他人に寄贈した建物から「千両箱」が見つかった! 「お宝」は誰のもの?

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2014年07月08日 11:21  弁護士ドットコム

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大判・小判がザクザク入った「千両箱」が、江戸時代に「伊勢商人」として知られた豪商の邸宅の蔵から見つかり、話題を呼んでいる。この邸宅は月2回(毎月第3金曜・日曜)一般公開されていて、6月中旬以降、見つかった大判・小判が展示されているという。


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報道によると、千両箱が発見されたのは、豪商の子孫である長谷川家の14代当主から、三重県松坂市に寄贈された旧邸宅の蔵。千両箱は、同市教育委員会の職員が今年2月、調査中に見つけた。なかには、数百万円の値が付くこともあるという享保大判金のほか、慶長小判など54点が入っていたそうだ。



長谷川家は、千両箱も市に寄贈したと報じられているが、もし他人に寄贈した家から、財宝や埋蔵金が見つかったとすれば、自動的にそれも合わせて寄贈したことになるのだろうか。坂野真一弁護士に聞いた。



●「落とし物」と同じ扱いになる


「今回の千両箱については、長谷川家も存在を知らなかったようです。かなりの価値があるものですから、合理的に当事者の意思を解釈すると、長谷川家が家屋を寄贈する際、この千両箱も含めて寄贈する意思まであったとは、認めにくいのではないでしょうか。



また、千両箱は必ずしも、この建物で常用するための、たとえば畳のような従物(付属物)ともいえませんから、家屋の処分に従わせることもできません(民法87条)」



そうすると、千両箱は、誰のものになるのだろうか。



「その場合は、長谷川家が知らない間に、所有物の占有を失ったと考えられるでしょう。したがって、民法240条以下により、遺失物法が適用されると考えるのが妥当ではないでしょうか」



つまり、「落とし物」と近いような状況になる?



「そういうことになりますね。所有権は元の持ち主のままです」



●元の持ち主に返すか、警察に届けるか


すると、市の職員は「落とし物を拾った」という扱いになるわけだ。



「遺失物を拾得した人は、速やかに元の持ち主に返還するか、警察署長に届ける必要があります。もし警察に届けられて、一定の公告期間の間に持ち主が現れなければ、拾った人などに所有権が移ります。普通の遺失物の場合、公告期間は3カ月です」



今回は、元の持ち主がすぐ分かるケースだから、連絡を受けた長谷川家が、なんとも太っ腹なことに「千両箱も寄贈した」のだろう。



ちなみに、もしその千両箱が「埋蔵物」だったとしたら、元の所有者がわからないときの扱いが少し違うそうだ。



「埋蔵物だと、公告期間が6カ月になります。そして、他人の所有する物から埋蔵物が発見された場合、所有権は『発見した人』と『その物の所有者』との折半になります」



その埋蔵物とは、土に埋もれているもの?



「埋蔵物と言えば地面に埋もれているイメージがありますが、それだけには限りません。判例では、『土地その他の物の中に容易に目撃できないような状態に置かれ、しかも現在何人の所有であるか分かりにくい物』(最高裁判例昭和37年6月1日付)とされています。



たとえば、糸玉の中に存在していた札束は埋蔵物と解されています。土を掘る、壁を壊す、衣類をほどくなど、それなりの労作をして、初めて認識することができるものは、『埋蔵物』ということですね」



それでは、今回の千両箱は、どちらの扱いになるだろうか。



「報道によれば、問題の千両箱は、蔵の2階の棚を調べていた際に、他の箱の影に隠れていたということです。千両箱を認識するために特定の労作を要するとまではいえませんから、埋蔵物ではなく、普通の遺失物として扱うのが妥当と考えられます」



坂野弁護士はこのように話していた。



自分のものにならなくてもいいから、「千両箱を見つけたときの興奮」をいちど味わってみたいものだ。


(弁護士ドットコム トピックス)



【取材協力弁護士】
坂野 真一(さかの・しんいち)弁護士
イデア綜合法律事務所 パートナー弁護士。関西学院大学、同大学院法学研究科非常勤講師。著書(共著)「判例法理・経営判断原則(中央経済社)」。最近は火災保険金未払事件にも注力。
事務所名:イデア綜合法律事務所
事務所URL:http://www.idea-law.jp/



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