「渋谷系」とは一体何だったのか

4

2014年09月14日 11:12  BOOK STAND

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

BOOK STAND

『渋谷系』若杉 実 シンコーミュージック
1990年代には「渋谷系の聖地」と言われ、惜しまれつつも2010年に閉店したHMV渋谷店。そのHMVが今年5月末に閉店したばかりの、渋谷宇田川町の老舗レコード店DMR(DANCE MUSIC RECORDS)跡地に再オープンし話題となりました。

 そもそも、いわゆる「渋谷系」というと、いったい何を思い浮かべるでしょうか。

 世界一のレコード村と呼ばれる程までに宇田川町一帯に林立したものの、そのほとんどが今はなきレコード屋の数々。六本木WAVE、下北沢ZOO、ラヴ・パレード、エル、サバービア、トラットリア、クルーエル、コンテムポラリー・プロダクション、セゾングループ、オリーブ少女、過去の音源の発掘・再発......そうした数えきれない程のキーワードが次々と浮んでくるものの、渋谷系という言葉にははっきりとした定義はなく、それだけにその全体像をとらえるには、音楽のみならず、本、映画、ファッション、カフェをはじめとした文化全般、さらには企業の戦略等の様々な社会的な要因からも考察しなければなりません。

「渋谷系」の著者、若杉実さんは「渋谷系とはなにか?」と問われた時、これがすべてと胸を張って言える、或る一日の出来事があると言います。

 91年8月17日、公園通りのカンパリビル4階にあるDJバー・インクスティック。店のプロデュースをするDJの小林径さんに連れてきてもらった若杉さんは、ここで自身最初にして最後かつ最大の、渋谷系というものを全身で吸収することになったクラブイベントを体験したのだと述べます。

「すし詰め状態のエレベーターに運ばれ店のある4階のところでランプが止まると、視界に飛び込んできたのは黒山の人だかり。小林の後方につき人垣をかき分けていくと、そこで目のまえにいた一群がいっせいにこっちを振り向く。『あ、径さん』と言ったのはたしか小沢健二で、そのすぐ横の女の子がぼくを観るなり『あれ、田島くんの弟?』と言う。その声は、かつて『夕やけニャンニャン』でしか耳にしたことがなかった渡辺満里奈のものだった」

 イベントの出演者は、小沢健二さん、小山田圭吾さん、小西康陽さん、高波敬太郎さん、サエキけんぞうさん、高橋健太郎さんら豪華なメンバー。そしてお客の大半は床に座り込み、オーケストラやストリングス、効果音がゆっくりと流れる方にみな顔を向けて、その音を聴いていたのだそうです。それまでヒップホップやレアグルーヴ、ディスコ系のクラブイベントしか知らなかった若杉さんにとって、そこで目の当たりにしたスタイルは衝撃的だったのだと言います。

 こうした若杉さん自身の体験した数々の臨場感溢れるエピソード、そして当時のシーンの中心にいた関係者たちの証言を含みながら、本書では「渋谷系」と呼ばれるシーンの勃興から衰退について、様々な角度から丁寧に検証されていきます。
 
 渋谷系とは一体何だったのか。漠然としがちなその全体像の詳細をとらえることの出来る一冊となっています。



『渋谷系』
著者:若杉 実
出版社:シンコーミュージック
>>元の記事を見る



前日のランキングへ

ニュース設定