスメディアが集まった記者クラブの一つである「国会記者会」だ。日本の記者クラブについては、その閉鎖性が国際的にも指摘されてきたが、近年は少しずつオープン化の方向に向かっている。
【関連記事:なぜネットメディアは国会記者会館を使えないのか?〜国会記者会事務局長に聞く(上)】
しかし、国会を取材する国会記者会の壁は厚く、ネットメディアやフリージャーナリストの参加を認めていない。官邸前デモの取材のために、国会記者会館の屋上にのぼらせてほしいという要望に対しても、「会員でないメディアやジャーナリストの屋上利用は認めない」という姿勢をとっている。
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それは、なぜなのか。元共同通信政治部記者という経歴をもつ国会記者会の佐賀年之事務局長に、その理由をたずねた。
・なぜネットメディアは国会記者会館を使えないのか?〜国会記者会事務局長に聞く(上)
http://www.bengo4.com/topics/1746/
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――大きく見れば、メディアそれぞれの役割や特性があると思います。しかし、いまここで伝えたいのは、いまこの現場で起きていることをちゃんと撮影するためには、この建物の上にあがったほうがいい、ということです。屋上にあがれば、上からデモの様子を見れるわけですから。そういうふうに考えるのは、ジャーナリストとして自然だと思うんですが、なぜ、それを止めるのか。同じジャーナリストであるのにもかかわらず、なぜ止めるのですか?
「屋上を管理している人間は、そんなにたくさんいないんですよ。カギを開けたり、閉めたりしている人は」
――屋上のドアを開け閉めするのに、そんなに人数はいらないと思いますけどね・・・
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「(重要なのは)信頼できるかどうか。ここはこう使ってくださいというとき、信頼できる人。いちいちじっと見ていないと、何をするか分からないというのではなくて」
――信頼性の問題ですか?
「危ないことはやめましょうというのは、一応あります。(国会記者会の会員社同士は)お互いに手をしばる、足をしばるという申し合わせをやっていますから。だから、そういう信頼があるのと、あの人は何をやるか分からないというのでは・・・」
――逆にいうと、信頼できるメディアであれば、会員以外の社でも、屋上に入るのを認めるということですか?
「それは、一般的には、認められるでしょうけどね」
――では、白石さんは、信頼できないということですか?
「まだ、ね」
――なぜですか?
「知らないからですよ。白石さんがどういう人なのか知らないから」
――だけど、2年間かけて裁判をやってきて、かなりわかったと思うんですけど。
「裁判をやるというのは、戦うことですから。それぞれウイークポイントをいろいろ暴き出したり、矛盾点を突いたりすることだから。裁判の中でも『敵ながらあっぱれ』という部分と、『ここは怖いね』という部分や『あまり仲良くなりたくないね』というのがあるから。白石さんが言った中で大きなポイントは『国会記者会は、英国のBBCの委託を受けた記者には取材を許したではないか。なぜ自分を認めないで、BBCを認めたのか』という点です」
――海外メディアは入れるんですか?
「ごくレアケースで、認めたことがあります。私自身は『独占しなければならない』と意識していませんでしたから」
――「独占」というのは、どういう意味ですか?
「屋上での取材というものを国会記者会だけが独占すべきだと、そのときは思っていませんでした」
――「そのときは思っていなかった」ということは、「いまは思っている」ということですか?
「いまは、ノーコメントですね」
――いまは「独占すべき」と思っているかもしれないし、思っていないかもしれないと?
「そうですね」
――いまは「独占するべきだ」と思っている可能性があるということですか?
「それは、なんともいえない。それよりも、BBCを認めたんですよ。それが、彼女は悔しいらしいですね」
――白石さんのことはともかく、新しいメディアから申請があったときに、信頼できれば、屋上に上がることを認めてもらえるんですか?
「一般的には、そうだと思いますよ。つまり、そのメディアは我々との信頼もある、と。ただ、新しいメディアは、我々と同じような取材するかというと、おそらく違う取材をするでしょうね」
――でも、この建物の上からそんなに新しいこともできないと思いますが・・・。ただ屋上にあがって、下を撮るという基本的なことをするだけです。
「視点や目線は、会社によって違います。『えっ、あいつ、あんなことを、ああいうふうに撮ったのか』と。そうすると『やられた』というのが、あるわけですよね。『やられた』ということになるかもしれないのに、むざむざと『君はどうぞ、独自の視点で撮ってよ』と、そんなことは、やらないでしょ?」
――それは、自分たちがもっている建物に「入れてください」と言ってきたのなら、わかりますよ。
「それに、『白石さん、どうぞ』と言うと、『白石さんだけなのか』と言って、いろんな方がくる」
――そうでしょうね。
「昨日(6月30日)だって、白石さん、10人ぐらいと一緒に来ていたんですよ」
――でも、なぜダメなのか、やっぱりわからないですね。
「優秀な人がどっと来ますよ。そうなると、10人のうちで誰を認めて、誰を認めないのか。余計なというか、いまはそういう管理をしなくてもいいのに、新たにそういうことをしなくてはいけない」
――たとえば、共同通信が新しいところで取材をしたいと思って申請を出したとき、「朝日新聞はOK。毎日新聞もOK。でも、共同通信はダメです」と言われたら、「なぜだ?」と思わないですか?
「思うだろうね」
――思いますよね。同じじゃないですか?
「あまり、そういうことはなかったからね。『共同通信はダメだ』と言われたことは、あまりないんじゃないですか」
――もしも、そうなったら、ということですよ。
「それは、気持ちはわかりますよ」
――フリーの人だって、同じじゃないですか?
「同じなんだけど、それを認め出したら、どんどんガイドラインを使わないといけない。議論はしていたんですが、屋上にあがった人たちがヘンなことをしないように、ちょっとした監視や、こういうことをしてはいけないという禁止項目を作って・・・。それを誰が見るのか、ということもある」
――事務局がやればいいんじゃないですか?
「事務局はそれぞれ仕事があって、できるだけ人数を少なくして、やっているわけです。そこに、まったく想定していなかった『屋上での取材』を審査するため、委員会を作ったりしないといけないとしたら・・・。その作業は『いずれやろう』ということになっているんだけど、裁判になってしまったから。そういう作業は、なかなか大変なんですよ」
――でも、いまだって、テレビの人も屋上にあがっていますし、日経新聞の人もあがっています。屋上から撮影すれば、下では撮れない絵が撮れるって、普通にわかりますよね?
「今日も、ある人から電話を受けました。『(白石さんたちが6月30日に国会記者会館の屋上から撮った映像は)すごくいい映像だ。ところが、いろいろと記事を読んでみると、あなたたちはあの人が不法に入ったといって、刑事告訴するそうだね』と。『いや、そんなことは聞いていません』と言うと、『いや、告訴すると書いてあったよ。なんでそんなことするんだ。けしからん』という抗議を受けました。(白石さんたちは)そういう素晴らしい志向のものを撮っている、と」
――そうすると、ライバルはできるだけ排除したいということですか?
「というのは、おそらく否定できないでしょうね」
――「自分がお金を出して買って運営している建物に、ほかの人を入れたくない」というのはわかるんですが、国の財産で、国民の税金で維持されているものを、タダで借りているという人が、そういうライバルを排除するという論理をかかげるというのは、はたして正当なんでしょうか?
「正当なのか、というほど、やましいかというと・・・。何年もかかったあとに、国が『この団体に記者会館をまかせれば、適切に運営するだろう』と考えて、この建物をタダで貸してくれた。そのように信頼されているということは非常にありがたい。昔は、信頼されていなくて、『新聞記者がいろいろ汚い手を使って取材している』と言われたりしながら、『我々を怒らせると怖いよ』みたいなところでやっていたのかもしれない。だけど、この建物をまかされた。まかされたからには、ちゃんとしたいな、と」
――もちろん、借りた建物をちゃんと運営するというのはわかりますよ。
「そのとき『(フリーの人たちも)さあ、どうぞ』となったら、かっこいいですよね」
――「誰でも彼でも入れろ」と言っているのではなくて、信頼できるメディアや記者が入ることで、国民の知る権利に応えられるのではないか、ということです。
「それは否定しない」
――そういう人たちを、単に「自分たちのライバルだから」という理由で排除するというのが、正しいことなんですか?
「いや、だから『BBCはどうぞ』と言ったんですよ」
――BBCや海外のメディアはある意味、ライバルでなかったりする。そういうライバルでない人は認めるけど、ライバルになる可能性になる人は入れないというのは、正しいんですか?
「必ずしもね・・・。ちょっと、狭量だよね、それは」
――それは、悲しくないですか?
「いや、別に。反省もなにもしていないけど、その指摘はわからないでもないね」
――たとえば、朝日新聞が紙面では立派な論説を書いているのに、一方で、自分たちのライバルは入れないぞという立場に立っているというのは、矛盾しないですか?
「朝日さんがそういうことを考えているかどうかは、わからないな」
――朝日新聞は「別に入れてもいいんじゃないか」と言っているということですか。朝日新聞は、記者会見のオープン化とかにも好意的ですからね。
「少なくとも、私のような言い方はしないんじゃないでしょうかね」
――そうすると、読売新聞ですか・・・
「いや、読売さんだって、ひらけていますよ」
――では、どこですか。テレビ局ですか?
「あ、テレビね・・・それは取材してみてください。僕は『そうだ、テレビ局だ』と言わないけど、それぞれがどう考えているのかというのは、いい視点かもしれません」
――記者クラブに入っていないメディアが取材のアクセス権を求めて行動するというのは、だいぶ前からあります。5年ほど前からは、記者会見のオープン化が進み、いまは首相会見にも入れるようになっているわけです。
「うん。うまくいったね」
――ただ、首相会見は、すべてのメディアが参加を認められているわけではなくて、内閣記者会が『信頼できる』とお墨付きを与えたところだけが入れるわけですよ。そういうメディアやジャーナリストは、国会記者会館に入れてもいいのではないかと思うんですが、それはダメなんですか?
「それは、示唆に富むんじゃないですか。民主党政権の岡田外務大臣や枝野官房長官が、記者会見をオープンにしたということは、歴史に検証される、と。いいことじゃないですかね」
――内閣記者会が認めているジャーナリストを、なぜ、国会記者会は認めないのか?
「内閣記者会というのは、内閣を取材する人たちの集まりでしょ。国会記者会は、最初に説明したように、社の集まりですから」
――形式上はそうかもしれないですが、実際上は大きく変わらないのでは?
「国会記者会の場合は、(国会に出入りできる)バッジとカードを得てきた歴史があるんですよ。国会記者会のレーゾンデートル。これがあれば、国会の中でどこでも取材できるという、ある意味、特権的な既得権をもってきた。それはもう、一番トップを走っているわけです。ネットとか、外国人の記者会とかいろいろあるけど、なかなかそんなに潤沢には取材アクセスはできないんです」
――国会の中に入れるかどうかというのがあるというのは分かりますけど、この建物は国会ではない・・・
「いや、このバッジとカードがあるから、国会記者会館に入れるわけです。あるときは汚いこともやって、かつては『車夫・馬丁・新聞記者』と言われたけれど・・・」
――いま、やっていることも汚い気がしますけど・・・
「それは否定しない」
――そうなんですか?
「そういう連中が、『この建物を使っていいよ。ここを使って、うまく国会報道をしてくれたまえ』と言われて、貸し与えられたわけです。別に『ネットさんも、週刊誌さんも、どんどんきなさいよ』ということをしなくてもいいわけでしょ?」
――「国会に入れてくれ」というのではなくて、「国会記者会で管理している建物の屋上に、ほんの一時期、あがらせてください」というだけですよ。なぜ、それがダメなのかな、と。
「それは、(白石草さんと国会記者会の)裁判をトレースしていただくと、わかると思いますよ」
――会員でないメディアをすべて閉め出しているのならば分かりますけど、全部がダメなのでなく、BBCが入った実績はあるわけですよね?
「それは、こちらが隠してもいない」
――信頼できるかどうかの基準が、よく分からないんですが・・・
「信頼というのは、すごく考えないといけない。いろいろな付き合いがあって、『こいつ、まあ、そんなに違っていないな。いいこともやっているじゃないか』とか、『あることについてはしゃべらないけど、できるだけ誠実にしゃべろうとしているな』とか、そういうことですよ」
――完全に信頼できるかどうかは分からないけれど、ヘンな動きがあったら監視役が止めに入るという防御措置を取ったうえで、屋上に入れるという対応もありえるのではないですか?
「現実はそうかもね」
――なぜ、そういうことができないのか?
「それは、大変だからですよね。それと、裁判になってしまったからね。だから、裁判が終わってから、冷静に・・・」
――もし野党の政治家とかが、この国会記者会館に入ってきて「屋上から撮りたい」と言った場合は、どうなるんですか?
「怖いですよね・・・。いい質問です。怖いですよ」
――共産党の議員とかが「国会議員だから入れろ」と言ってきたら、どうなるのか?
「それは怖いですね。なんとか、そういうことにならないように、願うしかないですよ」
――いままで、そういうことはないんですか?
「いままでは、幸いにしてね。みなさんがけしかけたら、どうなるか分かりませんよ」
――この国会記者会館については、国が判断して、国会記者会に管理をゆだねているわけですよね。とはいえ、もともとは国が持っているものだから・・・
「誰を入れて、誰を入れないのか、という最終的な判断権は国にある、と言っていますよ」
――誰を入れるのかというとき、国に相談しているんですか?
「それは、相談していません。まかされているんですよ。まかされたら、うれしい。信頼されているんだから」
――ということは、国を訴えることも可能なんですか?
「だから、白石さんは、国を国賠(国家賠償請求訴訟)で訴えたわけです。我々に対しては、普通の民事の賠償請求です」
――もし我々が「国会記者会館の屋上を使わせてほしい」というとき、どういう手続きをとればいいですか?
「うーん・・・。国会記者会には153社がいて、19社の幹事社があります。それに、常任幹事というのがいるので、そういう人たちに『使わせてくれ』ということになりますね」
――常任幹事というのは、固定されているんですか?
「持ち回りです。ただ、なぜか1社だけ、動かない社がある」
――そうなんですか。
「常任のなかの常任」
――それは、ずっと固定なんですか?
「固定です」
――1社だけですか?
「1社だけ。常任幹事は4社あるんですけど、その中の1社は、動かないんですよ」
――NHKですか?
「ときどき入っていることはあります」
――読売新聞ですか?
「いいえ」
――もしかして、共同通信ですか?
「はい」
――佐賀さんと同じですね・・・。ということは、事務局長も共同通信の方がなるんですか?
「どこにも、そんなことは書いてありません」
――慣例としては、そうですか?
「それは否定しません」
――常任オブ常任。本当の常任ですよね?
「否定しませんが、『なぜ共同なのか』というご意見は、よく聞きますね」
――では、共同通信はいつでも常任幹事だから、共同通信に言うのが一番早いということですかね?
「そうかもしれませんね。逃げられないでしょうね、共同通信は。ただし、みなさんがご存知の方たち(フリージャーナリスト)の中には、衆議院に『使いたい』という要望を出された方もいらっしゃるんですね」
――共同通信が、国会記者会の「動かない常任幹事」ということですね。
「そうです。それは間違いありません」
――実際に常任幹事をしているのは、政治部長ですか?
「政治部長です」
――では、いまの共同通信の政治部長の方にあてて、「使わせてください」とお願いを出せばいいということですね?
「それは、逃げられないでしょうね。そして、『こういうことを言ってきたよ』と、事務局に送られてくるでしょうね」
――それが、佐賀さんのところにきて、結局、佐賀さんと話をすることになるんですかね?
「裁判もあるということで、なかなか簡単ではないですが・・・。白石さんたちとの裁判では、いろいろな論点がありましたから、それを勉強されるといいでしょう」
――判決はいつですか?
「10月14日です」
(この佐賀年之・国会記者会事務局長に対するインタビューは、2014年7月1日の夕方、東京・永田町にある国会記者会館の会議室でおこなわれた)
・なぜネットメディアは国会記者会館を使えないのか?〜国会記者会事務局長に聞く(上)
http://www.bengo4.com/topics/1746/
(弁護士ドットコム トピックス)
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