怒髪天の歌はなぜ心に響く? “遅咲き”バンドが支持を拡大し続ける理由

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2014年11月26日 15:11  リアルサウンド

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11月26日にミニアルバム『歌乃誉“白”』をリリースした怒髪天。

 中高年に対して「等身大」という言葉が成立するのかは解らないが、いわゆる“おっさん”のリアルを体現しているのが怒髪天というバンドである。笑いあり、涙あり、ドリフターズさながらの楽しい大人たちの象徴だ。労働、酒、男の愚かさ……世間ではカッコイイとは言いがたいものを堂々と掲げる、価値観の逆転である。


(参考:“絶頂期”を迎えるベテランバンドが増加中 エレカシ、怒髪天、人間椅子らが今輝く背景とは


 実演販売や自衛隊隊員など、音楽と離れた異例の経歴を持つボーカル・増子直純が通常のアーティストに見られない日常を映し出し、長い活動歴による確固たるバンドとしての実力が裏付けされて、若手バンドには出せない深みを醸し出す。アクも強く、一度聴いてグっとくるようなものではないかもしれない。じわじわとその魅力に気付くという味わい深さを感じるバンドである。


・『歌乃誉“白”』でみせる「リズム&演歌」


 結成30周年アニバーサリーイヤー記念盤『歌乃誉“白”』は、バンドの魅力である“男”を感じさせる豪快なバンドサウンドを聴かせた前作『男呼盛“紅”』とは一味違う、タイトル通り“歌もの”としての熱さが凝縮された内容だ。両作とも同郷・北海道の先輩であり、旧知の間柄でもある上田健司をプロデューサーとして迎え、30年目にして初となった武道館公演がバンドとしての自信とさらなる飛躍に繋がったのか、極力ダビングを抑えたサウンドとバンドアンサンブルには今まで以上にすっきりとした潔さを感じる。


 バンド初の試みとなるストリングスアレンジの「ひともしごろ」で今作は幕を開ける。ありそうでなかった、このドでかいスケール感は、自問自答するニヒルな男の生き様を、ドンと背中で見せてくれているようでもある。その後は、〈バカでよかった!(バカでいがった!)〉と連呼で始まる「バカディ・ガッタ!」、〈なんだかんだで俺は生き残る〉と怒髪天節全快の図太さを感じさせる「どっこいサバイバー」へと続く。決してサウンドに幅を持たせるバンドではないが、「JAPANESE R&E(リズム&演歌)」と自ら称する言葉からは、さまざまなジャンルを標榜していることが解る。スウィングのノリが心地良い「人生○×絵かきうた」、増子のがなるような叫びが心にしみる「明日の唄」、スネアドラムのロールとバンジョーが印象的で、カントリー・リックにあわせて走る“道産子キカン坊”たちの「ジャガイモ機関車」。全く方向性の異なる6曲だが、すべての楽曲に対して、命が吹き込まれたような一本筋が通った生々しさを感じるはずだ。曲のバリエーションは多いが、サウンドはまさに怒髪天でしかないのである。


 暑苦しいくらいに真っ直ぐで武骨な増子のボーカルが強烈なインパクトを与え、笑いも提供してくれるが、三枚目なコミカルバンドに収まらないのは、しっかりとした音楽性の土台と器用なまでに何でもこなしてしまう、演奏陣に支えられているからだろう。坂詰克彦のドラムと清水泰次のベース、強靭なリズム隊は海外バンドを思わせるグルーヴを生み出し、ギターが色を添えていく。怒髪天サウンドを司るのは紛れもなく、ギターだ。松山千春を原点に、高崎晃のギターに魅せられ、憂歌団を愛し、ヴァン・ヘイレンをBGMに筋トレにはげむ、“王子”こと上原子友康。テクニックがあるとか、凄腕であるとか、そういう言葉ではなく、何でもそつなくこなしてしまう“うまさ”がある。例えメタルを演奏しようとも、それにあわせたサウンドメイクを施すこともなく、どんなジャンルでも自分の音で勝負していくスタイルだ。形から入ることはなく、使い込まれたストラトキャスター1本あればいいという芸達者なプレイ。そんな器用で職人的な腕の立つプレイヤー揃いのバンドではあるが、あまりに悠々と演奏しているために、それがなかなか外に伝わっていない節もある。いや、本人たちは「楽しいから、好きだから」というスタンスでバンドをやっているだけで、個々の技術云々にはあまり関心がないのかもしれない。


・活動休止という転機


 怒髪天はバンド・ブームの追い風を受けるように91年にデビューしたが、96年に活動休止している。デビュー盤『怒髪天』はジャケット題字が北島三郎という力の入れ具合だったが、その後は順風満帆といえるようなものではなかった。音楽シーンが大きく変わろうとしていた90年代中頃、アメリカからはオルタナティブ・ロックが、そしてイギリスからブリット・ポップのムーブメントが日本にも押し寄せる。その波に乗って、音楽性を変化させたり、新しいサウンドを見せるバンドも登場したが、波に乗れなかった多くのバンドが去っていった時代でもある。そんな中、彼らは自らを見つめなおす選択をした。怒髪天の活動停止と入れ替わるかのごとく、増子の実弟である増子真二のDMBQがサイケデリック・ロックを軸とし、実験要素を持ち合わせた斬新なサウンドで注目されるようになったというのも時代の流れを感じる事例だろう。


 1999年にインディーズとして活動再開。2004年の再メジャーデビューからの快進撃はご存知の通りだ。


・「遅咲きバンド」の道産子魂


 1999年、同じく北海道からコンテストで優勝したBUGY CRAXONEがメジャーデビューを果たした。タイアップなども多く、かなり期待された節もあったが、セールス的に成功といえるものではなかった。そして、2003年に自主レーベルを立ち上げインディーズでの活動を開始したものの、苦悩を抱えたバンドは同郷の先輩である増子に相談を持ちかけている。そして、増子の主宰するレーベル・Northern Blossom Recordsの第一段アーティストとして移籍した。BUGY CRAXONEは鋭利なサウンドと、負の感情を吐き出して叩きつけるような世界観を持つ、怒髪天とは似ても似つかないバンドである。しかし、移籍後は何かを悟ったように、どこか達観したような前向きな明るさを持つバンドになった。「悩むより曲を作り続けること、行動し続けることが大事なんだよ」と増子に言われたと、すずきゆきこ(Vo. & Gt.)は語っている。デビューできたからとて、成功できるとは限らない。増子は、そんな自分たちと似た境遇の同郷の後輩に手を差し伸べたのだ。こうして、道産子魂は継承されていく。


 Northern Blossom Recordsの掲げるコンセプトは「北の花盛りは、遅い。しかし、必ず花は咲く!」である。自らの「遅咲き」っぷりを身を持って掲げているのである。


 怒髪天はカッコつけたロック、お洒落なファッション音楽などとは無縁なところにいるバンドだろう。だが、だからといってダサいのかといえば、そうではない。むしろ最高にカッコいいのだ。「夢をあきらめるな、必ずかなう」なんてことも言わなければ、「上を向いて歩いてこう」ということも言わない。理想も掲げなければ、説教じみたこともない。人にああしろ、こうしろ言うことはなく、「おれはこんなダメだけど、とりあえず楽しいよ!」と言っているだけなのだ。キレイごとがないからこそ、響くものがある。


 いつもカッコ悪いなと思っている自分を少しだけ褒めてみて、明日を元気に頑張ってみようじゃないか。彼らの音楽を聴くとそう思うのである。(冬将軍)



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  • 緻密な味付けのない、素材を生かした北海道の味覚に通じるモノが。そこがイイ。【怒髪天の歌はなぜ心に響く? “遅咲き"バンドが支持を拡大し続ける理由】 (リアルサウンド - 11/26 15:11)
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